第162掌 も、もう限界
俺達が捕まってから一週間。
その間、俺達はずっと盗聴に掛かりっきりだった。それはもう、どこのニートだって言いたいぐらいにはニートな生活をしていた。でも、仕方ないだろ?だって盗聴する以外は何も行動を起こすことが出来ないんだから。ずっと異空間の中で盗聴しながら自分たちが出来る精一杯の暇つぶしをしましたよ!
そして今、俺達はダイニングテーブルに座っていた。
重い空気の中、俺は重い口を開く。
「かれこれ一週間。全く情報らしい情報がない」
「そうね。いい加減、外が恋しくなってきたわ」
「私、友達に心配されるようになってき出しました」
「俺、そろそろ店の準備したいんだが・・・」
上から俺、アメリア、リリアス、ダンガだ。みんなテンションはかなり低い。
現在、みんなで朝食中なのだが、俺達を見ているメルエさん達はすでに俺達のことを若干引いた目で見ている。そりゃー、同じことを一週間も続けたらこうもなりますよ!しかも、情報らしい情報は一切なし。これは誰だって怠くもなる。
「そろそろ見切りをつけた方がいいな」
俺はそう味も分かっていないような顔で朝食を食べているリリアスたちに告げる。
「そうね。もういいんじゃないかしら。これ以上は本気で時間の無駄よ」
「よし。ならこれで盗聴は終了だ」
「「「やったー‼」」」
本気で喜ぶリリアスたち。立ち上がって万歳してる。そこまで辛かったならそう言ってくれればいいのに。あ、万歳したはいいけど、継続するまでの気力が残ってなかったのか、そのままヘナヘナと椅子に座り直した。
「残りの処理はこっちでやっておくからお前たちは休んでいいぞ」
「はい、すみません。お願いします」
「やっとぐっすり眠れるな」
「分かったわ。ミール、私がしなきゃいけない仕事ってどれだけ残ってる?」
みんなそれぞれ食事を済ませて自分のしたいことをするために散っていく。リリアスとダンガは寝る気だろうけど、アメリアさん。あなた、まだ仕事する気ですか・・・。
「アメリア、お前も一回ぐっすり寝てろ。仕事をするのはそれからでいい」
「でも、まだやらなきゃいけないものが」
「ミール、急ぎの仕事とかないよな?」
「はい。雑用ばかりです。それも私たちで出来るようなものばかり」
「分かったな。さっさと寝てこい」
「うぐっ。分かったわ」
それからアメリアも寝るべく自分の部屋へと戻って行く。
「それじゃ後頼むわ。俺は後処理だけしてから寝るから」
「はい。いってらっしゃいませ」
ミールは頭を下げるのを見てから俺はアリエス教国の牢屋へと転移した。
それにしても、アメリアの教育はすでにここまで行き届いているのか。すでに貴族の使用人とも遜色なくなっている。俺が見る限りではだけど。そういう判断はアメリアしか分からないからな。俺は勿論、リリアスは辺境の村の出だし、ダンガもただの鍛冶師だったしな。
・・・
転移する場所は牢屋なのだが、流石にいきなり現れるのはダメだろう。そう考えた俺は闇魔法で作った幻影がいる場所に寸分違わず転移する。これで幻影を消し、完全に入れ替わることが出来る。
「貴様!いい加減に吐いたらどうだ!」
おや?どうやら尋問の途中だったらしい。牢屋ではなく、尋問室に転移した。
「・・・」
まあ、喋っても仕方ないのでそのまま沈黙を貫く。
「かれこれ一週間!いくら黙っても貴様の仲間が助けに来ることなどない!実際になかっただろう!」
うん。まあ、そうだね。っていうか、そもそも偽物の「狂った死神」さんはまだ捕まってすらいないんだから助けになど来るはずがないよね。まあ、俺としては確認の意味も込めてそういうのが来ることも期待したんだが、本当に来なかった。完全にトカゲの尻尾切りである。
「一週間もの間、口を割らなかったのだ。そろそろ尋問から拷問に移行するぞ」
そう言って入って来たのはリリアスたちの尋問をしていた衛兵。
「そうだな。貴様は牢屋に一旦戻し、拷問の用意に掛かる」
ここらが逃げ時かな。ちょうど逃げたくなるようなことも起こるみたいだし。
俺は拘束されていた手錠・・・は元から幻影に掛けられていただけなので、衛兵の意識を奪うことにより一瞬で無力化する。これも闇魔法の一つだ。『誘う微睡み』。これは対象を常に眠る一歩手前の状態にするもので、起きてもその状態が続く。効力は一ヶ月って所か。これからこの二人は起きては眠るということを繰り返す。俺達のことを話そうにも常に寝ぼけているので要領を得ないという情報を混乱させるのには使える魔法だ。それに食事も取れることには取れるので死んだりもしない。
「さてと。それじゃリリアスたちの幻影も消してっと」
遠隔操作で出していたリリアスたちの幻影を消す。
「それじゃお暇しますか」
俺は転移で屋敷へと戻るのであった。
しかし、これでこの国では素顔を晒して歩くことも出来なくなったな。まあ、取り調べしていた二人があの状態だから派手に行動しなきゃ大丈夫だとは思うけど。全く。俺なんて顔も晒せない、服も違うのを着るしかないとかなり制限を受けてしまった。何なんだよ。相性悪いな、この国!
「よっと」
転移して屋敷に戻った俺はミールたちに戻ったことを伝え、そのまま自分の部屋に戻って深い眠りについた。正直、俺も精一杯だったのだ。『誘う微睡み』は俺から衛兵への仕返しだと考えてもらっていいと言うくらいには俺も眠かった。
明日からはまたアリエス教国での活動を再開だな。
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