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Aから始まる異世界・恋愛・探訪記  作者: そせすしさ
3/3

Cボーイよ、さようなら

R-18部分も書いたには書いたのですが、たぶん誰にも見せることはないでしょう。

 犬人の村レシアに着いたのは昼前だった。


「久しぶりね、セシル」

「ベルンこそ。元気だった?」


 おれはガッツポーズした。犬耳、尻尾の美少女が迎えてくれたからに他ならない。


「はじめまして、セシルさん。セイジ・タナカと申します。どうぞセイジとお呼びください」


 ん? 姓名がひっくり返っているだって?

 郷に入らば郷に従えというやつだ。別に美少女を気にしてとかそういうわけではない。


「ご丁寧にありがとうございます。セラス・セシリアと申します。一時期帝都に住んでいたことがあって、ベルンとはそのときからお友達なのです。セシルと呼んでくださいね」


 ん? 姓名ひっくり返さないの?

 ベルンがそっと耳打ちしてくれた。犬人の名乗り方は独自のルールがあるそうだ。なら仕方ないね。空回りしてしまったがいちいち気にしたら負けというものだ。

 にしてもセシルはほわほわした雰囲気の癒し系だ。マイナスイオン的なオーラが見えそうで見えない。


「セシルさん、ご趣味をお聞きしても? お好きな食べ物は? 血液型は? いいいい今お付き合いしている方アイデェェェェェ」


 足に激痛が走る。ベルンの足が俺の足の上に乗っかっている。


「うっさいわよセージ! 黙ってなさい!」

「うふふ、ベルンが誰かと旅をするなんて珍しいのです」

「ちょっとね。話すと長くなるわ」

「ベルンも疲れているでしょう? お昼ごはんごちそうするのです。セイジさんもいかが?」


 ぜひ頂きたいのですワンワン。

 セシルの家は村の入り口からそう遠くない位置にあった。セシルは俺たちをリビングルームに案内し、お昼ご飯に紅茶とサンドウィッチを手早く用意してくれた。


「セシルさんは独りでお住まいなのですか?」

「いいえ、兄たちがいるのですが、帝都に資材を買いに村の男手は皆出払っているのですよ。両親と妹と弟が隣の家に住んでいるので寂しくないのです」


 ほわっとした笑顔が愛おしい。いや、もはや尊い。あまりの神々しさにくらっと膝から崩れ落ちそうになるのをこらえる。


「男手総出で資材買ってどうするつもりなの?」

「学校を作るのですよ。妹も弟も大喜びなのです」


 黒髪のきりっとした美少女とふわっふわの茶髪の美少女の対談は絵になるな。ベルンはそれなりに胸があるがセシルは小ぶりな胸だ。だが幼い雰囲気の彼女をより幼く見せるその胸は保護欲をかきたてる。ほっそりした二の腕もまた彼女を華奢に見せている。しかし、年齢はベルンや俺とそう変わらないとみた。そう、これは……


 合 法 ロ リ


 ロリコンではなくとも幼いものには保護欲を感じずにはいられない。


「ねえランドワンって知ってる?」

「うーん、聞いたことないのです」

「別の世界にあるんだって。別の世界とか言われてもよく分かんなくて」

「世界がいっぱいあるってことですか? 前にそんな文献読んだことあるような?」


 いつの間にやら俺の話題になっていたようだ。真剣に考えてくれているというのにしょうもない考えに耽っていたことに申し訳なさを感じずにはいられない。反省している。だが後悔はしていない。


「どんな文献だったか覚えてる?」

「確かエルフが著者だったのですよ。ただ名前もタイトルも覚えていないのですよ。お役に立てなくてごめんなさいなのです」


 エルフっていうと長寿かつ知性的な種族だったっけ。であればエルフに聞けば何か分かるかもしれない。


「エルフにはどこに行けば会えるんだ?」

「帝都に行けば会えると思うわ。エルフの集落は人間には到底行きつかないでしょうし、帝都のエルフに尋ねてみるのが無難でしょうね」


 ならこのままベルンに帝都に案内してもらえば間違いはないだろう。問題は帝都に着いたらどうするのか、だ。小銭の一つも持ち合わせていないため、宿も食事もとることができない。今はベルンが面倒を見てくれているが、その契約も帝都に着くまでである。彼女は俺との契約以外に仕事を受け持っているようだし、あまり迷惑をかけるわけにはいかない。


「ベルン、帝都に着いたらまずはどうしたらいいだろうか。手持ちもないし、この世界のことは常識を含め一切合切分からないことだらけだ」

「うーん、まずはギルドに行って登録して雑用依頼をこなすか、酒場で雇ってもらうとか。あ、アンタ魔法使えないんだっけ?」

「セイジは魔法が使えないのです?」

「そうなのよ、役立たずでしょ」


 役立たずとは心外だ。だが当たり前のことができない、というのは大きなディスアドバンテージである。この世界で俺は弱者なのだろう。元の世界では“普通”という大多数の中に紛れて生きてきた俺に、知らないことだらけのこの世界でどう生きのびればいいのか、という問題は大きくのしかかる。


「魔術師協会に行ってはいかがです?」

「魔術師協会?」


 俺もベルンも首を傾げた。


「魔術師協会では魔術師の育成を行っているのです。セイジさんに魔力があるかどうか診てもらえばいのです。もし魔力があるのなら練習すれば魔法も使えるはずなのです」

「もし魔力がなかったら?」

「ええと、そのときは、別の何かを探すのです」


 言いにくそうにしているが、はっきり言うとあきらめろってことか。魔法が使えるのか使えないのかはっきりさせるのは悪いことではないはずだ。まずは魔術師協会に行き、そのあとギルドへ行って登録を済ませ、日銭を稼ぐ。

 今考えられるのはこれくらいか。あとできることといったら帝都に着くまでにできるだけ多くの常識を身に着けるくらいか。

 俺はベルンとセシルの雑談に耳を傾け、時折質問しながら午後を過ごした。




「兄たちの部屋が余っていますので、ベルンもセイジさんもどうぞ泊まっていってくださいです」

「ありがとう、セシル! 宿をとるつもりだったのだけど、お言葉に甘えさせてもらうわ」

「ふふ、ベルンのお泊りは久しぶりなのです。兄たちもいませんし、いっぱいおしゃべりできるのです」


 夕食後、一日ぶりの風呂を堪能し、野宿と長時間の徒歩による疲れで俺は即座に眠ってしまった。深夜、突然の息苦しさを覚えて目が覚めた。ゆ、幽霊か?


「んんー」


 違う。この声は、セシルか?

 なぜセシルが俺の布団の上に?


「せ、セシル、どうしたんだ?」

「わかんないのです。ただ寂しくなったのです。ごめんなさいなのです」


 そういって頭をすりよせてくる。抱きつかれている。いろんな部分が当たっている。俺の理性が試されている。


「セシルさん、あの、俺、理性そんな強くないんで。離れてください。お願いします」


 今日初対面の女性に手荒な真似はしたくない。童貞は卒業したいが、やはりお互いの気持ちや重要だ。こういう行為は合意だのもとで行われるべきである。だいたいベルンも同じ屋根の下なのだ。ばれたらあのハンマーで殴られるに違いない。

 しかし、セシルは甘えることをやめようとしない。匂いはしないがお酒でも飲んだのだろうか。日本じゃないのなら飲酒に年齢制限は存在しないのかもしれない。


「セシル。だめだってば。男は狼なんだぞ。俺止まんないぞ」

「一緒にいちゃダメです?」

「ベルンだっているんだぞ」

「ベルン、疲れていてすぐ眠っちゃって起きないのです。セシル、寂しいのです」


 上目づかいをされた。かわいい。かわいらしすぎる。こともあろうか、足を絡められた。とどめだ。理性の堰は今叩き壊された。

 ここまでされて自制できるほどできた男なんているもんか。


「責任は取れないぞ。あと、絶対にベルンには言うなよ。お前から誘ってきたんだからな」


 さらば、俺のチェリー。俺は今夜、大人の階段をのぼるのだ。




 目を覚ますと隣には誰もいなかった。既にセシルは目覚めた後だったようだ。


「入りますよ」


 セシルだ。顔が火照ったのがわかる。


「おはようございます。疲れは取れましたか?」

「それなりには。セシルこそ大丈夫なのか? すまない、昨日は強引にやりすぎた」


 セシルの顔が真っ赤になった。


「お互い様なのです。ベルンには内緒にしてくれませんか」

「もちろん。俺の方からも頼む。ベルンに見捨てられたら路頭に迷って飢え死にだ」


 両手を上げ、降伏のポーズをとるとセシルはクスリと笑った。つくづく笑顔がかわいい女の子だと思う。ベッドに腰掛けた俺の隣に座る。


「ベルンは?」

「ベルンはもう出かけたのです。村の薬師さんに北方の薬草を売るのだそうです」

「そっか」


 お互いが口をつぐみ、沈黙が続く。先に口を開いたのはセシルだった。


「昨日はいきなりすみませんでした。私、その……」


 発情期に入ったみたいなんです、と消え入りそうな声で教えてくれた。


「初めての発情期で、ちょうど釣り合う年齢の男性もみんな村から出払っていて、」


 ぽそり、ぽそり、と言葉を重ねていく。


「自慰行為……というのでしょうか。それもよく分からなくて。あなたがいてくれてよかったです」


 初めての発情期でセックスを行うのが犬人族の慣わしなのだと彼女は言った。婚約者や想い人と行うのが理想的だが相手がいない場合、兄弟と行う場合もあるのだという。その辺の知りもしない馬の骨よりはマシということだろうか? そのために初の発情期が近くなった彼女は両親と離れ、兄と同居していたらしい。信じられない。あまりのかけ離れた文化に言葉を失った。


「安心してほしいのです。犬人と人の間に子ができたという話は聞いたことがないのです。だから何の心配もいらないのです」


 そういう問題ではないと思うのだが、彼女たち犬人の価値観はそういうものなのかもしれない。俺はそういった事情は全く分からないし、彼女も俺に常識が通用しないのは承知のはずだ。俺はあえて何も言わないことにした。


 遅めの朝ごはんを食べたあと、ベルンが帰ってきた。

 彼女は早朝のうちに出発準備を整えていたようで、出発するわよ、と俺をせかした。恐らく徒歩で帝都に向かうことになったため、タイムロスが大きいのだろう。俺のせいだと思おうとやはり申し訳ない。


「ゆっくりできなくてごめんね、セシル」

「ううん、気をつけてね、ベルン。セイジさんも気をつけて」


 軽く挨拶をかわして俺たちは出発した。

 去り際にセシルが耳元でささやいた。


「次の発情期は半年後なのです」


 何を言っているんだこの娘は。


「どうかしたの?」

「いいや、何でもない」


 言えるかこんなこと。

 セラス・セシリアは純粋そうな顔をしてなかなか食えない少女なのであった。


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