第154掌 面倒は最初のうちに済ませましょう
「そうですか・・・」
俺の話を最後まで聞き、そう呟くメルエさん。
「今回のこと。話すべきかどうか考えたけど、やっぱり話しておくべきだろうと思ったからな」
「はい。ありがとうございます。これであの人と本当の意味で決別することが出来たと思います」
「そうか」
「ええ。もし、今後会うことがあったとしてももう他人として見ることが出来ると思います」
それはそれで結構切ないけどな。特にトリスメデスが。
「分かった。それで、子どもたちはどうだ?」
母親の言葉は聞けた。次に聞くのは母親の次に辛かったはずの子どもたちだ。
「私はもうあの人が父親だとは思っていないから大丈夫です」
ミールが父親が聞いたら物凄い傷つきそうな言葉を言い放った。いくらトリスメデスがプリマ姫を選んだからって、これを聞いたらショックを受けるだろうな、流石に。
「俺は家族が誰も傷つかなくなればそれでいい」
ハンクは流石は長男だなと思う発言。ああ、横でメルエさんがハンクの言葉を聞いて感激してるよ。そういうのは俺の話が全部終わってからにして。家族の時間にして。俺がいるとなんか初めて行く友達の家で友達の家族と一緒に夕食を食べるみたいな空気になるから!
「僕はここでみんなと一緒ならそれでいいよ」
トールはアメリア大好きだもんな。厳しい指導にも人一倍耐えてるし。家族とアメリアがいればそれでいいんだろう。
「私もトールお兄ちゃんと同じ」
メルサもリリアス大好きだもんな。
「分かった。前向き?な言葉が聞けて良かったよ。今回呼んだのはこのことを話したかったからだ。もう戻って休んでいいよ」
「はい。それでは失礼します」
メルエさんが頭を下げてそう言い、子どもたちもそれに倣うように頭を下げて退出していった。
「・・・」
そして応接間には俺一人になる。
「・・・っぷはぁ~」
ついついため息が出る。
「特に何もなくて良かった~」
座っているソファに寝転がる。
「ここでトリスメデスに対する恨み言やその場で泣かれることとかあるかもって考えてたからな~」
俺の前で見せないだけで実際にどうかは分からないけど、少なくともこれで一安心かな。最悪の場合、どうしてプリマ姫を殺さずに生かしたのかを泣きながら問い詰められるかもと思ったんだけど、そういうこともなくてホッとしている。
「さてと。俺も疲れているし、そろそろ寝るとしますか」
俺は歩いて自分の部屋に戻るのも億劫になっていたので転移して自分の部屋のベッドに移動する。
「さて、色々とややこしいことがあったけど、これでひと段落だな」
そうして俺は夢の世界に旅立つのであった。
・・・
翌朝。というか、昼。
疲れが結構なものだったのか、リリアス以外の俺達グラスプメンバーは昼までずっと眠っていた。アメリアまでそうなのだから、かなり疲れていたのだろう。最後の部分だけとはいえ、神の眷属と真正面から戦ったのだ。精神的疲れは相当なものだろう。そう考えると仕方のないことだ。
「おはよ~」
まだ若干眠たいが、我慢しながらリビングに入る。
「おはようございます!」
と、リビングにいたミールが元気よく挨拶してくる。なんか今日は一段とサッパリとしているな。心のモヤモヤが取れているっぽいし、良かった良かった。
「みんなは?」
「リリアス様は学園に。ダンガ様は工房の方に行かれました。アメリアさんはまだ寝ています」
「そうか。それじゃアメリアを起こしてくるから食事の準備をしてくれ」
「はい!」
俺はアメリアの部屋まで行き、ノックをして部屋の中に入る。
「すー。すー」
そこには思いっきり穏やかに眠るアメリアが。なかなかに可愛らしいが、流石にこれ以上寝ていると起きた時にメイドとしてショックを受けかねないので起こすとしよう。
「アメリア。アメリア」
「ん?ううん」
俺の声に反応はするが、再び眠りについてしまうアメリアさん。
「アメリア、起きろ」
肩を揺すりながら名前を呼ぶ。
「う?もうあさですか?」
「いや、昼」
「ふぇ?」
「今、昼だぞ」
「えええええええええええええええ!???!?!?」
ガバッと跳ね起きるアメリア。
「はい。おはよう」
「おはよう!なんで起こしてくれなかったの⁉」
「いや、俺もさっき起きたばかりだし、メルエさん達も昨日のことは聞いているから今日は寝かせてくれたんだろう」
「そ、そう」
「おう。それじゃミールに食事を頼んでいるからダイニングに向かおうぜ」
「ええ。そうね」
それからメイド服に着替えたアメリアと一緒に食事を取り、今日一日ゴロゴロとしながら過ごす。休息日だからな!このぐらいいいだろ!
「さて、そろそろリリアスが帰ってくる頃か」
部屋でゴロゴロしていたら気づけば時刻はすでに夕方になっていた。もう、一日も終わりだ。
「ただいま帰りました!」
リリアスの声が聞こえてくる。予想通り、帰ってきたみたいだな。
「さて、夕食の時にアメリア達を手間取らせないためにもダイニングに行っておくか」
起き上がってダイニングに向かう。
ダイニングに入るとそこにはすでに全員が集合していた。
「あれ?夕食前にみんなここにいるなんて珍しいな」
いつもは誰かしらがいなくて呼ばれるのに。
「まあ、気になることもあるし・・・」
そうアメリアが言う。
「気になること?」
「次にどこの国に行くかだよ」
ダンガが教えてくれる。
「ああ。そういうことか」
クロイス共和国も目的は達成しているし、もう用事は終わったもんな。
「それで、次はどこに行くんですか?」
リリアスが興味津々に聞いてくる。
「そうだな。次はアリエス教国に行こうと思う」
「アリエス教国?どうしてまたそんなところに行くんだ?あそこはライドーク神国に比べればいくらかマシだが、結構な宗教国家だぞ?」
確かに宗教関係にはあんまり首を突っ込みたくはないんだがな。
「ハッキリさせておきたくてな。敵になるのかそれとも違うのか」
だって、この世界の人達はまだ神が交代したことを知らないからな。俺の行動は完全に神敵扱いになるだろう。
「面倒ではあるけど今のうちにハッキリさせておこうってことね」
「そうそう。アメリアの言う通り」
「ってことは」
「ああ。一週間後。休んだら次はアリエス教国だ!」
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これでクロイス共和国編は終了になります。
長かった・・・。
この後、閑話と番外編を挟んで二週間のインターバルを置いてからアリエス教国編に入ります。
よろしくお願いします!




