第八話 大将軍・何進
しばらく、投稿できなくてすいません。
一八四年、一月。宮廷に衝撃が走った。冀州を中心とした、大規模な農民反乱が起こったという。黄色い布を巻いた反乱軍はすでに幽州、青州、揚州、荊州、并州、豫州、兗州に及んでいるという。
霊帝は、対策会議を開いた。対策会議とは言っても参加するのは十常侍だけであり、判断は十常侍のいい方向のみに向かう。不毛な会議は幾日にも及んだ。
そんな会議に激動が走ったのは数日後のことであった。いつものように霊帝のご機嫌取りをしているとそこへ声が響いた。
「失礼いたす!」
そう言って議事堂へ入ってきたのは今や河内尹(司州河内郡。首都洛陽が置かれる)を束ねる位まで昇進した何進であった。
「無礼であるぞ、遂高(何進)!誰の許可を得てこの場へ入ってきた」
十常侍の筆頭格である張譲が叫んだ。
「そう怒らないでいただきたい、季発(張譲)殿。この度はある人物に合わせとうございました故にこうしてやってまいりました」
何進はそう言うとその「人物」が縄に縛られてやってきた。張譲が思わず顔を伏せた。
「そのものは何奴じゃ?」
霊帝が尋ねる。
「は、この者は馬元義というもので、洛陽に潜り込み、あろうことかこの宮中で反乱への協力者を探していたのです。先日捕らえて情報を聞き出し、その上で此方へ連れて参りました」
霊帝は少し考えると、
「では、この裁きは張譲に…」
「お待ちください。裁きは陛下自ら下していただきとうございます」
霊帝の言葉を遮り、何進が言う。
張譲は震え上がった。顔に汗をダラダラと流していたのを何進は見逃さなかった。
霊帝は、
「ふむ、よくはわからぬが朕の義兄がそう申すのであればそのようにしよう。張譲よ、異論はあるまいな?」
張譲は霊帝の問いに小さく、はい、と答えただけであった。
「何将軍、お見事でしたぞ」
屋敷で待っていたのはつい最近部下にした曹操と袁紹であった。
袁紹は四代に渡って三公(司馬、司徒、司空の三つの官位を纏めた言い方。皇帝や非常時の職をを除くと最高職。それぞれ、司馬は軍事、司空は土木、司徒は行政を担当する)を輩出した名門、汝南袁家の名門で、本人自身もかなりの能力を持っていた。
今回、馬元義を連れて行ったのは曹操と袁紹の知恵によるものだ。
馬元義から聞き出したのは、太平道の詳細や情報、これからの計画など様々だったが、最も美味しかったのは「張譲が黄巾賊に加担した」ことである。
この情報を知った曹操と袁紹は馬元義の利用を何進に説いた。
「ははは、この度は実に見事だったぞ、曹操、袁紹。やはり儂の目に狂いはなかったわい」
豪快に笑う何進に曹操はさらなる策を授ける。
「張譲の屋敷に行って少し揺さぶりますか」
「それはいい。是非、おぬしに行って欲しい」
何進は曹操の考えを喜んで採用した。
「では、共一人を連れて行ってまいりましょう」
なぜだ、なぜ馬元義を何進が捕らえているのだ。
そう思わずにはいられない。
三日前のこと、馬元義が密かに張譲の屋敷までやってきて太平道のことを告げた。欲に駆られた張譲はそれを受け入れた。あの時、もう一人仲間を増やす、と言った。
なぜあの時馬元義を行かせたのだ。
「ご主人様、曹操と言うものが面会を求めています」
屋敷の番兵が入ってきた。
「通せ」
短く答えて張譲は客間へと向かった。
「初めまして、張中常侍(中常侍は皇帝の侍中。張中常侍は張譲のことを表す)。何遂高配下の曹操です」
曹操は張譲の怯えた顔を見てニヤリと笑った。
「う…うむ。わざわざご苦労である。儂が張譲だ」
この場所に来た理由は分かっている。分かっているからこそ恐ろしい。
そんな様子を見た曹操は口を開いた。
「我が主人、何将軍は中常侍どのとの対立を望んでおりません。中常侍どのが何将軍に手を出さなければ何将軍は今回のことを黙っていると申しております」
「さあ、何のことかな?儂は遂高殿に脅されるような弱みは持っておらんが?」
こうなったらやけだ。あくまでシラを切ることにした。
「ほう、貴方がそのような態度をとるのであれば我々にも考えがあります。どうぞ、震えてお眠りください」
そう言い残すと曹操は去って行った。
さて、これからどうするか。少し考えて、張譲は思いついた。何進の責任を重くすればいい。そう考えた張譲は霊帝の元へと向かった。
「何将軍、帝より任命書が届いております」
何進はそれを受け取ると開いてみた。
「何遂高を黄巾賊討伐軍の大将軍に任ずる」
何進は急いで曹操と袁紹を呼び寄せた。
「急ぎの用件とはなんでしょう」
二人はすぐにやってきた。
「これを見てみよ」
曹操と袁紹は任命書を受け取り、顔をしかめた。
「張譲の仕業でしょうか?」
「あらかたな」
大将軍とは、臨時に置かれる軍の最高職で官位の上では司馬をも超える。しかし、実質の権限はないただの名誉職である。今回、問題視しているのは、反乱を討伐できなかった時その責任が何進に降りかかることだ。しかも軍を動かす権力はない為、自分では何もできない。
何進が頭を抱えていると曹操はこう進言した。
「十常侍に恨みを持つものは多数おります。そこで各々で官軍を上げさせるのです。しっかりと訓練された官軍であれば鎮圧も必ずできましょう」
何進は顔を上げた。
「それはいい。至急、皇甫嵩、朱儁、慮植に出兵させ、牧(州のトップ)や太守(州の一個下、郡のトップ)にも軍を上げさせてくれ」
「「はっ!」」
二人はそう言って出て行った。
果たしてこの戦はどうなるか。何進は討伐戦、そして自分の運命について考え出した。
これから字が多く出てくるので、「字逆引き辞典」を制作しております。出来次第、「番外編集」に上げるつもりなのでどうぞご利用ください。