王子風、というか正真正銘『王子様』。
『そう大きな声を出すでない。【落ちモノ】の子』
『耳が痛とうてかなわんじゃろ』
「す、すみません……………あ、ああああの…」
『わしらか?わしはアスル』
『わしがナフルじゃ』
赤と青の小人は、希愛の肩の上でそれぞれ胸を張って名乗る。
小人はお揃いの服を着ていた。上は短めのベストで、下は裾がふんわり広がったズボン。頭にはターバンを巻いている。髪も目も服もそれぞれの色で統一されていて、色以外ではどちらがどちらか判別できない。
赤い方がアスル、青い方がナフルという名前らしい。
(そ、そういうことを聞きたいんじゃないんだけど……)
『では、何が知りたいのじゃ?』
「………………え?」
『答えてやらんこともないぞよ?』
「…………というか、今私、声に出しました……?」
そうだ。
そういえば『ここが日本なのか、どこなのか…』と希愛が考えていたときも、口には出していなかったはず。
だがこの二人は、考えていたことを読んだように話しかけてきたのだ。
(考えていることがわかる、のか……?)
『もちろんじゃ。わしらは【落ちモノ】の案内人じゃからのう』
『おぬしの考えていることは、手に取るようにわかるぞい』
「…………………もう、何がなんだか……」
希愛の生真面目な頭ではそろそろ限界だった。容量オーバーで頭がくらくらしてくる。
「どうかしたのか」
「ひぃ……!」
突然声をかけられ、希愛の喉からおかしな声が出た。
「…………な、なんだ。どうした」
「あ、いえ……すこし驚いて……」
顔を上げると、王子風の人が困ったような表情でこちらを見ている。
(そういえば、この人の名前聞いてないな…)
『イウサールの王子、イウサーラ・アミル・アフディルじゃ』
『この国の第一王子様じゃよ』
「へぇ……………って……お、おお…」
「本当に、お前…どうかしたのか?」
目つきは悪いままだが、心配げに金髪の青年がしゃがみこんでくる。
目線が近付くと男らしいが整った顔がよくわかり、その藍色の瞳に見つめられれば女の人は惚れてしまうんじゃないかと思う。
だが、希愛にはそんな余裕はなかった。
両肩に乗った二色の小人の言葉に、思考回路が停止しそうだったからだ。
「ほ、本物の………王子、様…?」
『そうじゃ。次期国王候補、じゃな』
軽やかに赤い方が告げる。
『無礼をせんようにのう。打ち首にされても文句は言えんぞい?』
怖そうな声を作った青い方が耳打ちする。
(変な小人はしゃべるし、日本に王子はいないし、なんとかって国も聞いたことないし、というか、この人はリアルに王子様ってことで……―――――)
ぷつん。
すでに容量の限界だった希愛の頭は、そこで限界を超える。
「はぅ………」
「お、おい!しっかりしろ!」
ぐるぐる回る世界の中で、正真正銘の王子だというその人の深い深い蒼が目に焼きついたあと、希愛の意識は途切れた。