第95掌 選択を迫る
俺達がアネッサさんの部屋からギルドホールへと出てきたら、クラスメイト達十人はギルドホールにある椅子に座りながら器用に寝ていた。
「出て来るのが遅かったかな?」
「いえ、そんなことはないと思いますよ。皆さん、疲れているご様子でしたし。その疲れが出ただけではないですか?」
と、俺の呟きに近くで受付をしていたハルさんが答えてくれる。まあ、俺達が来るまでこの十人は村を氾濫したモンスター達から守っていたんだもんな。それに、怪我をしている者たちもいる。一応、治療はされているが、完治はしていないので包帯などは巻かれたままだ。
「そうですか」
ハルさんに短く相槌を打つと、俺はミッキー先生の所まで行って、しゃがみこんで話しかけた。
「先生。ミッキー先生!」
「ふぁい?」
ダメだ。完全に寝ぼけている。これじゃこの後、話し合いなんて出来そうにないな。
「今日は話し合いは無理そうなので宿に送ります。話し合いは明日でいいですか?」
「ふぁい。お願いしますぅ」
それだけ言うと再び眠りにつくミッキー先生。
「それじゃ、行きますかね」
ため息をしてから、俺は立ち上がった。
「よっと」
今日の氾濫の時の行き帰りで使ったMP操作で十人を浮かせる。その光景を見ていたハルさんや他の受付嬢、それにその場にいた冒険者たちは驚いていた。けど、特に俺が気にする必要はないので普通にスルーだ。
ちなみに、俺がMP操作を使った瞬間、アメリアがビクッとなっていた。そこまで恐怖を刻み込まれたのかよ・・・。仕方ない。今後はこういう移動手段を取るときにはアメリアは俺が抱えていくことにするか。戦闘しながらの移動とかなら今まで通りに浮いていてもらうけど、それ以外は抱えて行こう。
俺はそう思いながら十人を俺達が拠点を手に入れるまでお世話になっていた宿屋へと連れて行ったのだった。
宿屋に着くと宿屋の店員に十人分の宿泊代を出し、ベッドへと寝かせておいた。勿論、男女別々に分けてな。それと、一応念のためにここの様子がすぐに分かるように把握指定しておく。これで何かあったら俺がすぐ分かるようになった。ついでに風魔法で害意のある者は通れないように設定した風魔法で結界を張って置く。恐らく、疲れ切っていて起きないだろうからな。
そして俺は、明日、この宿屋の食堂に来るのでその時に話し合いましょうという書置きをミッキー先生の横に置いて宿屋を後にした。
リリアスたちには先に帰っていてもらったので、帰りは俺一人だ。流石にもう夜になっていて、辺りも暗いし、地球・・・というより日本より治安も良くない。物騒な夜は出来るだけ危険がないようにしないとな。それに俺だけならスキルとか使えばすぐに拠点に帰れるし。
・・・
次の日。
朝、俺はリリアス、ダンガ、アメリアを連れて宿屋へと来ていた。
「あれ~?いないな」
俺は宿屋の食堂を見渡すが、クラスメイト達は見当たらない。
「タカキさんタカキさん」
「ん?どうした、リリアス?」
「もしかしたらまだ起きていないんじゃないんですか?」
ああ~。確かにあり得る。俺にも覚えがあるしな。地球にいた頃、かなり疲れていたのでいつもより早めに寝たのに起きたらいつもより遅い時間に起きていたってことがあった。
「どうする?」
アメリアが聞いてくる。
「まあ、今日は予定があるわけでもないし、のんびり待たせてもらおう」
「そうだな。飯でも食うか」
俺の言葉に賛成して、ダンガは食堂の店員さんを呼んだ。そして、四人分の朝食を注文し、ゆっくりと四人で久しぶりの宿屋での朝食を楽しんだ。別にそんなにここを出てから経っていないのに久しぶりと感じるのは不思議な気分だな。
そんな感じでのほほんとしていると二階からドタバタとした音が聞こえて来た。
「起きたかな?」
そう呟くと、二階から樹里とミッキー先生が急いで降りて来た。
「よ、よかったぁ。まだいてくれて」
樹里が心底ホッとする。別にこれくらいで腹を立てて帰ったりしないよ。それに時間の指定はしていなかったし。
「それより他の八人は?」
「まだ寝ているわ。やっぱり相当疲れていたのね」
先生が申し訳なさそうにする。
「まあ、いいですよ。起きてくるまで待ちますから」
「ありがとう」
「いえいえ」
それから一時間後。残りの八人が起きて来た。というか、起こされて来た。一時間近く待ったが一向に起きてこないので樹里とミッキー先生が流石に怒って起こしに行ったのだ。あ、別にここはボケてないからね。偶然、怒って起こしに行っただけだから。
「まったく」
樹里がブスッとしている。
「まあまあ。別に俺達は怒っていないから」
「谷上君がそういうならいいのだけど」
「それより話をしましょう。俺が聞きたいのは―――――――」
「私たちがこれからどうするのか?ってことよね」
「はい」
ミッキー先生が先んじて俺が聞きたいことを言って、確認してくる。
「私たちとしてはこのまま孝希君の旅に同行したいと考えています。勿論、この十人が全員あなたについて行くとは言っていないけど、何人かはそう思っているわ」
まあ見た感じ、樹里とミッキー先生、それに男子二人と女子三人はついて行きたそうだな。でも・・・。
「まあ、ダメですね」
「なっ⁉どうして?」
「ん~。それを話すのはここではちょっと・・・」
「なら場所を変えましょう。どこかいい場所はない?」
ミッキー先生は焦ったように聞いてくる。
「それならいい場所がありますよ」
そして俺が提案した場所は―――――――――――
「ここって?」
「俺達の拠点です」
「なっ⁉」
まあ、驚くわな。今、俺達はグラスプの拠点にいる。まあ、流石に十人全員とくつろぎながら話せる部屋はないので外になってしまったが。
「ここなら誰にも聞かれないで話が出来ます」
我が拠点の防衛機能は万全である(ドヤァ)。
「それでは話の続きを聞かせてもらいます。どうしてダメなの⁉」
「まずは謝らないといけない」
俺の急な言葉に十人は不思議そうな顔をしている。
「あなたたちがこの異世界に来てしまったのは事故によるものだ」
「えっ?」
「どういうこと?」
「は?」
と、クラスメイト達は意味が分からないといった感じでいる。
「本来は俺一人だけがこの世界に来るはずだったんだ。しかし、神の手違い・・・というよりさっきも言ったように事故だな。その事故によりクラスメイト達が俺と一緒に異世界に飛ばされてしまった」
「じゃ、じゃあ、本来はお前が勇者だったのか?」
「ああ。まあ、俺はそこのリリアスのおかげでそのライドーク神国の面倒な政治の道具にされることもなく、こうして自由に行動出来ているんだがな」
『『・・・』』
みんながリリアスに視線を向ける。
「じゃあ、お前は俺達を身代わりにこうして自由に行動しているっていうのかよ!」
メガネをかけた男子の一人が憤りながら言う。
「ああ。そうだ」
「っ⁉」
「だが、勘違いするなよ?お前たちが今こうしてここにいるっていうことは勇者としてライドーク神国に政治の道具にされない選択肢もあったということなんだから。それを放棄して自分から勇者になると言った奴のことは俺は関与しない」
「そんな無責任な・・・」
ポニーテイルの女子が呟く。
「そもそも、俺はあんたら以上に危険な依頼を神から出されているんだ。文句とかは言わせない」
「神の依頼?」
樹里が聞いてくる。
「ああ。前任の神の眷属の殲滅、もしくは捕縛という依頼だ。それをあんたらは出来るって言うのか?ランクにしたらSSSランク以上は確実な相手だぞ?」
この世界で冒険者になったというのならモンスターのランクぐらいは分かるだろう。SSSランク以上と言うのがどれだけ危険なモノかを。
「でも・・・。それなら・・・」
それでも食い下がるクラスメイト達。
「それなら自分たちが手伝うって?じゃあ、あんたらのレベルを言ってみろよ。俺と肩を並べるっていうなら現状でレベル50は超えておいてもらわないと話になんないな」
「じゃあ、あなたのレベルはどのくらいなのよ!」
そう言ってくる三つ編み女子。
「言っても納得しないだろうからな。見せてやる」
そう言って俺はステータスを提示する。
タカキ・ヤガミ 男
種族 神の使徒 (ヒューマン)
レベル 136
HP:4356/4356(+500)
MP:4447/4447(+500)
STR:4374(+500)
DEF:4278(+500)
INT:4331(+500)
AGI:4469(+500)
MND:10300(+500)
固有:全掌握(下位の把握を偽装として表示できます)
スキル:オール・ブースト
疑似神眼
高速移動
棍術
投擲
短剣術
硬化
浸透
MP操作
二刀流
剣術
戦闘術
孤軍奮闘
詐術
隠密行動
暗殺術
威圧
隠蔽
火炎無効
重力操作・自己
指揮
視界不良耐性
夜目
魔法:水魔法
植物魔法
風魔法
火炎魔法
土魔法
加護:地球神の守護
俺のステータスを見て、固まるクラスメイト達。というか、見せれるってどういうことだってならないのはまだ混乱しているからか?
「なに?これ」
ミッキー先生が辛うじて言葉を出す。
「これが俺のステータスです。これでもまだ足りませんけど」
「これで足りないって・・・」
男子はどうすりゃいいんだよって感じの表情をしている。
「俺の仲間はいずれ上限のレベル500までいってもらいます」
「レベル500・・・」
途方に暮れるクラスメイト達。
「覚悟があるのなら俺も仲間はともかく、協力者としてなら考えましょう」
リリアス、ダンガ、アメリアにはすでに改めて聞いてあることだ。そして彼女らは俺の頼みであり、問いに即答で答えた。仲間になると。まあ、今更何言ってんだってボコボコにされたけどな。
「でも、俺達だってここまで自力で来たんだ!少しぐらいなら役に立つはずだ!」
「それは勘違いだな」
「何っ⁉」
「なんでレベルも低く、明らかに弱いお前たち十人がここまで来れたと思ってんだ?」
「それは・・・俺達の実力で・・・」
「おいおい。そんなわけないだろうが」
「じゃあ、何だってんだよ!」
「お前らは神が申し訳ないと思って派遣していた俺以外の神の使徒に守られていたんだよ。気づかれないようにな」
『『‼』』
心当たりがあるのだろう。一様に反応している。
「それでも自分たちの力だけでここまで来れたと思ってんのなら必要ない。今すぐここから出て行け。覚悟があるのなら明日、もう一度ここに来い。試してやる」
「試す?」
ミッキー先生が聞いてくる。
「ええ。そうです。明日の昼、俺VSそっちの十人で模擬戦をします。それで俺が認めたらあなたたちを仲間として迎え入れましょう。勿論、その覚悟のない者、俺の仲間になる気がない者は来なくても構いません」
それだけ言って俺は屋敷の中へと戻って行った。リリアスたちはそんな俺について来てくれた。
残された十人はその場で茫然と立ち尽くしていた。
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よろしくお願いします!
おかしいな?
もっとゆる~い感じになるはずだったのに。
どうしてこんなシリアスになっちゃったんだ?




