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三国志英雄戦記  作者: 羅本
三章 義兄弟、発つ
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第十一話 四人vs五百人

 劉備たちが向かった山は「定跡山」と言う山で、高さ、幅ともに張飛と出会った山の三倍程度はある。地形は比較的平坦であり、山というよりは台地に近い。

「さて、玄徳殿は作戦をお持ちでしたな?」

 関羽が長い髭を撫でながら聞いた。

 劉備は少し頷くと作戦を話し始めた。

「まずは黄巾賊の北の一部隊を切り崩す。闇夜に紛れて暗殺すればいい。そこで黄巾賊の装備を奪うんだ。それが済んだら、益徳。君は黄巾賊に紛れて中央の総大将がいるところへ向かい、そこで散々に暴れてくれ。そして、ある程度時間だ経ったら狼煙を上げろ」

 応、と張飛が叫んだ。

「雲長殿、子竜。君たちはそれぞれ狼煙を合図に東西から攻めてくれ。俺は南から攻め上る」

 劉備は話し切った。

「北がガラ空きだぜ」

 張飛が心配そうな顔をした。

「我々の仕事は張商人殿の荷物を取り戻すことだ。できるなら戦わず逃げてもらいたい。それよりも相手に荷物をまとめさせないことが先決だ」

 劉備の言葉に三人は顔を緊張させた。

「行くぞ」


 第一の戦いは黄巾賊の百人部隊への切り込みである。

 そろりそろりと、四人で歩いていく。

「玄徳殿たちはここでお待ちください。私があの者たちを一気に斬り伏せます」

 趙雲が申し出た。

「しかし、さすがに危険ではないか?」

 劉備の言葉に後の二人が頷く。

「私はこう見えて結構腕には自信があるんですよ?益徳殿や雲長殿はこれから大仕事がありますし玄徳殿はうちの大将です。若い私の力もご覧に入れたいので是非!」

 劉備は仕方なしという顔になった。

「わかった、一思いにやれ」

 劉備の言葉を受け、趙雲は走って行った。


 趙雲は見張り番のところまで行くと、槍を構えた。

「何奴!」

 見張りが言い終えないうちに趙雲の槍は煌めいていた。

 ドサリ、と見張り番が倒れた。趙雲は槍を構え直すとすぐに中央に向かってかけた。

 ふんっ、やあっ。小さくもけたたましい声が響くたびに一人、また一人と倒れていく。百人斬るのはあっという間だった。

「見事だ」

 劉備はそう呟いた。


「黄巾、血に塗られてないの一枚持ってきましたよ」

 趙雲はそう言ってかけてきた。流石に百人切り倒すと趙雲の着た白銀の鎧は返り血で真っ赤であった。

「ご苦労さん」

 張飛はそう言いつつ、黄巾に泥を塗る。

「こうした方が賊も官軍にやられたと考えて油断するだろう」

 張飛は勝ち誇った顔をした。

「益徳にしてはよく考えたな」

 劉備は意外に思った。無鉄砲な張飛がそこまで考えていたとは。

「なあに。昔、賊と戦った経験からの知識だよ」

 謙遜しつつも張飛は嬉しそうだ。

「よし」

 張飛は頭巾を頭に巻き、中央の見張りの方に駆けて行った。

「全員、持ち場につけ」

 劉備の声に、関羽と趙雲もそれぞれの場所に行った。


 〜張飛side〜

 久しぶりの活躍の場に腕がなる。最後にこの蛇矛を振ったのはいつだったか。

 そんなことを考えていると、見張り番の顔が見える距離までやってきた。幸い、こちらの存在には気づいていない。それよりもさっきの趙雲による騒ぎで違う方向に意識が飛んでいるようだ。

 趙雲にいいとこを取られっぱなしでは自分の面目が立たない。三百人を切れると言ったからにはここの陣営の敵は楽々討ち取らなければ。

 そう考えながら、隠して持ってきた弓矢を構えた。張飛お手製の自前である。

 ヒュン、と飛んで行った二本の矢は二人の見張り番の喉元を貫いた。声も上げずに賊は倒れた。

 南無南無、と二つの屍に手を合わせたら直ぐに砦の門の中に入る。

「官軍が来たぞぉぉぉおお」

 大声で叫んだ。賊軍が乱れた。誰一人としてそれが誤報であることに気づこうとしない。俺は直ぐに首領の元へかけて行った。

「官軍、二千がこちらに向かっています」

 首領は大変小心者のようだ。

「ど、どうすれば良い⁉︎」

 左右の者に慌てて聞く。その瞬間に、首領から側近まで、一気に胴から血飛沫を上げた。

「な…なにをする…」

 そんな声が聞こえてきたが、直ぐに息絶えた。

 首領の首を切り取り、陣の外に投げる。いきなり飛んできた首領の首に賊兵どもはうろたえた。

「うおおおおお」

 雄叫びをあげながら蛇矛を振るう。統制のとれない賊軍を討ち取るなど容易い。百人くらい斬り倒しただろうか。玄徳に命じられたことを思い出し、狼煙台に上がる。篝火を焚き、狼煙を上げた。

 その瞬間、賊の外側が乱れた。この高い狼煙台からはよく見える。

 ドン、と狼煙台から飛び降りると、俺はまた蛇矛を振り回した。


 〜劉備side〜

 賊が、乱れている。

 俺は山の頂上を見て、そう確信した。立てられている黄色い旗がどんどん倒れていく。

 木の陰に身を潜めつつ、狼煙が上がるのを待つ。

 益徳が狼煙を上げるのを忘れていないか。それだけが気がかりだった。彼奴のことだから戦いに夢中で命令をすっぽかしていそうな気がした。

 しかし、十数秒後にそれが杞憂であることを悟った。

 モクモクと上がっていく狼煙を見ながら、剣に手をかけた。毎日欠かさず稽古してきた。これを振るってまともな兵とやり合うのはこれが初めてだ。心臓の鼓動が伝わる。

 スラリと抜かれた剣が月の光を反射する。

 えいっ。俺の掛け声は俺自身が乱世に身を投じることの始まりの声でもあった。


 〜関羽side〜

 昔、悪徳役人の部下と戦った時だろうか。この血がこんなにまでうずくのは。

 手に持った我が愛する青龍偃月刀、冷艶鋸(れいえんきょ)が殺気を帯びている。

 目標は三百人斬りだ。あの張益徳とかいう小僧に負けるわけにはいかない。河東より死地を渡り歩いた私は無双だ。

 その瞬間、煙が空へと立ち上る。

 さあ、戦いの時だ。冷艶鋸よ、唸れ、咆えろ。

 返り血や血の煙が辺りを赤く染める。この世に大義を示すべく、私の死闘が始まった。


 〜趙雲side〜

 返り血を浴びた鎧をある程度拭うと、木の陰に隠れた。

 手に携えるのは我が相棒・涯角槍(がいかくそう)、私を乗せるのは主人より賜りし白き名馬・白龍(はくりゅう)

 そして、目の前に臨むのはこれから走り抜けようとする黄巾賊のアジトである。

 まさか初めての戦いがこんなにも不利な戦であろうとは。まだ木の棒を振って戦っていた子供の頃には夢にも思わなかったであろうな。

 しかし、不利であるほど私の中に流れる武人の血は鼓動を早める。

 そして、この瞬間に上がった狼煙は私の背中を賊のアジトへ、そして乱れた世の中へ押したように思えた。

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