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マッチ君の一生

作者: ストレラ

即興で書いた。

丁度いい息抜きになりましたお(´ω`)

あ、ちなみに途中で出てくる歌みたいなのはモロ安部公房とかの影響受けてます。

ぼくはマッチ。

スーパーや雑貨店、コンビニなんかでも置いてある火付け役の代名詞ともいえる存在さ。

ぼくは今コンビニの隅っこで他のマッチさん達と一緒に、箱とそれを包み込むビニールの中で静かに人に買われるのを待ってる。

そこでは十人十色なマッチが集まってたよ。

赤い頭が小さい人、二人より添うようにくっ付いてる双子、木の部分が折れて具合が悪そうにしている人、ちょっとやさぐれてて木の部分が少しささくれてる人。

ほんとにいろんな人がみんな仲良く箱の中で並んでる。

みんないろんな夢を語ってた。

あるマッチ君はバーベキューの火おこしに使われたいんだって。

それ、ぼくもいいと思う。

ぼくのつけた火が、大きく轟々と燃え上って、食材を暖めて、それで人間たちがみんなワイワイ楽しくご飯を食べてる姿を想像すると、すっごくうれしい気持ちになるな。

別のマッチさんはアロマキャンドルに火をつけたいらしい。

うん、これもいいかも。

暗い部屋をぼぅっと照らして、そして空中にバラやラベンダーの優しい香りを放って人間をリラックスさせる。

ぼくのつけた火で人間が安らいでくれるならそれもすごくいいと思うな。

そんなみんなの夢を聞いていたら、ふと箱に衝撃が走ったんだ。

みんな、驚いて顔を見合ってた。

一人のマッチ君が大きい声で叫んだんだ。

「やった!俺たち買われたんだ!」

みんな歓声を上げてた。

ぼくも思わず嬉しくなって小躍りしちゃったな。

ただ単に買った人間が歩くときの振動で震えちゃっただけかもしれないけど、それでもすっごくうれしかったことには変わりないよ。

みんな人間が箱の封を開けてくれるまで歌ってたな。


カシャカシャ、カシャカシャぼくたちマッチ!

カシャカシャ、カシャカシャこれからぼくたち火をつける!

カシャカシャ、カシャカシャうれしいな!

カシャカシャ、カシャカシャこれからぼくたち火をつける!


どうやら人間の家に着いたみたい。

みんな息をひそめて緊張していたな。

あ!箱のビニールを剥がす音だ!

誰かが叫んでた。

みんな、それ来た!って顔したの、今でも覚えてる。

すーっと箱が開くと人間の顔が見えた。

すっごい綺麗なお姉さんだった。

そしてぼくたちのつけた火の明かりが、どこまでも吸い込まれていくような、綺麗な黒目をしてた。

マッチの一人が摘み上げられた。

すっごい満足げな顔してたよ。

みんな心の中で、

「がんばってこいよー!火つけてすぐに消えちゃうなよー!」

って思ってたみたい。

後で聞いた話なんだけどね。

それが初めてご主人様と対面して、このマッチ箱のマッチ達が使われた最初の日だった。

それから毎日何本かずつ使われていったよ。

どうも、ご主人様タバコ吸うみたいだった。

メジャーな使われ方でちょっと肩すかし食らっちゃったけど、でも僕はそれでも十分だと思ったんだ。

やっぱり使われなくてほこり被ってるより、使われた方が何倍もいいからね!

マッチ箱のみんなは日に日に減っていった。

みんな満足げな顔して旅立っていった。


そしてとうとう、今日僕一人になった。

なんかすごく心寂しい。

あれだけいたみんながいなくなっちゃうと、このマッチ箱の中も広いんだね……。

すごく風の通りが良くて、スースーして、寂しい。

早くぼく使われないかな?

ぼく、いっぱい燃える使い方してもらいたかったけど、今はそんなのどうでもいい。

早くみんなの所に行きたいよ!

……みんな。


……何日あれから経ったんだろう。

マッチ箱の外で人の大きい声が聞こえたり、泣いてる声が聞こえたり、なんかいろいろあったのかな?

だからタバコも吸わずにこうしてマッチ箱開けられてないのかな?

あの綺麗なご主人様の事を思うと、早く使ってほしい気持ち無くなってきちゃった。

ご主人様が落ち着いてからでいいや。

それまでぼくは……、我慢すればそれでいいんだから。

……みんな、満足してあっちの世界にいったのかな?

タバコって小さい火だけど、火である事には変わりないしな。

しかもご主人様に一番近い火だし、男たちはうれしかったのかもな。

ふふ、ちょっと楽しみになってきた。


今日いよいよその時が来たっぽい!

ご主人様がぼくを連れてお外に出た!

外でタバコ吸うつもりなのかな?

なんにせよぼくはすっごいうれしいよ!

今じゃ広いこのマッチ箱の中でぼくは大きく踊りまくる!


カラカラ!カラカラ!まだかなまだかな?

カラカラ!カラカラ!いよいよだ!

カラカラ!カラカラ!まだかなまだかな?

カラカラ!カラカラ!もうすぐだ!


ご主人様が立ち止った。

カバンを地面に降ろした?

なにやらばしゃばしゃ水の音がする。

なんだろう?

と、ぼくの入ってるマッチ箱に手が伸びたみたい!

揺れてる!

マッチの箱が開かれる。

まぶしい!

久しぶりの明かりだ!

そこにご主人様の顔がある。

ちょっと逆光で見にくいけど、どこかすこしやつれて、思いつめたような顔してたかもしれない。

ぼくを摘み上げる。

箱を閉じる。

ぼくを箱の茶色い部分に押し当てて、今まさに擦ろうとした時、ぼくは気づいてしまった。

ガソリンの臭いがする。

ぼくは思いっきり擦られた。

途端に、ぼくの内側に秘められていた力が爆発し、オレンジ色の炎がぼくの顔から噴き出した。

ぼくはやっと火をつけられた喜びと、これからご主人様が何をするのか、その不安とが心の中でない交ぜになって、ちょっと苦しくなった。

と、ご主人様はぼくを放り投げた。


え?


地面に着地、と同時に周りがすごい大きな炎に包まれた。

すごいガソリンの臭いがする。

炎はどんどん大きくなった。

ここまで炎が強くなると、安心感が生まれてきた。

ああ、ぼくはここまで大きい炎を作り出すことが出来た。

他のみんなはタバコの火だったけど、ぼくは何かわからないけどここまで大きい炎を上げることが出来たんだ!

向こうに行ったらみんなに自慢してやるんだ。

みんなきっと驚くぞ。


悲鳴が聞こえた。

男の悲鳴だった。

苦しくまともに息が出来ないのか、えずいたり咳き込んだりしてる。

それでいて全身に猛烈な痛みが襲ってるかのように喚き叫んでる。


なんだろう、すごい不安な気持ちが蘇ってきた。

この声はなんだろう。

ぼくのつけた火が原因なのかな?

それとも別の原因が?

なんか怖い。

ご主人様、これ違うよね?

ぼくのせいじゃないよね?

ご主人様はぼくの放った炎を見上げて呆然と立ち尽くしていた。

もうすぐぼくの体が消えてなくなる。

もうほとんど小さな炭になってしまった。

僅かしか残された時間はない。

ご主人様、何か言ってよ。

男の人の悲鳴はぼくのせいじゃないって。

言ってよ!

おねがい……おねがいだから……。



ここで、ぼくの意識は途切れた。





……次のニュースです。

立川で起きた放火事件の容疑者、飯島真理子27歳が今日、東京地検に身柄を送致されました。

飯島容疑者は被害者、中川一25歳と恋人関係にあり、振られたことへの復讐として放火したと供述しており、容疑を全面的に認めていると……

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