第133掌 よりを戻すか、決別か
宿に戻るとリリアスたちが異空間から出て来た。もうやらなければならない仕事は済んでいるのでリリアスたちが出て来ても特に構わない。
まあ、流石に宿の従業員とかが来たら驚くだろうから、人が来たら分かるように風雷魔法で結界を張って置く。流石に防御系の魔法だとダメだから、感知系の風魔法で結界を張る。把握スキルを使えばいいんだけど、結構面倒なんだよね。簡単に言えば、把握スキルは常に周りに気を張って自分で気付くのに対して、感知結界は家のチャイムが来たことを教えてくれる・・・みたいな?
「あの・・・。さっきの襲撃?暗殺?があったこと、問題にしなかったですけど、いいんですか?」
「ああ。いいんだ。俺もあの時は問題にしようと思っていたんだけど、考え直した」
あのプリマ姫がいる状態で言えば、最初に会った時以上の、相手お構いなしのマシンガントークが始まるに決まっている。「我が国の防衛に文句を付けるのですか⁉」ってな感じで。そんなこと言われたら、あんたの国じゃねえだろって逆に言いたいけどな。
「どういうことだ?」
ダンガが不思議そうに聞いてくる。
「あの場で言うより、俺の正体を知って、この後にこっちに来た時に言った方がかなり話を有利に進められるだろうと考えたからな。それに、あの場だとあの姫様が邪魔だったし」
「まあ、絶対にあれこれ言ってうやむやにするか、こっちの所為にしてきそうだしね」
アメリアが異空間から出ながらそう言って俺に同意してくる。
「だろ?それに正直、誰がどういう目的で俺にあんなことをしてきたのかがはっきりしていないからな。流石にあの状態で言うのはやめた方がいいと判断した」
トリスメデスとプリマ姫の他にも護衛として何人も兵士たちがいたからな。誰の息がかかっているのか分かったもんじゃない。それならこの場にやって来るトリスメデスと少しの護衛に気を配っていた方がいいに決まっている。
「さて、それでトリスメデスが来るにあたって、メルエさん達には二つの選択肢を選んでもらう」
これはいい機会だからな。トリスメデスに再会して(メルエさん達は一方的にすでにトリスメデスに会っているが)仲直りするならそれでもいいし、決別するならそれ以降の面倒は俺が看るし。
「トリスメデスと仲直りしてここで俺達と別れるか、決別して俺達についてくるかを。正直、こんなこと言うつもりはなかったんだが、ちょうどいい機会だ。今日までの言いたかったことをトリスメデスに言うといい」
「タカキさん・・・」
メルエさんが俺の言葉に驚いた様子で俺の名前を呟く。
「ありがとうございます。私はもう心に決めていますのであの人と話すだけで十分です。子どもたちのことは子どもたち自身に決めさせてやりたいと考えていますが、もう私は子どもたちがどんな選択をしてもあの人の許に戻るつもりはありません。これからよろしくお願いします」
そうメルエさんは言って俺に頭を下げた。子どもたちはもう働きに出ているぐらいだからな。もう、メルエさん的にもこういう重大な選択の時には大人として扱おうと決めたようだ。年齢的に全てを大人扱いすることは出来そうにないけどな。
「分かった。それで?子どもたち。君たち四人はどうする?」
母の言葉と俺の問いかけに押し黙ってしまう四人。だが、答えはすでに決まっていたようだ。
「私はこのままタカキさんたちの使用人になりたいです!」
「俺も母さんを放っておけないしな」
「僕もー!」
「私だけみんなと離れ離れなんてイヤー!」
これで決まったか。
「分かった。それじゃ、トリスメデスとの決別を済ませるといい」
「はい。ありがとうございます」
「俺達はあんな奴と話すことなんてないけどな!」
メルエさんがお礼を言うが、ハンクが反抗期っぽくトリスメデスと会うことを拒否する。
「なんだよ!あの様子!傲慢一直線じゃないか!あれが俺達の父親だって言うのかよ⁉」
まあ、自分を奴隷にまで堕としたも同然の父親だ。そこにあの裕福で幸せそうで、しかも傲慢そうな様子を見たら嫌にもなるか。
「まあ、落ち着け。イラッとして手を出そうとしたら俺が止めてやるし、それに俺がこれからお前のムカついている奴を脅すんだぞ?それを異空間越しに見るのは勿体ないじゃないか。せっかくだから俺の近くで直接その情けない姿を見てやろうぜ?」
「・・・そうだな。その方がスカッとするだろうし・・・。分かった。会うだけ会う」
「よし。他の三人もいいか?」
俺の問いかけに頷く。
「じゃあ、騒ぎが起きたときに面倒がないようにこの部屋の強度を上げるのと、ここにいる全員を守るための個別結界を張っておくか。それじゃ皆、並んで」
「並ぶって?」
アメリアがどうすればいいの?って言いたげに聞いてくる。
「俺の前に一人ずつ立っていくだけだって。何が起こるか分からないからな。さっきの強襲のこともあるし、念には念を入れて部屋じゃなくて、アメリア達に直接結界を張るだけ。その方が強力な結界も作れるしな」
「そう。分かったわ」
他のみんなも俺の説明で納得してくれたのか、素直に俺の前に並んでいくのであった。
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