第124掌 あいつって誰?
ああ!
ついに溜めていた分が無くなってしまった!
ここ最近、だらけ過ぎました。
また溜め込めるようにがんばります!
次の日。
俺は早朝にメルエさん達家族の部屋に再び訪れていた。何故かというと、昼とかだと仕事が始まっているだろうからだ。流石に緊急と言うわけでもないのに仕事の邪魔をするわけにもいかない。というわけで早朝にやっていたのだ。しかし、早くに来たのでメルエさん以外はまだ夢の中である。
「朝早くに悪いんだが、聞きたいことがある」
今日から使用人になるのでメルエさんにもタメ口である。昨日の時点でメルエさん以外にはタメ口であったので特に違和感はない。主に敬語で話される使用人の方が違和感だっただろうからな。
「はい。何でしょうか?」
メルエさんが答える。メルエさんはまだ虚弱体質が治っていないから今日はアメリアから仕事内容の話を聞くだけだ。後で仲間認定しておかないとな。俺が仲間だと認めれば、最近忘れがちになっているオール・ブーストさんが頑張ってくれるはずだ。それで虚弱体質の方は何とかなるだろう。
「昨日、一番上の兄が言っていたあいつって誰かと思ってな」
「あいつ?」
「あなたを使い捨てたというやつだ」
俺のその言葉で思い出したのだろう。おもむろに落ち込んでいる。やっぱり面倒事っぽいな。
「私の以前のクロノス共和国での階級は奴隷ではなく、普通の一般国民でした」
ゆっくりと、しかし、どこか悲しそうにメルエさんは語り始めた。
「今から十九年前、私は何不自由なく、どこにでもいる普通の国民として暮らしていたのです。しかし、ある日。買い物帰りにある青年が倒れているのを見かけ、それを助けました」
優しい人であることは今の雰囲気だけでも分かるけどな。でも、道端に倒れているだけで厄介事の臭いしかしない。俺なら様子を見ながらもスルーだな。精々、兵に通報しておくとかぐらいだ。直接は接触しない。まあ、それでも巻き込まれるんだが・・・。
「その人はトリスと名乗りました。トリスはあちこちボロボロで、しかもここ数日は何も食べていなかったようでした。要望からして奴隷かと思いましたが、流石にそのまま放り出すのも可哀想だと考えた私は少しの間、家に置いてあげることにしました」
ああ。家に置いちゃったのか。それじゃあ、もうなんとなく先は読めたわ。
「一週間ほど経った頃。トリスは私に求婚してきました」
やっぱりな。そんなことだろうとは思った。どうせ甲斐甲斐しく世話をしてあげたのだろう。メルエさんの容姿もかなりいい方だからな。惚れるのはおかしいことではない。まあ、一週間で告白するのは早いと思うけどな。
「その場では断りましたが、何度も何度も折れることなく求婚してくるトリスに折れました。しかし、流石に奴隷相手に結婚することは法律で禁止されています。なので聞いたのです。あなたは奴隷ですか?と」
まあ、聞くのは当たり前のことだな。でも、奴隷のやつが求婚なんてするか?メルエさんはその時点でまだ一般国民。つまり家とかもそれなりのものだったはずだ。すぐに気付くと思うが。
「その問いにトリスは、いいえと答えました。『俺は一般国民だ』と」
まあ、それじゃなんで行き倒れていたんだと問い質したいがな。
「確認のために肩も見せてもらいました。しかし、特に何もなかったので奴隷ではないと確認出来ました」
「ちょい待って。なんで肩を確認のために見る必要があるの?」
「肩には奴隷紋が刻まれているんです。クロノス共和国の奴隷は全て肩に奴隷紋入れる決まりになっているので、そこを確認すればすぐに分かるのです」
そう言ってメルエさんは俺に肩を見せてくれた。服の首元をずらしてくれたので服を脱ぐとかのラッキースケベなイベントは発生しなかったが、その姿はまあまあエロい。これが年上の魔力というやつか。メルエさん自体は見た目、まだ二十代とかでも通用しそうだし。実年齢はまだ知らないけど。
メルエさんは服を元に戻して話を再開した。
「それで奴隷紋がないことを確認した私はトリスの求婚に、はいと答えました。それから幸せな日々が続きました。一年が経った頃、ミールが生まれました」
待って。それじゃミールは俺より年上だったのか?そうは見えなかったけどな。
「しかし、ミールが生まれて一年が経ったある日。トリスは急に姿を消しました。私に何の相談もなく。それから不安の毎日でした。トリスは時々、フラッとどこかに消えてはその月の生活費を持って帰って来ていましたので最初は仕事が長引いていると思っていたのですが、全然帰って来なくなったのです」
いやいや!フラッとどこかに出掛けて一月分の生活費を持って帰って来るなんて怪しすぎるだろ!それに気が付かないってことはこれが愛のフィルターってやつか?
「私は一向に帰ってこないトリスはどこかに行ってしまったか、死んでしまったのだと考えました。お金もミールが生まれてからトリスが消えて一ヶ月が経つまで仕事していなかったので大変でした。なのでギルドに依頼も出すことも出来なかったのです。それからさらに二年が経ったある日。ふらりとトリスが帰って来たのです。疑問に思いましたが、ミールの父親でもあるトリスを突き放すことも出来ませんでしたので迎え入れました。それから一週間に一度だけ帰って来るという生活が続きました」
それ、完全に愛人の立ち位置じゃん。
「しばらくしてハンクが生まれました。しかし、ハンクが生まれてもトリスの一週間に一度だけ帰って来るという生活は終わりませんでした。そしてトールが生まれ、メルサが生まれてもその生活は終わりませんでした」
だから愛人の立ち位置だって!
「ミールとハンクはすでに簡単な仕事ではありますが、働きに出ていてくれたので大分、楽をすることが出来ていました」
子どもじゃ高が知れてはいるが、それでもないよりはマシだからな。
「しかし、そんな日々も長くは続きませんでした。ある日、衛兵が私たちの所に来たのです」
おおう。ついにキナ臭い展開になって来たな。
「何もしていなかったのに捕まった私たちはそのまま奴隷堕ちさせられました。そこでトリスの正体を教えられたのです」
衛兵が知っているということはなかなかの上流階級の人物か、かなりの悪名高い人物か。どっちかだろうな。
「トリスの正体はトリスメデス・バルメント。クロノス共和国で国政の中心人物の一人として活躍している方でした」
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