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第217掌 苦しみからの解放 その3



「「狂った死神」になれと言われて、言う通りにしたわ。だって、否定出来ることなんてないもの」


 それからは殺し屋の仕事の後は「狂った死神」の仕業だと思わせるためにカードを残していったそうだ。あの、俺達が拾ったやつだな。


「すでにその頃にはある程度、殺し屋の技みたいなものも使えるようになっていたし、組織が出す仕事は数を増すばかりだった」


 でも、女の子もミスティさんも限界が来ていた。体のではない。心のだ。


「でも、何とか凌いでいたの。私達にはここがあったから」


 実は殺し屋を始めたと同時にこの教会で新しい宗教をひっそりと始めたそうなのだ。名前は昔、女の子を助けてくれた人の所属していたアースラ教。ここで祈ったり、慈善活動をしたりと。そんなことをしていたおかげで罪滅ぼしをしていたという心の支えが出来たのだ。


「そうしていると、あなた達が来たの」


 なるほどな。


「じゃあ、話に出てた女の子がカリーナさんってことか」


「ええ」


 話を聞く限り、心が罪悪感とかで潰れそうになり出してからあの卑屈口調になっていったんだな。


「大会に出るっていうのはその組織からの命令だったのか?」


 俺はそこら辺も聞いておきたくてミスティさんに尋ねた。


「いいえ。私とカリーナは元からアシュラ教の代表として出ることが決まっていたの。命令でね。だからそれは私の淡い希望。もしも教皇になれば私達はこの地獄から解放されるかもしれないっていうね」


 なるほどね。


「話は以上よ」


「ありがとうございました」


「話は分かったが、タカキ」


「何だ?ダンガ」


「この話を聞いてどうするつもりなんだ?」


「うーん。ミスティさんについては考えているんだけどな」


「まだカリーナさんのことはどうすればいいか分からないってことですか?」


 その通りだよ、リリアス。


「ちなみに、私はどうするつもりなの?」


「ああ。それは光天教の補佐をして欲しいんです」


「は?」


「あれ?ダメでした?」


 驚きで固まっているミスティさん。でも、すぐに回復した。


「いやいや!私はあの場にいたのよ⁉そんなことが出来るわけないじゃない!」


「いいえ。出来ます」


「どうして⁉」


「だって、ミスティさん。素顔見せてないし、紹介でもそんなことはないはずでしょ?」


 俺は寝ていたから分からないけど、カリーナさんが「狂った死神」だと紹介されたからそれ以外で紹介されているはずだ。


「だから大丈夫です。頼み事もありますしね。でも、カリーナさんはそうはいかない。例えフードで隠していてもそうだと紹介されたからにはいずれどこかでボロが出る可能性がある」


 根があのネガティブだからな。どこかで暴露しかねない。


「・・・分かったわ。私はあなたの言う通りにする。頼み事も私に出来ないこと以外なら何でもやってあげる。でも、その代わりに一つこっちからも頼んでいい?」


「・・・ええ。可能な範囲なら」


「そう。それじゃ、カリーナを連れて行ってくれない?あなた達の仲間として」


「「え?」」


 一つは俺の。もう一つはカリーナさんからのだ。


「この国じゃもうカリーナは住んでいけないと思うの。正体もそうだけど、心がダメになっちゃう。それにこれからは私達を恨んでいる人が探し始めると思うし」


 確かに。「狂った死神」が偽物だと分かったのだ。今までのような恐怖はすでにない。


 まあ、俺がここにいればその限りではないんだけど。でも、それは出来ない。俺達の活動的にも、拠点的にも。オークスから移動とか出来ないし。あそこ、活動しやすいんだよね。大体のことならハフナーさんとかアルナスさんとか、アネッサさんがどうにかしてくれるし。


「うーん。カリーナさんを仲間にするかどうかはステータスとか、適性みたいなものを視てから決めますけど、連れて行くこと自体はいいですよ」


 ダメならメルエさん達みたいに使用人とかしてもらえばいいし。


「そう。ならいいわ」


「よくないです!私はミスティさんに助けられてばかりです!なのに私はあなたを助けることすら出来ない。このままだと私はあなたに恩を返すことすら出来ません!」


 おおう。必死なのか、ネガティブな部分はあんまり出て来ていない。代わりに気持ち自体がネガティブになってるけど。


「私もここに残ります!私なんかどうなってもいいんです。例え国民全員から蔑まれて、酷い仕打ちを受けても、あなたのためならそれでもいいんです!」


 やれやれ。


「いい加減にしろ」


 ミスティさんに言わせないためにも俺が言う。


「それはミスティさんに依存しているだけだ。あんたは守ってくれるミスティさんのそばを離れたくないだけだ。いつまでミスティさんを苦しめればいいんだ?」


「―――え」


「そもそもミスティさんは普通のシスターだったんだぞ?それをあんた一人を守るために所属していた宗教を止めて殺し屋になり、ここまでしてきた。いいか?あんたがある限り、ミスティさんは救われないんだよ。いつまでもな」


 カリーナさんがそばにいれば、それだけでミスティさんは守ろうとするだろう。このネガティブな人を、ただ自分の大切な友人だという理由だけで。


「―――!」


「別に一生会うなって言ってるんじゃない。これからは別々に生きろって言ってるんだ」


 このネガティブさだ。多少でも矯正していくつもりだし、その過程でミスティさんにも会いに行けばいい。俺の時空魔法があれば一瞬だしな。


「面倒なら俺達が見てやる。そのネガティブ思考も含めてな。俺達の目的とかそういうのが全部終わったら一緒に暮らすもいいさ。その時はまた手を回してやるし」


 仕事はリヒトとかに言えば何とかなるだろうし、住む場所はオークスとかクロノスなら今のところ、用意してやれるし。勿論、その国の協力者にお願いしてだけどね。


「だから、来い。今日から俺達があんたの全部を受け止めてやる」


 そう言って手を差し出す。


「・・・はい」


 俺の手を取り、若干涙声になりながらも小さな声で返事をするカリーナさん。


「さて。それじゃ話はここまでだ。今日はもう休んで明日、全てにケリを付けよう」


「「「「「おー!」」」」」




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