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第152掌 気まずい話の前の小休止



 屋敷を出て、歩いてまずは学園に向かう。メルエさん達に報告しに行ったんだけど、仕事を忙しそうにこなしていたので仕事が終わる夜にでも話そうと順番を切り替えたのだ。


「ねぇ、ちょっと疑問に思ったんだけど」


「なんだ?」


 歩いて行く間、無言なのは普通に無理だったのか、それとも普通に気になったのか、アメリアが声を掛けてくる。


 ちなみに、転移せずに歩いているのはほとんどMPが残っていないからだ。プリマ姫との戦いでほとんど使い切ったのだ。特に封印にMPを使ったのでガス欠寸前だ。辛いには辛いのだが、次の日以降に回す方がダルいので今日の内に面倒なことは済ませてしまおうという考えだ。


「さっきはダンガに簡単にああ言ったけど、そんなに楽に作れるの?」


 さっきのプリマ姫の力の結晶のことだな。


「いいや。簡単に言ったけど、作るのはかなり難しいだろうな」


「そんな難しいこと、手伝わなくていいんですか?」


 リリアスが心配そうに聞いてくる。


「ああ。手伝ってもいいんだけど、それだとダンガ自身の実力が上がらないからな。それがダンガにも理解出来たから自信はなさげだったけど断らなかったんだろ」


 別に完成するのはいつになってもいいしな。確かにもう手に入らない一品物だけど、俺達にどうしても必要なものというわけではないからな。それに俺は武器が出来ても使う予定はないからマジでダンガのレベルアップにしか今のところ使い道がない。


「なるほどね。結果的に私達の武器のランクも一段上になるってことね」


「まあ、そういうこと」


 納得したのか、サッパリした表情になるアメリア。それから他愛のない雑談をしながら学園に向かうのだった。




          ・・・




 歩いて数十分。特にトラブルに巻き込まれることもなく魔法学園に到着した。


 と言っても、もしもトラブルに巻き込まれてしまったとしても疲れている俺は面倒だと考えて力で強引に解決・回避するか、スルーしてしまうことだろう。


 いるかどうかも分からないトラブルの神もあまり意味がないと分かったのでトラブルが向こうからやって来ることもなかったのだろう。


「それで、リリアス。着いたはいいけど何をするんだ?」


「まだ、授業はギリギリ終わっていないので友達に授業でどんな内であったのか、何か次の授業で必要な物はないかを聞きにいきたいんです」


「なるほどな」


 大学と似ている制度のせいか、何を忘れても、何が出来なくても全て自己責任なこの学園。こういうところをしっかりしておかないと後々泣くことになる。


 リリアスはそうならないようにしっかりと対処しているということか。


「それで、俺達はどうすればいい?ここで待っていようか?」


「いえ、一緒に来てください。待って貰うのも悪いですし、そんなに時間も取りませんから。それに学園の入口にタカキさんがいたらまたパニックになってしまいますよ。ここは出口でもあるんですから」


 まあ、もうすぐ下校の時間だからな。それなら多少騒がれてもついて行った方がまだ騒ぎも小さくて済むか。


「分かった。それじゃ守衛の所に行って許可貰ってくるかな」


「タカキさんだとまた守衛さんが気絶しかねないのでアメリアさん、お願いしますね」


「よく分からないけど、また何かやったのね・・・。分かったわ。私が手続きするわ」


 リリアスはすでにこの学園の関係者なので手続きの必要がないため、守衛の所には俺とアメリアだけで行くことになる。しかし、リリアスさんも中々言いますね。タカキさん少し傷つきます。


 守衛の所に行ってから十分。俺達はリリアスのいる校舎の入口に戻ってきた。


「遅かったですね。どうしたんですか?」


「タカキがやらかしたのよ」


 呆れの方が強いのか、特に恥ずかしがらずに俺の名前を言うアメリア。


「何があったんですか?」


 心配そうに聞くリリアス。この場合の心配は俺に対しての心配ではなく、何かされた守衛に対しての心配だろう。


「最初は私が二人分の許可を貰っていたんだけど、途中でこの人が「なあ、それは俺が書いた方がいいんじゃないか?」って急に顔を守衛の人の前に出したのよ。それであっけなく気絶。本当に何したのよ・・・」


 だって、日本だと本人が書かないと意味がないことって多々あるからさぁ。ここでもしなくちゃいけないんじゃね?って思っちゃったんだよ。ここでも異世界間ギャップを感じてしまったぜ。


「悪かったって。それじゃ行こう」


 このままだと反省の意味も込めて色々と罰が与えられそうだから(主に食事面で)、強引に話を切り上げさせて校舎の中に入っていったのだった。


「それで?リリアスの教室はどこなんだ?」


「いえ、今回は教室じゃなくて演習場に行きます。今日の最後の授業が一、二、三年合同の魔法実技だったので」


 なるほど。合同なのでいつもより多いだろうが、騒がれる人数はそんなに多くないだろう。演習場ってことは普通に校舎内で授業受けている生徒たちはいないからな。それに俺が騒ぎを起こしたリリアスとのデートからまあまあの時間が経っている。リリアスと一緒という時点で多少は思い出す者もいるかもしれないが、そこは仕方のないことだ。


「授業が終わって生徒たちが出てくる前に移動しましょう」


「ああ」

「ええ」


 俺達はそそくさとリリアスについて移動する。


 演習場は学園の西側にあり、そこに着くとぞろぞろと生徒たちが出て来ているところだった。


「ええっと」


 リリアスはキョロキョロと友人を探す。


「あ!キャシー!」


 と、どうやら見つけたようだ。


「あれ?リリアス、どうしたの?今日は休むって言ってたじゃない。それに授業終わっちゃったよ?」


「うん。でも、どんな内容だったとか、次の授業で何か必要なものがないかキャシーに教えて貰いに来たの」


「そっか。確かに聞かなきゃ次の授業の時に困るもんね」


 この世界では携帯電話という文明の利器がないのでこうして会いに行くしかないもんな。手紙も遠方にいる人とか書状として偉い人が招集するときぐらいだし。手紙を出すぐらいなら直接会いに行った方が速いもんな。


「教えてくれる?」


「いいよ。えっとね。―――――――――」


 それからリリアスはその場で今日やった授業の軽い内容と、次の授業の時に必要なものを教えて貰った。その間、後ろにいた俺とアメリアはかなり目立っていてかなりの視線の雨を受けたけど、あまり騒がれることはなかった。もしかしたらリリアスが自分のクラスに何かフォローとかを入れてくれたのかもしれない。


「―――――――って感じかな」


「うん。ありがとう。助かったよ」


「いいよいいよ。それはそうと」


「うん?」


「さっきからずっと気になってたんだけど、そっちの黒服の人とメイドの人って誰?」


 あれ?あれだけの騒ぎを起こしたのに知らないのか。俺としてはありがたいけど。


「私の所属している冒険者パーティーの人。今回は無理言って用事の前にこっちに寄らせてもらったの」


「なるほど。それにしても所々他の色もあるけど、服も黒で髪も黒。目も黒いし、全身真っ黒ね」


「まあ、否定はしないが」


 俺は苦笑いしながら答える。自分でも自覚はしているからな。この格好はもう意識の外に追いやっているのだ。じゃないと恥ずかしいからな。俺の黒歴史に認定済みだし。


「それにしても俺相手に結構物怖じせずにグイグイ来るな」


「何?あなた有名なの?」


(あ、あの。キャシーはタカキさんが騒ぎを起こした時はお休みしてていなかったんです。だからタカキさんのことあまり知らなくて)


(なるほどね)


 小声でリリアスが教えてくれて納得した。そういう騒ぎってのは実際にその場にいないと理解できないこともあるからな。


「まあ、有名かどうかは知らないけど、ちょっとばかりやらかしたことはあるからな」


「そうなんだ。冒険者の話、色々と聞きたいんだけどね。私、これから用事があるから失礼するわ。今度会った時にでも話、聞かせてね」


「ああ」


「キャシー、急いでいるのに教えてくれてありがとう」


「いいのいいの。友達だしね」


「うん!」


 それからキャシーは軽く挨拶をして走って帰っていった。


「さて、それじゃ報告しに行くか」


 そう言ってきび返した瞬間、後ろから声が掛けられる。


「孝希君?」


 振り返るとそこにはミッキー先生とクラスメイト達がいた。




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