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第117掌 現実逃避したい時もある



 次の日。


 俺達はクロノス共和国の首都、クロスに着いていた。


 というより、昨日の内に到着してはいたのだが、流石に街の中で転移するわけにもいかなかったので、街の外で魔法を解き、降りてから転移してオークスに戻ったのだ。どうせなら朝にクロスという街を楽しみたいからな。


「しかし、助かったぜ。ハフナー様様だな」


 ダンガがご機嫌で街中を歩いている。


 街の風景は国が違うだけあって、オークスとは異なっていた。オークスは整っている中にどこか乱雑なものを感じさせる建物とその建物の並び方をしていた。田舎と都会が混ざった感覚と言ったらいいだろうか。だが、この街は全てが整っている。まるで定規で測ったみたいに形や大きさ、並び方が揃っている。心なしか、街の住民にも無機質な印象を抱いてしまう。


「助かったって言われてもな。俺は全然助かっていないんだが・・・」


 ダンガが喜んでいるのは検問での面倒が減ったからだ。そう。俺達は検問を並ばずにあっさりとクリアすることが出来たのだ。理由は簡単。さっきダンガも言っていたが、ハフナーさんのおかげである。


「この手紙、面倒事になる前にさっさと渡してしまいたい」


 俺達は昨日、オークスに戻った時にハフナーさんたちに首都クロスに着いたことを報告したのだが、ついでにとこの手紙を押し付けられたのだ。


 中身は見ていないが、内容は教えて貰っている。大体こんなことが書かれているらしい。


『王位を継承したハフナーだ。この前までは騒がしくしてすまなかった。今後とも、隣国のよしみで仲良くしてくれると嬉しい。貿易とかもしたいし、色々と交流を考えているからよろしく。PS.その手紙を持って来たタカキってやつは私の協力者で最近では<狂った死神>と呼ばれている。対応には要注意した方が身のためだ。 オークス王より』


 こんな内容になっている。勿論のこと、王が他国に出す手紙だからもっと回りくどく、色々なものを包んだ内容になっている。それと、俺がハフナーさんから教えられたのは本文だけ。PSの部分は知らないぞ。さっき、手紙を把握したときに知ったんだ。なんで、他国にまで<狂った死神>って呼ばれていることを周知させようとしてんだ、あの王様はッ!


 また、俺の人生に新たな黒歴史が生まれようとしている。今すぐにでも破り捨てたいが、流石に王の手紙。そんなことをすることは出来ない。


「いいじゃない。これのおかげで身分証明にギルドカードを見せなくて済んだんだから。あれ見せたりしたら多分、もっと面倒になっていたわよ?」


 アメリアがそう言って俺を諫める。まあ確かに。あそこでギルドカードを見せていたら困ったことになっていただろう。樹里たちに聞いたが、俺は他国でもまあまあ有名になっているっぽいからな。主に冒険者ギルド経由で。見た目がすでに真っ黒なのだ。そこにギルドカードを提示したら騒ぎになる可能性が高かった。それを防いでくれたという意味では確かに助かっている。


「でもな~。おかげで俺はまた国のお偉いさんに会わなくちゃいけなくなったわけで」


 手紙を届けなくちゃいけないからな。王からの手紙だから直接、本人に渡さないといけないってことで俺の面倒事に巻き込まれる可能性は格段に跳ね上がっている。


「いいじゃないですか。面倒事があっちからやってくるより、こっちから首を突っ込んだ方が精神的にも楽じゃないですか?向こう側からしたらこっちも面倒事になる訳ですし」


 リリアスが意味があるのかないのか分からないフォローをしてくれる。まあ、確かに心構えが出来ている分だけ精神的に楽ではあるだろうけど。


「ほら。いいから今日は宿に泊まって面倒事は明日に回しちゃいましょう」


 アメリアが現実逃避を勧めて来るが、結局それ、明日までゲンナリした気持ちを持ち続けなくちゃいけないってことなんだよな~。アメリア的には他国の宿がどんなものか気になっているだけなんだろうけど。一応、メイドさんだし。でもまあ、俺も色々見て回りたいし、いいか!


「そうだな。面倒事になったら逃げるか吹っ飛ばせばいいし!」


「いや、吹っ飛ばすのはどうかと・・・」


 リリアスがツッコんできたが、今の俺には届かない。なんせ、現実逃避を始めたからな!


「そうと決まったら宿屋に行くか!」


「そうね!」


「俺は先に武器屋とかに寄って来てもいいか⁉」


「ああ!行って来い!」


「おう!」


 何故かテンションの高い三人に置いてけぼりになるリリアスであった。




                ・・・




「・・・やってしまった」


 あの後、無駄にテンションの上がった俺達は街のあちこちを巡り、いるかどうかも分からない道具や武具などを買い漁ってしまった。おかげで異空間に入れてある物が一気に増えてしまった。


「しかも、もう夜じゃねぇかッ」


 そう。すでに日は沈んでおり、どっぷりと夜になってしまっていた。


「もう少し早く正気に戻るのが早かったら手紙を渡しに行けたのに!あああああっ!また面倒に巻き込まれるぅぅッ!また黒歴史が更新されるぅぅ!」


 まさか、神のやつ。黒歴史に耐えられる人材として俺をこの世界に送ったんじゃないだろうな?


「落ち着けよ。ほら、さっさと宿屋に戻ろうぜ?部屋は取ってあるんだろう?」


「・・・ああ、そうだな」


 俺はダンガに慰められながら宿屋へと歩を進めた。


 俺とダンガはちょうど、最後に見て回った武器屋で合流したのだ。リリアスとアメリアは他の場所を回っているようで宿屋で別れてから会うことはなかった。


 まあ、宿屋に行けば会えるだろう。


 宿屋に戻ると食堂でリリアスたちを見つけることが出来た。


 しかし、そこにはリリアスたちだけがいるわけではなかった。


「・・・子供?」


 そこにはリリアスたちの服をぎゅっと持って、完全に懐いた幼い兄妹がいた。




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