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第159掌 原因だった正体は・・・



 殺されそうになっている人物と殺そうとしている人物をこの目で見るために薄暗い路地裏にやって来た俺。


 そもそも、助ける必要性とか全くないんだけど、もしかしたら助けたお礼に何かしてくれるかもしれないし、もし、殺されそうになっている方が悪党とかなら殺そうとしている方に加担したらいいし。・・・なんかこの思考、ちょっと悪党とか犯罪者とかそういう輩になってない?殺そうとしている方に加担って。


 ま、まあ気を取り直していってみよう。


「殺そうとしている方は女で殺されそうになっている方は男か。痴情のもつれか何かか?」


 まあそれはどちらかに味方したときにでも聞けばいいか。


「さてさて。どんな感じかな?」


 隠蔽スキルで気配を隠し、隠密行動スキルでコッソリと覗く。見えていたらこれほど不審な人物はいないだろうな。


 そこには二十代後半でちょっと太り気味の男が腰を抜かして、地べたに座り込んで命乞いをしている姿と明らかに暗殺者ですって感じで全身を真っ黒な服で覆った人物がククリナイフを片手に男ににじり寄っているという場面があった。


「た、助けてくれ!」


「・・・」


「お、お前の狙いは分かっている!私が信仰している宗教が邪魔なのだろう⁉た、確かにこのまま戦っていても我が宗教に勝ち目はない。だが、それでも戦いはする以上、戦力が削られる可能性があるならここでリーダーである私を消しておこうという算段なのだろう」


「・・・」


「だが!私も分かっているのだ!どうせ負けると分かっているのに戦いなどしない!それに負けると分かっているのに戦おうという意思をここでお前に見せて殺されてはたまらん!もう、あの宗教からは抜けるから助けてくれ!」


「・・・」


 男の言い分に一切答えず、しかも知ったことではないといった感じで構えを解かない暗殺者。


「「狂った死神」は依頼には絶対だということは噂で知っている!だが、そこを曲げて頼む!助けてくれ!」


「・・・」


 え?あれが俺の偽物なの?確かに全身真っ黒だし、顔はこれまた真っ黒なフードで隠れていて全く見えない。確かにこれでデカい鎌でも持ってたら死神みたいだな。でも、身長は俺よりも低い。まあ女性としては高い方だが服の上からでも薄っすら分かるくらいには体の線が細い。これは女性とすぐに分かるだろう。


 ・・・あ。もしかして、線が細いってことも死神っぽいって思われている一因になってんの?それならもう何も指摘出来ないわ。お手上げです。


 しかし、あの襲われている方、全然いい奴とかでもないっぽいな。普通にヘタレで小者だ。これは助けてやろうとかそんな気が起きないなー。


 俺がそうこう考えているうちに暗殺者が男ににじり寄って、ついにククリナイフの攻撃範囲に入った。


「ひぃっ!た、頼む!私に出来ることなら何でもしよう!だ、だから命だけは―――」


 そこから先、男が声を発することはなかった。首がコトリと体から落ちた。


「任務完了」


 おっと。声が聴けたぞ。これなら特定することも可能だ。体の形と声があれば識別出来るからな。別に体の形とか厭らしい意味じゃないからな!勘違いすんなよ!


「・・・?」


 おっと。流石はプロ。こっちは気配をスキルで隠して、隠密行動まで取っているってのに勘付いている。ここは撤退しますかね。戦闘になっても困るし。


 俺はその場を急いで離れるのだった。




                  ・・・




「私の索敵範囲に誰かいた?」


 タカキが去った後。暗殺者がそう呟く。


「私に気が付かせないなんて、相当な手練れ。敵対関係にならなきゃいいけど・・・」 


 暗殺者は懐からカードを出す。そしてそのカードを暗殺した男の体、その首があった場所に置く。


「全く、悪趣味。こんなことして何になるってのよ。・・・ふっ。でもこれが汚れた私の運命ってことなのかしら」


 どこか悲観掛かったそんな声を残し、暗殺者はその場から消えた。


『ターゲットは確かに我が鎌で刈り取った。

 より多くの魂が我が元に来たることを願う。

 ―――――「狂った死神」より』


 その場に残されたカードにはそんな文面が書かれていた。




                ・・・




「ふう。ここまで帰ってくればもう大丈夫かな?」


 俺は宿屋の前まで戻って来ていた。


 宿に入る前に深呼吸して精神を落ち着かせてから中へと入る。服が違う以上、誰も俺を見て怯えない。これは収穫だったけど、逆に使えるかもしれない。「狂った死神」を使った情報収集。まあ、結構面倒なことになりそうだけど、試してみる価値はあるな。


 っていうか、そもそも俺、本人なのになんでこんなことになってんだろうか。まあ本物だと知られて、暗殺者の方が偽物だと知られても、それはそれで怯えられるだろうけども。


 ある考えを思い浮かべながら自分の部屋まで戻って来る。


「遅かったじゃない」


 部屋にはリリアス、ダンガ、アメリアがいた。


「すまん。ちょっと凄いもんを見てな・・・」


「「「???」」」


 それから俺は何があったのかをリリアスたちに話した。安物の服で街に繰り出した時の国民の反応、酒場で聞いた話の内容、その後のカツアゲ、カツアゲ犯から聞いた暗殺ギルドのこと、その後に暗殺現場に出くわしたこと、そしてその暗殺現場で暗殺者が「狂った死神」と呼ばれていたこと。


「つまり、情報収集してからの帰り道に暗殺現場に出くわしてしまったって訳か。お前、毎回毎回なんでこんなに行き当たるんだ?」


 ダンガはすでに呆れ気味だ。


「知らねぇよ!むしろこっちが聞きたいわ!なんでか知らないけど、昔からこんな感じなんだよ!」


 巻き込まれ、踏み込み過ぎて抜け出せないから仕方なく逃れるために解決する。地球だと命の危機に直面するほどのことに巻き込まれることなんてほとんどなかったけど、こっちの世界に来てからは悪化している気がする。


「まあ、そんなわけで。俺は明日いつもの服を着て冒険者ギルドに行こうと思う」


「そ、そんなことして大丈夫なんですか⁉」


「まあ、間違いなく騒ぎになるだろうな。今日だって俺の服を見て衛兵が出張って来そうになってたんだから」


「なら尚更いつもの服を着たら駄目じゃない!あなたの今のステータスなら防服がなくても別に平気でしょ?」


「まあ、それもそうなんだが。ここは国側からも情報を頂こうと思ってな」


 前回はハフナーさんの手紙があったからこそあんなに簡単に国のトップの一人であるトリスメデスに会うことが出来たが、今回はそんなものはない。なら、ここは「狂った死神」として捕まって情報を引き出すのもありかと思った次第だ。勿論、情報を得たらその時点で脱走させてもらう。


 それに、「狂った死神」が捕まったと知ったら暗殺ギルドも助けるとか口封じに殺すとか何か動きを見せるかもしれないからな。


 そうリリアスたちに伝えるとため息を吐かれた。


「な、なんだよ。そのため息は」


「呆れてんだよ」


 ダンガはもう一度ため息を吐く。


「まあ、毎回のことだ。今回も付き合うとしますか」


 なんだか、仲間の優しさが地味に心に突き刺さる、そんな夜だった。




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