表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

愛と気合いがあっても落ちる。

「えっと、これ芸名?」

「……違います」


何度このフレーズを聞いただろうか。

希愛きあいは心の中でひたすら大きなため息をついた。

そのたびに、母のほわほわした笑顔が脳内に浮かぶ。


『ちがうのよ?ママはね、【きあ】って付けたかったの。でもねでもね、パパがお役所に届けるときに間違えちゃったの。だからね、ママは【きあちゃん】って呼ぶからね。それでいい?いいわよね?ね?』


(いいわけ、あるか!)


脳内で相戸あいと家の母につっこむ。

少女趣味の老けない母は、それでもほわほわと笑っていたが。

眼の前の童顔のふくよかな店長は、何かに気づいたように驚いた顔をした。

「おお、名字と合わせて読むと『愛と気合い』なんだねー。面白いなー」

「…………いえ、それほどでも」

「そ、そう………?僕は面白いと思うけどなー…」

「いえそれほどでも…!」

「あ、ははは………じゃ、じゃあ面接の結果は土曜日までに電話でするからねー…今日はこ、これで…」

「……はい、よろしくお願いします」

(落ちた……)

そそくさと退席する店長に希愛は一礼しながら、心の中でまたため息をついた。



▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲



金曜日。


「とりあえず結果待ってみろって。まだわかんねーんだろ?」


隣を歩く友人、夕輝ゆうきが途中で買ったカレーパンを片手にそう言った。


「いや、落ちた。絶対落ちた」

「なんでそう言い切れるんだよ」

「今までの経験から…」

「……えっと、49戦49敗?」

「もうすぐ、50敗…」

「…………………」


二人の間に沈黙が落ちる。

希愛はこの名前と性格のギャップのせいで、アルバイトの面接に落ち続けている。

名前はともかく、性格は普通だと本人は思っている。だが、周りからは『真面目すぎ』や『頭が固い』と言われている。周囲いわく、『名前の字面と性格が違いすぎる』らしい。

この間はクラスメイトの女子から『希愛ちゃんって男前だよね、良い意味で!』と言われてしまった。


――――良い意味の意味を教えてほしい…。


「だからさ、名前とかそんな気にすんなって。つっこまれたら、『ですよねー!ウケるでしょ!』とか言っときゃいいんだって」


それができたら苦労はしない、と希愛は思うのだ。


「はい、練習!俺が面接官で。『面白い名前だねー』」

「………………『で、ですよねー!う、ウケるー…!』」

「……………やっぱなし。顔ひきつり過ぎ」

「はあ……」


ため息をついた希愛の肩を夕輝が軽くたたく。


「ま、結婚したら名字も変わるし、悩むのも今だけって考えとけよ」

「結婚って……できるかどうかもわからないもので慰められても、な…」

「お前はできるよ、絶対」

「なんの確信があって……」

「………ま、それはまた言うわ。んじゃな」

「……?あ、うん」


片手をあげ、飄々《ひょうひょう》とした足取りで去って行く友人を見ながら、希愛は重い足取りで家路についた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ