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第210掌 決勝戦 仕返し



「休ませるつもりもないよ」


 ミストの吹っ飛んだ先に目にも止まらぬスピードで接近する。俺以外の人は、俺が急にミストの目の前に現れたかのように見えただろうな。


「な―――っ⁉」


 接近した勢いそのままにミストの腹へ拳を振り抜く。


「ぅあっ⁉」


 そしてなす術もなく再び吹っ飛んでいき、コロシアムの端っこ。その壁に激突する。


「まだまだ」


 俺は再び猛スピードで接近し、ミストのフードの首辺りを掴み、コロシアム中央辺り目掛けて上空へと投げる。


「そら、いくぞ」


 上空へと投げられたミストを中央付近に接近した辺りでミストに追いつき、下へと両手を組んで叩き落す。


「ぁあっ」


「光天教選手!流石にやり過ぎです!すでに決着は―――」


「まだついてないよ?だって、気絶させてないし」


 俺を止めに来た審判が俺の言葉を聞いて真っ青になる。何せ、気絶していない(・・・・・)んじゃなくて、気絶させてない(・・・・・)って言っているんだから。そりゃ真っ青にもなるよね。それだけで、実力と俺が少し怒っていることが分かってしまう。


「うぅ」


 ミストも無意識なのか、起き上がって来ようとしている。起きなければそのまま負けで楽になれるのに。


「ね?だから審判の人も邪魔しないで?流石に戦闘の邪魔をするのは審判としてどうかと思うし。だから―――」


 俺は起き上がろうとするミストの頭を地面に叩きつけて言う。


「次に邪魔したら後でお前も潰すぞ」


 リヒトの件は自分でも分かっているだろう。そしてそれはこっちも分かっているんだぞっていうことを審判にも分からせてやる。


「―――っ。・・・続行」


 俺の脅しが効いたのか、そのまま続行の言葉を残して引き下がる審判。


「ぐぅ!」


 そして審判の言葉とほぼ同時に押さえつけられていたミストが反撃なのか、どこからか出した短剣で俺の腕を斬ろうと試みる。しかし。


 ―――キィン!


 そんな音と共に短剣は俺の腕に当たった瞬間、折れてしまう。


「この程度の武器で傷つけられるとでも思ったわけ?それは心外だなぁ」


 ミストの頭から首に押さえつけている位置を変えて、持ちあげる。


「でも、知り合い(・・・・)のよしみだ。これくらいで勘弁してあげるよ」


 軽く上に放り投げ、そのまま上段回し蹴りを放つ。それにより、ミストは再びコロシアムの端っこに吹っ飛んでいき、壁に激突した。


「審判。確認」


「・・・」


「審判!」


「あ、はい!今すぐ!」


 そそくさとミストの元に駆け寄る審判。


「・・・気絶を確認!この試合、ここまで!第七試合の勝者は光天教、謎の選手!」


『『『・・・・・・・・・・』』』


 静まり返る観客。


 まあ、報復みたいな部分も確かにあったからな。それに実は、観客にも微量の威圧スキルを発動させている。明らかにおかしかったリヒトの第六試合を楽しんでいたんだ。それくらいのことはやられても文句はないよな?


「ふぅ。これで後は最後の選手だけだな。あっちも知り合い(・・・・)みたいだけど。どうしたものかな」


 俺が遭遇したのはさっき戦った方だしなぁ。それにリヒトを酷い目に合わせたのも。だからそこまで意地悪というか、お仕置きというか。そういうのはしないでもいい感じなんだよなぁ。


「―――っ」


 まあ、あっちはそうでもないみたいだけど。明らかにフードの奥から睨んでいる。ミストがやられたことに対して怒っているようだ。まあ、怒るのはいいんだけど、そっちも似たようなことをやったってことは分かっておけよ?そういった感じに睨み返しておいた。


「決勝最後の戦いというわけで、早速最終戦を始めましょう!光天教選手、前へ!」


「おい!まださっきの試合が終わってからそんなに経ってないだろう!なんで急にそんなことになっているんだ!」


 後ろからリヒトが審判に文句を言う。


「そ、その。最後の戦いでも、あ、あるので。興奮冷めやらぬ中でつ、続けてした方がいいかなという運営側からの配慮・・・です」


 俺にビクビクしながらリヒトへ答えを返す。


「そんなことが認められるわけが―――」


「いや、いいよ。俺は大して疲れていないし。やれと言われたらさっきぐらいのことは何度でも出来るし」


 俺のその言葉に審判は再びビクンと震える。


 多分、運営側が焦ったんだろ?このままだと負けてしまうかもしれないって。だからあれほどのパフォーマンスをした俺が疲れている今、仕掛けなければって。そんな感じだろ?まあ、そんなの無駄としか言えないけど。


「で、では。アシュラ教は最後の選手!誰もが知っている。その正体を。誰もが恐怖する。その名を。刻み付けろ。すべては混沌の中へと還る。その名は―――「狂った死神」」


 おいおい。それ、言っちゃうの?っていうか、恥ずかしいこと言わないでくれよ。その二つ名は俺のなんだから。何だか俺が言われているように思っちゃうわ。 


 名前を呼ばれた偽「狂った死神」はどこからともなく身の丈ほどの鎌を出す。


 どうせ、この国で誰もが恐れる「狂った死神」の名前を使って俺をビビらせようって魂胆だろう。それに、ここまで追いつめられなければこんな紹介はしなかったはず。恐らく、俺のように謎の選手みたいな紹介のされ方をしていたに違いない。


 それに、本物相手に偽物が「俺は『狂った死神』なんだぞ」って言ってもアホにしか見えないだろ。


「それでは一回戦第一試合を開始します!両者、準備はいいですね?」


「ああ」

「・・・はい」


「それでは・・・始め!」


 そして宗教抗争最後の試合が始まった。




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