恋愛小説のライバルキャラに転生したけど死ぬのが嫌なので就職します。
試しに書いてみました(白目)
突然だけど、私、ある恋愛小説の中のとあるキャラに転生してた。
主人公のライバル、メロディ・ランカーに。
恋愛小説大好きでこの本ももちろん読んだんだけど、メロディって死ぬんだよね。
主人公を散々いじめ抜いて、最後嫉妬に狂って自分でかけた呪いの魔法で死ぬ、っていう胸糞設定。
あれ?もしかして私って、って気付いたのはその小説の舞台となる魔法学園に入る前、進路を決める時だった。
メロディが好きになった人は格好良いし優しくて人気者なんだけど、小説の内容通りに行くとどのみち結ばれる事はない。
嫉妬でおかしくなるのも嫌だし。
なにより自分の魔法で死ぬのは避けたい。
で、思いついた。「学園に入学しなきゃいいんじゃね?」って。
学園に入らなきゃその内容自体発動しないわけで。
私も平和な生活を送ることができるじゃん!
彼に会えないのは寂しいけど、きっと私には違う人が見つかるはず。
そんなわけで、私は学園に入学せず就職をする事に決めたのだった。
「メロディ、本当に君は進学しないのか?これだけ魔法の実力があるのにもったいない」
先生はなんとか私を説得しようとしていた。
この国では義務教育で16歳までは、学校に通う事になっている。
その後は魔力や剣術が優秀な者は、更に能力を伸ばす為に進学する者もいれば、家業を継ぐ為に就職する者、平凡な能力の為に就職しか出来ない者などさまざまだ。進学半分就職半分ってところかな。
私は小説の中でも優秀な魔法使いだった。もちろんこの学校でもトップの成績。だから先生も学園に入れたいのだろう。
でも入ってしまったら私は嫉妬で狂って死んでしまう。
幸い私の家は喫茶店をやっているから、就職先には困らない。
平凡な人生になるだろうけど、狂って死ぬよりは何万倍もマシだ。
「すみません、先生。私は自分の家を手伝います。もう決めたので」
ハッキリと先生に報告すると、私は職員室を出た。
これでいい。これで私の死亡フラグは完全に折れたはず。
主人公もこの後いじめられる事無く、好きな人と楽しい学園ライフを送れるだろう。
それは主人公にとっても、私にとっても一番いい選択なはずだ。
「ビバ!私の平凡ライフ!!地味でも幸せな人生を歩むぞ!!!」
こうして私は喫茶店の店員として、新たな一歩を踏み出す事となった。
2年後。
「いらっしゃいませ!お二人様ですか?こちらへ!」
私は喫茶店の看板娘として元気良く仕事をしている。
あの小説だと物語は終盤、丁度私が呪いをうけて死ぬ頃。
やはり進学せず就職したのは正解だった。
出会いは未だないけれど、毎日が充実している。
お客さんとのたわいのない話も楽しいし、最近は私の作ったケーキもメニューに並ぶようになり、美味しいと言いながら食べてくれるのがとても嬉しい。
今日も忙しい昼の時間を終え、厨房の一角で昼食をとる。
父の作るナポリタンは格別。お腹も空いているから夢中で食べてしまう。
死んだらこのナポリタンも食べられないし、やっぱり学園に行かなくてよかった。
カランカランと、扉につけたベルが鳴る。
私は慌てて口の中にあるものを飲み込むと、厨房から出た。
「いらっしゃいま・・・・」
お客さんの顔を見て、ドキッとした。
目の前にいるのは、あの小説の中の、メロディが好きだった人。
好きだったのに、決して叶う事のなかった人。
レイン・グランベル。その人だったから。
「お昼すぎちゃったけど、食事大丈夫かな?」
「え、ええ。構いませんよ。お一人様ですか?」
レインは私の言葉を聞くと、外で待つ仲間を呼んだ。
その仲間は、小説の主人公とレインの友達のリアム。
ああ、やっぱり主人公とレインは上手く言ったんだ。と私は思う。
「3名様ですね。ではこちらへ」
席へと案内する。レイン達はたわいのない話をしながらその席へと移動する。
水を用意しに私はカウンターへと行った。
なぜかコップに水を入れる手が震えている。
おちつかなきゃ。
よく考えたら学園はこの町にあるんだもの。今まで会わなかったほうが不思議なくらいよ。
ふう、と息を吐き呼吸を整え、レイン達の席へと向かう。
「ご注文はお決まりですか?」
コップをそれぞれに置きながら、3人に声をかける。
私から見て左側には主人公と友達のリアム。そしてその向かいにレインが1人で座っていた。
ん?主人公はレインの隣に座らないの?
・・・ああ、レインの顔を見たいから敢えて向かいに座ったのかな。
そう思ったんだけど。
主人公とリアムがレインを差し置いて仲良くメニューを見ている。
身体がなんとなく密着してる感じだし、メニューを指差しながら二人できゃっきゃ言ってるし。
仲良くっていうか・・・いちゃいちゃ?
「じゃあこれと、これ。二人はこれでいいんだね」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
レインからオーダーを聞いて、私は厨房へと行き調理をしている父にオーダーを告げる。
客はレイン達しかしないから、厨房にいても3人の声が聞こえてきた。
ついつい彼らの話に耳がいってしまう。
「しかし、こいつと付き合えたのもレインのお陰だよ。ありがとな!」
「本当に仕方のない奴らだよ。お互い好きあってるのに、なかなか素直にならないんだから」
「私の背中を押してくれてありがとう。ずっとリアムと一緒にいれる様に頑張るね!」
・・・・なんてこった。
主人公はレインではなく、友達のリアムと付き合っているだって・・・!?
どこでどうそんな話になったのか、私は学園に入っていないからわからない。
けど、私が学園に入らないだけでこんなにも話の内容が変わるの!?
私の動揺をよそに彼らはさらに話を続けている。
「今度はレインの番だな。頑張れよ!」
「私達、ちゃんと応援するからね!!」
・・・どうやらレインには想い人がいるようだ。
その事実に少しショックを受けてしまう。
もしかしたら、私が学園に入っても小説通りにはならなかったのかもしれない。
あの小説では、メロディは高飛車でわがままで、プライドが高くて。
でも今のメロディは私だし。
そもそも私は本の中のメロディとは逆の性格。きっと学園に入っても主人公をいじめる事もないだろうし、呪いなんてかけることもなかっただろう。
そんなメロディだったら、もしかしたらレインは好きになってくれたのかもしれない。
・・・って事をなんで2年前に気付かなかったんだ!!
結局自分で逃げてチャンスをものに出来なかった、という事に今更ながらに気付く。
私は物凄く落ち込んだ。
出来れば仕事放棄して部屋に閉じこもって泣きたい。叫び泣きたい。
父の「出来たよ」の言葉に現実に戻される。
私は気を引き締め、料理を運ぶ。
今にも溢れそうな涙をこらえながら。
今日帰ったら泣こう。思いっきり泣き叫ぼう。うん、そうしよう。
「おまたせしました」
レインの顔を見ないように目線を下にする。
多分顔を見たらこらえていた涙が溢れてしまう。
私はこの3人を知っていてもこの3人は私を知らない。
いきなりこの前で泣いてしまったら、変人確定だ。
どのみち付き合えないにしても、レインの心の中に変人という女で記憶されたくはない。
私はオーダーに合わせてそれぞれの場所に料理を置いていった。
そして最後にレインの前に料理を置いたその時。
パシッ。
引っ込めようとした手をレインに掴まれた。
「えっ!?」
驚いてレインを見る。
レインは情熱的な瞳で私を見ていた。
その瞳に吸い込まれそうになる。
頭の中は真っ白だ。
「メロディ、・・・メロディ・ランカーさんですね。私はレイン・グランベル。あなたを去年この喫茶店の前で見かけたときから、ずっと気になっていたんです。お友達からでいいので、付き合ってもらえませんか?」
悲しかった気持ちが一気に吹っ飛ぶ。
それと同時に私の顔が赤くなっていくのがわかった。
まさか・・・、まさかこんな展開になるなんて。
ぼうっとした頭の中で「自分の選択は間違ってなかったのね」とあの時の自分に感謝した。