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第119掌 現地採用候補



 俺達が宿を出るのとほぼ同時に兵たちが宿に向かって来ているのがこちらから分かった。そんなに数は多くなく、パッと見で三人だ。ガチャガチャと支給されていることが丸分かりなぐらいボロボロな鎧を鳴らしながら走って来る。


「やっぱりな」


 俺はその様子を見ながら呟く。


「タカキ!そんなことより早く!」


 ダンガが急かしてくる。


「分かってる。行くか」


 俺はリリアスとアメリアにくっ付いていた兄妹を強引に両脇に抱える。抱えると、兄妹は抵抗したが、今はそんなことで一々丁寧に説得している場合ではないので気にせず抱え続ける。そしてその場を高速で移動する。流石に宿の前で、しかもまだ人の目が多くある場所で目立ったことは出来ない。俺にはまだこの国でハフナーさんから頼まれた仕事が残っているのだ。それが遂行出来ないことはやれない。


 俺達は宿屋の近くの建物と建物の間のまさに路地裏と言った場所に隠れる。闇魔法で姿を隠し、風雷魔法で防音もしている。これで直接触られでもしない限りは大丈夫だ。


 俺達が去った後、宿には兵たちが入っていくのが見えた。どうやらこちらのことは見えなかったようだ。まあでも、これでリリアスとアメリアは公の場には出せなくなったな。奴隷を中流区画に入れた人物であるといつバレるか分からないからな。流石に連れて歩けない。


「どうやらこの子たちをイジメていた人たちが通報したようですね」


「ああ。これじゃ戻るのは難しいだろうな」


「どうする?」


 ダンガが聞いてくる。どうするって言われてもな。二つしか選択肢はないだろう。


「一つはこの子たちの家に連れて行ってもらう。もう一つは拠点に戻る。この二つしか選択肢はない」


 失敗した。リリアスとアメリアだけだとこういうことが起こったらこうなることは目に見えていたのに。やけくそになって観光するんじゃなかった。


「この子どもたちの家に行くのはやめた方がいいだろう」


 ダンガが一つ目の選択肢に反対した。


「どうしてだ?」


「この兄妹をイジメていたという大人はお前たちのことを知っている奴らか?」


 ダンガが兄妹に問う。そのダンガの問いに兄妹は俺の両脇でぎこちなく頷く。


「つまり、こいつらの家にも兵たちが来る可能性はかなりあるってことだ。そんなところに行くのは得策ではないだろうな」


 確かにダンガの言う通りだな。


「でも、拠点に連れて行く方法はな~」


 デメリットもある。この兄妹から俺達の情報が出回ってしまうかもしれないのだ。


「俺もデメリットがあることは分かる。でも、解決策ってほどでもないが、いい方法がある」


「なんだ?」


「この兄妹を仲間に引き込むのさ」


「はい?」


 そんなこと出来るわけないだろうが。奴隷の子どもを戦わせるなんて。


「勿論、本当の意味で仲間にするわけじゃねぇ。ようは拠点の使用人として雇おうってことだ。使用人も欲しかったし、ちょうどいいだろ?」


「た、確かに」


 現地で拾った方が信頼出来る。誰かに頼んで使用人を雇うよりは。人となりはリリアスの学園のある日にでも見ればいいことだし。


「それじゃ、そのための確認をしますか」


 俺は両脇に抱えていた兄妹を下す。兄妹はその瞬間、リリアスとアメリアに抱き着きに行った。


「それじゃ、確認だ。お前たちには俺から選択肢を二つあげよう。どちらを選んでも構わない。いいな?」


 警戒するように俺を見つめる兄妹。だが、小さく頷いたのが俺にも分かった。


「一つはこのままお前たちを放置して俺達がこのまま帰ることだ。兵たちに報告などはしないが、完全に知らんぷりさせてもらう」


 俺の言葉を聞いてリリアスとアメリアの服をギュッと強く握って震える兄妹。息ぴったりだな。


 でも、この選択肢はさっき言わなかっただけで実際は存在した選択肢だ。気を遣って言わなかっただけで、ダンガが拠点に連れて行こうと言わなかったらこの選択肢を言いはしなかった。俺的にはこの兄妹の家に送り届けようと考えていたからな。


「もう一つはここでの生活を全て捨てて俺達と一緒に来るか。俺達と一緒に来たら仕事はしてもらうが、適度な自由とお金は払おう」


 しかし、兄妹はその二つの選択肢を選ぼうとしない。というか、話そうとしない。


「どうした?言いたいことがあるなら遠慮せずに言ってみろ」


「あ、あの」


 そこで兄の方が震える声で俺に質問してきた。


「なんだ?」


「ほ、他の人もお願いしちゃダメですか?」


「他の人?」


「は、はい。お母さんとお姉ちゃんとお兄ちゃんです」


 他にも兄妹いたのかよ。四人とはお母さん、頑張ったな。・・・おっと、ギリギリ下ネタだな。失礼。


「それくらいならいいが、仕事の方は人柄を見せてもらう。ダメなら逃がすだけになるが、構わないか?」


「は、はい。どうせこのままだとみんな捕まってしまいますから」


 確か、奴隷が罪を犯したら問答無用で死刑か、生涯強制労働だからな。流石にそれは嫌だろう。


「なら家を教えろ。急がないと兵たちが来るからな」


「はい!」


「ダンガたちは()で待っててくれ。拠点に着いたら教えるから」


「ああ」

「はい」

「うん」


 俺は再び兄妹を両脇に抱える。今回は二人とも抵抗はなかった。そして俺はダンガたち三人をその場に残して飛び立った。


「リリアス、アメリア」


 俺が飛び立った後。ダンガがリリアスとアメリアに呼びかける。


「異空間に入ったら話がある」


「「???」」


 俺が何も言わなかったし、何も言おうとは思わなかったから分からなかったのだろうが、代わりにダンガが言ってくれるようだ。俺としては自分で気づかせたかったのだが、まあ、今回はダンガに任せるとしよう。





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