第118掌 決まっている区画
「な、なんで子ども?」
困惑する俺にリリアスが困った様子で答える。
「なんだか、懐かれちゃって」
いや、それは見れば分かるんだが・・・。どうしてそうなっているんだ?
「ここに戻る前にこの子たちが大人にいじめられているところを見かけたの。見てられなくて助けちゃったらこうなったの。ダメだったかな?」
アメリアは俺に怒られないか少しドキドキしている様子だ。別にこのくらいで怒りはしないが、どうしたものか。子どもってことは親がいるはずだしな。
「怒ってないよ。それより、もう夜だし家に送らなくちゃいけない」
「そうね。ねえ、送ってあげるからお家の場所教えて?」
ホッとした様子で俺の言葉を聞いた後、屈んで子どもの目線に合わせたアメリアが優しく聞く。しかし、子ども――兄の方――は首を左右に振りながら否定する。
「え?送られるの、嫌?」
その問いにも首を左右に振る。
俺はその子どもの様子にもしかしたらという考えが過ぎる。
「ねぇ。もしかして、君、奴隷なのかな?」
俺はその考えをすぐに言葉にした。勿論、大きな声で話すことではないので小声だ。それも出来るだけ誰にも聞かれないように風魔法を使って防音をしてまで。
そして、俺のその問いにビクッとなる兄妹。どうやら正解のようだな。
「安心してくれ。俺達はこの国の人間じゃない。君たちをどうこうしようとは考えていないよ」
出来るだけ安心できるように優しく話す。今まで散々ひどい目に遭って来たのだろう。俺の言葉を聞いてもなかなか緊張を解いてくれない。どうしたのものかと考えているとふと、リリアスと妹の方の子どもがかなり懐いていることに気がつく。
「リリアス。なんか、仲がいいな?」
「え?」
意識していなかったのだろう。妹がリリアスの服どころか、足に抱き着いている。アメリアの方は男でもあるので兄は抱き着くことはしていないようだ。アメリアも可愛いので恥ずかしいのだろう。それにしてもリリアスによく懐いている。
「・・・あ!私、村にいる時から良い扱いとか受けなかったし、それに、私のまともな話し相手は何も知らないような小さな子どもたちだけでしたから慣れているのかもしれません」
そんな悲しいことをサラッと話さないでよ。こっちが悲しくなるじゃん。
「とにかく、リリアスとアメリアは俺たちの仲間なんだ。だから、君たちをイジメたりしないよ?」
懐いているリリアスとアメリアの仲間であるという間接的に危険な人ではないことをアピールするが、どうしても緊張を解いてくれない。何故なんだ?
「あ、あの」
考え中の俺に気まずそうにリリアスが話し掛けて来る。
「なんだ?」
「申し訳ないんですけど、多分、ダンガさんが怖いんじゃ・・・」
そして俺はダンガの方を見る。
俺達からしたら気の良い仲間だ。それのどこが怖いのだろうか?
「いや、怖いでしょ。私たちは中身を知っているからそんなこと気にしないけど、この見た目は十分に怖いわよ。子どもなら尚更」
俺の表情を読んだのか、呆れるアメリア。
「む?俺のせいか。それはすまん」
子どもたちに謝るダンガ。その姿を見て、子どもたちも少しだけ緊張を解く。おお。確かにダンガが原因だったか。
「ダンガさんって背も高いですし、筋肉も凄いですからね。子どもは怖いと感じるのかもしれませんね」
リリアスがフォローする。まあ、ダンガもこのくらいで傷つくような奴じゃないし。
「気にするな。よくあることだ」
よくあることなんだ・・・。
「駆け出しの冒険者によく怖がられたものだ」
駆け出しの冒険者は大体12歳から15歳だからな。まだまだ子どもの時期だ。確かにダンガを怖がるのかもしれない。
「っていうか、最初に俺達に出会った時のような対応をしていたら怖がられるわ!」
あの態度は普通は誰でも怖いわ!
「む?そうか?」
「なんでそんなに不思議そうな顔をしているんだよ。当たり前だろ」
「俺の正直な心が表に出ただけなのだが・・・」
「お前、絶対にあんな態度を新しい店でするなよ?誰も寄り付かなくなるからな」
「あの対応のせいであまり客が来なかったのか⁉」
「自覚なかったのかよ」
確かに、あんまり客が来ていないなとは入った時に感じていたけども。
「分かった。気をつける」
「ああ。そうしてくれ」
「あのー」
そんな俺達にリリアスが再び声を掛けて来る。
「話が脱線しているんですけど・・・」
「「あ」」
すっかり忘れて話し込んでしまった。
「それで、この子たちが奴隷って言ってましたけど・・・」
「ああ。この国では入っていい区画が決められていることは知っているよな?」
「はい。本で読みました。上流区画・中流区画・下流区画と別れていて、それぞれ
奴隷は下流区画にしか入ってはならない。
一般国民は中流区画と下流区画にしか入ってはならない。
国政に関わっている、所謂、上流階級の人たちは全ての区画に入ってよい。
という決まりがあると」
「そうだ。そしてここはどの区画に割り振られている?」
「・・・あ!中流区画」
「正解だ」
そう。ここはこの国では奴隷が入ってもいい区画ではない。見つかれば衛兵のお縄についてしまうことだろう。
「だからわざわざ風魔法で防音までしたのか」
ダンガが感心した様子で呟く。
「ああ。それで、リリアス、アメリア。そのこの子たちをイジメていた大人だが、どうやって撃退したんだ?まさか力でとか言わないよな?」
「・・・」
「・・・」
この様子だと、最初は言葉で注意したが、止めないから最後は力で黙らせたってところか。
「はぁ。仕方ない。ここは引き払うとしよう」
「「えっ?」」
「当たり前だろ?ここにいたら衛兵が来てしまう。それまでにどこかに行かないと」
宿代は払ってしまったが、仕方ないだろう。それにそんなに高い金額ではなかったしな。
「しかし、あの魔法をタカキが覚えておいて良かったぜ。おかげで馬車をどうするかとか考えなくてもいいし」
まあ、今頃は拠点でおとなしくお留守番しているだろうしな。
「それじゃ、行きますか」
俺達は兄妹を連れて宿の外へと急いで出るのであった。
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