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7『殺戮の午後』

 今より二十八年前。

 その頃世界にはアンドロイドが溢れていた。

 理由は単純に高性能で安価だと言うだけでは無い。

 そのアンドロイドの販売権を勝ち取ったアストレアが、すでに世界レベルで有名で、いち早くその技術を商業に利用したからだ。

 アンドロイドは制御しやすく、また正確な動きを可能とする。また、使う燃料はほとんど太陽光で補う事ができ、またメンテナンスも自分達で可能ときている。さらに、特殊メイクの応用で肌を限界まで、声も合わせて人間に似せることも出来た。表情まではさすがに作りだせなかったようだが、それだけのメリットがあり、そのメリットによって人間の手を借りずに、さまざまな状況にも臨機応変に対応する事ができた。

 それによる効果は人件費の削減。

 人間ではどうしても手間がかかり、正確さが求められる場面で失敗してしまう可能性がある。

 しかし、アンドロイドはその人間のデメリット全て克服できる。

 商品配列から接客、果ては力仕事まで。

 さまざまな場面で正確なアンドロイドと、

 失敗する可能性を孕む人間。

 どちらか選ぶなら、勿論前者だった。

 また、先ほどのメリットから人間だと必要な経費のほとんども削減できる。

 アンドロイドが世界に広まって行くのはまさしく電光石火の如きスピードだったといえよう。そして、それも当然に思えた。

 また、アンドロイドに使われていた技術はアストレアや、世界中の学者でもしっかりとした理解はできなかった。

 よって、その技術をただアンドロイドを解剖してみるだけでは、その技術を誰にも盗みようが無かった。

 もともと、設計図をみて、ようやく組み立てができたと言うだけの事。

 それは、我々が授業を受けて、しかし本質的にはその授業の内容を理解できていない事と同じ。

 説明書を見ても、そこから理論を導きだせる人物は全くいないだろう。

 つまり、アンドロイドは、必然的に設計図を持つアストレアの独占となった。

 結果として、アンドロイドの独占販売によって莫大な儲けを得たアストレアは、世界で有名な大企業から、世界の中心の企業へと、公表からたった一年で進化させた。

 さまざまな国の政府のお墨付きとなったアストレアは、もう早すでに通常の国家の百年分の稼ぎを得るようになり、その倒産や、失脚はあり得ないものとなっていた。

 世界最大規模の超高層建築物。東部ビルディングという平凡腐った名前のそれは、アストレアの本社となった。

 竣工からたった半年で完成まで到り、世界最速と言われたほどの驚異的なスピードで建てられた。

 なぜ、そんなスピードでできたのか、理由は単純。

 アストレアはアンドロイドによって儲けた資金によって、世界中の建築技術を収集し、高速で建築を可能とさせたからだ。

 その作業にはアンドロイドも動員され、初のアンドロイドと、人間の巨大従事作業が行われた。

 完成し、初のお披露目。

 当然、アンドロイドがたくさん出展され、様々な催し物も行われた。

 そして、初代のアンドロイドもここで披露された。

 それはとある少女の、自らの技術の結晶だ。

 そして、それは盗まれたものでもあった。

 しかし、それに気付く者はいない。

 初代アンドロイドはロビーでのお披露目の後、ロビーの脇に機能停止させて、アストレアのマスコット的な扱いで置く予定となる。

 予定通り、ロビーの脇にそれは置かれた。

 お披露目から一週間後。

 いつも通り会社にやってくる社員達。

 その日は曇りだった。

 しかし特に不吉な感じは無い。その頃時期は秋雨前線がちょうど来ていたからなんら不思議はなかったはずだ。

 しかし、社員の中には不思議と悪寒を感じている者達が居た。

 理由は良く解らない。

 ただ、嫌な予感がする。

 しかし、予感は予感でしかない。

 昼までは特に変わった様子は無かった。

 そう、昼までは。


 しかし、午後三時過ぎ。


 ロビーに居たカフェの店員は目撃する。


 機能停止していたはずのアンドロイドの初号機が。


 動き始める所を。


「お、おいアレ、動いてるぞ」

 ロビーにいた社員の一人が、カフェテラスで相席にしていた友人の肩を叩いて、ロビー近くに居たアンドロイドを指差した。

 その友人は、はぁ、何言っているんだ? という感じで振り向き、それを見る。

 その時にはもう、アンドロイドは歩みを進めた頃だった。

 進む先には受付がある。

 受付の女性は、何処かへと電話する。

「すいません、技術部の方ですか? どうやら初号機が作動しているようなんですけど」

 電話の向こう側の声の主は、怪訝な声を出して、

『誤作動したのかぁ? うーん、ちょっと待って。今サーバーのほうで止めてみるから』

 言って、数秒。

『どうだ?』

 言われて、女性はアンドロイドのほうを見る。

 未だに一歩、一歩をゆっくりと歩んでいる。

「駄目です。まだ止まっていません」

 しかし、技術部の男は特に焦った様子も無く、

『そうかぁ、ならアンドロイドの後ろにある、ブレーカーを落としてくれれば、一時停止すると思うよ』

 言われて、思い出した。

 アンドロイドの背面には暴走や、誤作動を起こした時のために、ブレーカーが設備されている。

 それを落とせば、機能が停止するはずだ。

「わかりました。ありがとうございました」

 返事を返して、電話を戻して、アンドロイドを見た。

 周りには幾らか人だかりができている。

 だが近寄って触ったりする勇気のある人はいなかった。

 仕方ない、と自分から進んでいこうとすると、


 ガシャン、と


 目の前にアンドロイドが立つ。

 アンドロイドはカウンターを挟んで睨むように立つ。

 格好こそ人間そのもののようだが、特殊メイクを応用した技術を使われており、肌も人間のそれとは正確には違う。

 突然その肌がベリベリと剥がれだした。

 そこから見えるのは無機質なメタリックカラー。

 人間と全く同じ動きをするために、緻密に計算され、作りだされた、体。

 その素肌が、纏ったもの崩れ捨て、露わとなる。

 だが、その女性が認識したのはそこまでだ。


 次の瞬間、体の四肢がバラバラになる感覚と、どんなものにも例えがたい衝撃が、彼女を襲ったからだ。


 その近くに居た会社員は目撃した。

 見た瞬間には、全てが終わっていた。

 アンドロイドが繰り出した右拳が、女性を、一撃で、バラバラにした。

 アンドロイドが拳を繰り出し、現在の状況になるまではたった一瞬。

 遅れて、女性だった残骸から、血が一気に噴き出し、会社員の頬に、熱い感触。

 触れて、そこから手を見る。

 手に付いた色は、赤だった。

「っひ、」

 一拍置いて、

「ぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああっ‼」

 空間に悲鳴と、怒声が飛び交い、パニックとなる。

 ある者は、泣きだし、

 ある者は逃げ出そうとした。

 だが、外にある光景を見て、絶望する。

 ロビーの自動ドアを塞ぐように、

 アンドロイド達が立っている。

 そして、初号アンドロイドは、残骸に最後の仕上げとでも言うように一気に拳を振りしぼり、

 振りかぶった。

 そして、何度も連続で、高速で殴り続ける。

 残骸は、残骸の影すら、無くなり、

 ただの赤い染みとなった。

 次の瞬間、突き刺すような悲鳴と、

 アンドロイド達が歩みだす、不吉な足音。

 殺戮の午後が、始まった。


 そしてその日の午後、同時に世界中で。

 アンドロイド達による殺戮が、始まっていた。

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