明晰夢
何が…、起きたんだ?
暗い部屋からいきなり明るくなったから目が慣れない。
とりあえずは上体を起こしてみる。
ここは外なのか?
風が体を撫でていく感覚がある。しかもこの明るさ…太陽なのか?
俺はゲームを起動しただけのはずだ。
なんで外なんかに。
あ、目が慣れてきた…ってえええええええ!
ここはどこだ!?
田舎の街道と思われる道端に俺はいた。
見渡せど木々が所々に点在している野原でしかなく、家屋は見えない。舗装もされていないあぜ道が地平線の奥へと伸びているのが確認できるだけだ。
まてまて落ち着け。
これはあれだ、夢だ。
ゲームしながら寝落ちなんて何回もやったことじゃあないか。
今回もそれに違いない。きっとそうだ。そうに違いない。
試しに思いっきり頬を抓ってみる。
ん?おかしいな相応の痛みしかない。
痛みも感じる夢なんてあるのか…。
でもこれってどうやって目を覚ませばいいんだ?
あああああ、考えていても埒があかない。どうせいつか覚めるだろう。
とりあえずは、リアリティのありすぎる明晰夢だとでも思っておくしかないか。
よいしょの掛け声と共に、立ち上がった俺は自分自身を見回してみる。
なんか身体が軽い感じがする。それになんだこの服装、どこかで見覚えが…あっこれ俺が今キャラクターに装備させているやつだ。
黒と白の入り雑じった、忍び装束を少しラフな感じにしたような服。俺が今やっているMMORPGでキャラクターに装備させていたエンドシノビ系一式だ。
ってことは、懐の内側に…あった。
取り出したのは左右の腰脇に差していた短刀2本。正宗と景光だ。
おお!質感も重さも本物っぽい感じだ。
切れ味はっと…。
俺は自分の一番近くに生えていた木に短刀を携えて近づく。試し切りしてみたさだ。
もうこれは、今やっているMMORPGの夢で間違いないようだ。
ここまで毒されているなんてなぁ…。少しは控えようかな。
自分のゲーム脳に苦笑しながら短刀のリーチが木に届くところまできた。
よし!いっちょやってみっか!
「背後強襲!」
技名を叫びながら木に向かって短刀を振るった。てか勝手に身体が動いた。
人であれば背中に深々とX字傷が刻まれているであろう。
おお!すげえちゃんと技も反映されてるようだ。
木に背後も隙もないけど試し切りなんだし、まあいいだろう。
そして俺は短刀を腰に戻す。すると同時に木がミキッと音を立てて真っ二つに折れた。幹だけにってか?ハハハ
ええええええええええええええええええええ!
威力パねえ…。
もうこれ盗賊ってレベルじゃなくね?