初陣
盗賊という単語にシーフとルビを振らせてもらいました。以後、盗賊とさせて頂きます。ご承知下さい。
狼の数は変わらず6匹で間違いないようだ。
そして今も俺を中心に取り囲むようにして円陣を組んで、くるくると時計回りに回りながら徐々にそれを狭めてきている。こう見るとサーカスの動物使いにでもなったようだ。
だが、それも長くは続かなかった。
ある一定の距離まで迫ると、示し合わせたように一斉に飛び掛かってきた。
しかし、今の俺にはそんな攻撃は止まって見える。
右手で正宗を逆手に持ち替え、その場で腰を深く落とす。
「嵐刃!」
膝をバネのように使い、飛び上がりながら回転する。そのままの勢いで正宗を振るった。
狼たちは俺が起こした切れる竜巻に接触するたびにその体をズタズタに引き裂かれていく。
普通は二刀専用のスキルなんだが発動して助かった。
竜巻が止み俺が着地すると、狼たちも声を上げるでもなくその場に倒れ伏していく。何匹かは衝撃により吹き飛んでしまっているのもいるが、生きてはいないだろう。しかし、モンスターとはいえどあまり気持ちのいいものではないな…。切った感触なんか特に。
ふぅ…。と安堵の息を吐いた瞬間、背後から大きな歓声が上がった。
振り返ってみるとギルドハウスの前で人々が肩を抱き合い、喜びを分かち合っているようだ。
そして俺に駆け寄る冒険者達。
いや、マジ遅いんですけど…。一応一緒に走り出しましたよね?
「お前さん見た目は旅人のようだが、冒険者なんだろう?一撃でC級のシルバーファングを6匹もやっちまうなんてよ。大したやつだ!」
その中で一番大柄な男が俺に向かってそう言う。斧を担いでいる上、かなりの重武装だ。パーティの中の前衛といったところか。俺にはどうもシュワちゃんに見えるがな。
っと、気になることを話したな。C級?
「あんさんB級か?C級冒険者がパーティで戦ってやっと勝てるようなやつらを一人で全部倒しちゃうなんてさ!」
今度は変わって一番長身の男が話しかけてくる。こいつか、さっき弓を射たのは。男の背中には先ほど俺が見た弓が掛けられている。彫りは深いが二枚目然とした顔にイラっとくる。が、説明ありがとう。ノッポ君。
この世界はどうやらモンスターや冒険者にランクを付けているようだな。
C級モンスターだと、C級の冒険者パーティで対応できますよって感じか。
おっと、情報収集は後回しだ。
俺は黙って少女を指差す。大した怪我はないと思うが、思いっきり前のめりにこけていたからな。
何も言わずともそのジェスチャーだけで察してくれた癒し手らしき女性がすぐさま少女の様態を確認してくれた。
特に問題はないらしい。よかった。
しかし、やはり擦り傷はあったようで女性は女の子の膝に手を翳し、何やらぶつぶつと呟いている。すると、目に優しそうな緑の光が手を翳した部分を淡く照らし出した。
回復魔法のようなものもあるのか。やはりRPGみたいだな、この世界。そういえば日本語で話していることも今更ながら気付いた。
「お兄さん…。あの…、ありがとう。」
もう怪我が完治したらしい少女が、俺に向かって小さな頭を下げる。
よく見ると10歳くらいだろうか。普段であれば快活そうな顔で、肩まである茶髪を揺らしながら走り回って遊んでいるような雰囲気だが、今は死に直面してしまったことから憔悴してしまっているんだろう。お礼を言うのがやっとのようだ。いや、その状態でお礼が言えるんだから逆に大した子だ。
俺はその子が頭を上げるのを見届けてから、首を縦に振って答えた。
え?いやいやなんて言えばいいのか言葉が出てこないしね。仕方ない仕方ない。気持ちは汲み取ってくれるはず!
目立ってしまったし、もうこの場から一刻も早く立ち去りたいのだが、まだすべきことがある。というか今のこの雰囲気を逃す手はない。さあ、言え言うんだ!
俺が意を決して口を開いたその時。
グゥゥゥゥゥゥ!
情けない音が俺の腹から辺りに響いたのだった。