第116掌 我慢の限界
馬車を走らせて一週間が経過した。
タブル村はライドーク神国から近かったから馬車だと他の国までの国境までそんなに掛からないんじゃないかという俺の甘い考えは打ち砕かれた。
実は王都オークスは国土の中心ではなく、中心地よりも下に位置していたのだ。国の立地的に大陸の二大国家の一角であるバレール帝国が国境を挟んですぐ隣にあるからだそうだ。
俺的には普通はそういうことなら首都はもっとその国から離れたところに造るべきだろうと思うのだが、こちらの人たちからしたら違うらしい。この世界には俺達の世界にはなかったスキルと魔法という物理法則を無視したものが存在する。
つまり、どこにいてもあまり意味はないということらしい。過去にあっさりと遠くに造っていた首都まで短時間で攻め入られたことがあったとか。
まあ、そんなわけで王都はいつでもバレール帝国が戦争が起こった時に指揮できるように少し下に位置しているとのことだ。そして現在、俺はそのことをリリアスから聞かされてゲンナリしたところである。
俺達はすでにオークス王国からは出ており、クロノス共和国内に入っている。
「それで?ここからクロノス共和国の首都までどのくらい掛かるんだ?」
「ここはまだ国境付近ですからね。多分、また一週間は掛かると思いますよ」
「マジかよ」
旅の醍醐味である野宿をしてみたかった俺は初日にダンガとともにやってみたのだ。リリアスとアメリアは転移で拠点に戻っているが。
俺も最初はドキドキして楽しみにしていたのだが、番をダンガがやってくれていたのですでにすることが無くなっており、硬い地面での睡眠しかやることがなくなったのだ。馬車の中で寝てもよかったのだが、小説やアニメとかドラマを見ていて地面で寝る野宿のシーンに少し憧れていた俺は地面で寝ることを選択してしまったのだ。馬車はすでに拠点に転移済みだ。
そして後悔した。
ものすごい辛かったのだ。上手く寝付けないし、石とかがチクチクと痛かったし。朝に起きたら体のあちこちが痛くなってたし、痛さをどうにか和らげようとしたのか、変な格好で寝ていたらしく、顔とか腕に何かを押し付けたような型が付いていたし。
踏んだり蹴ったりな野宿を経験した俺はその次の日から野宿を止めた。付き合ってくれたダンガにも悪かったし、これ以上野宿するのは嫌だ。小説とかの登場人物たちがあんなに野宿を嫌がるのは確かな理由があったのだと俺もよく分かった。
そしてそれからは移動しては転移しての繰り返し。途中でリリアスの学園の日も来てしまったのでリリアスはそっちに行っちゃうし。
俺達的にもリリアスを置いて旅するのは気が引けたのだが、今のところはただ移動するだけ。ダンガたちも一応付き合ってくれているが、最後の方は時空間で自分の作業をしていた。
そしてついさっき、ようやく国境を越えたってのにまた一週間掛かるのかよ!ここまで移動中は村とかにも立ち寄らずに最速で来たんだぞ⁉
「・・・もういいや」
「え?」
そこで俺の我慢の限界が来た。
「やってられっか!」
「えぇっ⁉」
俺は馬車を止めた。旅の醍醐味として馬車で移動していたこともあるが、一番の理由はもしものことを考えて俺のステータスの高さを他の誰かに目撃されないようにするためだ。余計な騒ぎが起こってしまう可能性があったからな。
でも、もういい!
「リリアス、異空間に戻ってろ」
「は、はい!」
俺のよく分からない異様なオーラに充てられたのか、素直に異空間に引っ込むリリアス。
「よし」
そして俺は馬車を転移で拠点に戻す。
「それじゃ行くか」
辺りに誰もいないことを把握スキルで確認してから俺はその場から浮かび上がる。そしてかなりの高度になったところで止まる。
「な、何よこれ⁉」
リリアスから俺の様子を聞いたのか、好奇心で空間を開けて外の様子を見るアメリア。
「なんで浮いてるのよ!」
「魔法だよ」
「魔法ってあなた・・・」
風魔法の上位魔法である風雷魔法にまでなると一応、飛行することが出来るようになる。しかし、空を飛ぶことが人体の構造上、出来ない人間にはなかなか出来ない魔法の一つである。
「流石としか言いようがないけど・・・」
「まあ、俺は掌握できるからな」
そう。俺は全掌握すればいいだけの話なのだ。極端な話、空気を掌握すれば空気を踏むことすら出来る。でも、それは実は出来なかったりする。
空気は周囲にあって当たり前のもの。それを踏むということは物理的にそこに存在しているということ。つまり、俺は地面の中にいるのと同じ状況になってしまうのだ。だから、全掌握で空を飛ぶというか、歩く時は色々と掌握するものを選択しなくていけないからものすごく面倒なのだ。そもそも空気の中で掌握するものとか俺にはよく分からないし。
「このまま空間を開けておくか?」
「そうね。空を飛んでいる風景なんて見れるものじゃないし」
そういうことで空をまあまあのスピードで移動し出した俺。速度で言えば、大体時速百キロってところかな。空中高速道路だぜ。
なんて馬鹿なことを考えてみるが、まあこれくらいの速度ならすぐに首都まで着くことが出来るだろう。そんなことを考えながら俺は空の旅をするのであった。
余談だが、移動の途中でアメリアだけでなく、リリアスとダンガも空間を開けて空の旅を楽しみ出した。お前ら、その空間開けは俺のMPを使っているんだから一つの空間の歪みから見ろよ。無駄に疲れるだろうが。
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野宿の件ですが、作者が行って来た先日のキャンプを参考にしています。
この時期にテントで寝るのは暑いという友人の父からのアドバイスでテントみたいなタープで寝たのですが、物凄い大変でした。
地面が硬いのは割り切るしかないですが、虫の侵入が・・・。
そんなわけで、キャンプをするなら春とか秋の方がいいなと思った作者でした。




