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③~弥生~

先生は僕に床を拭くように言った。

濡れたパンツがだんだんと冷たくなっていく中、僕は教室の後ろから雑巾をもってきて、床のおしっこを拭いた。途中で目をあげると真由が黙ってぼくの横で床を拭いていた。


真由は僕の手をつなぎ、保健室へ連れて行った。

保健の先生に替えのパンツが入った袋を渡された。

保健室の隅で僕は濡れたズボンと、中に履いていた短パンと、それからパンツを脱いで、保健室のパンツを履いた。

ズボンはなかった。

真由に手をつながれ、教室へ帰ってきた。


「先生も昔、授業中に我慢できなくてお漏らしをしちゃったことあります。みんなも失敗しちゃったことあるでしょう?」先生が言った。

「辻本君が今、どういう気持ちか、一人一人心の中で考えてみて下さい。からかったりする人はいないって、先生は信じてます。」



校庭へ向かう廊下に、教室移動をする下級生たちがいた。

みんなすれ違う時にぼくを見ている。

短パンを履いたクラスメイトの中で一人だけ保健室のぱんつだけを履いた僕を見て、ある男子は驚いた表情を浮べ、ある女子は隣の友達とひそひそ話をした。

その中に、妹の葉月がいた。

「おにいちゃん・・・」

葉月がつぶやくのが聞こえた。ぼくはそれ以上葉月の驚いた顔をみていられなくて、その場から足早に靴箱へと向かった。目の奥がツンと熱くなった。


帰りの会が終わって、僕はまだ教室に残っていた。

クラスメイトが一人、また一人とちらっと僕を見た後に教室を出て行く。

うつむいた僕の目に、保健室で借りた白いパンツの端が映っている。何度見直してもやっぱり、僕はズボンを履いていなかった。

僕は座ったまま振り返って後ろ側を見る。ぱんつのお尻は、校庭の砂で黄色く汚れていた。

こんなふうになっちゃってたんだ・・・

また泣きそうになってしまう。いやだ、もうみんなの前で泣きたくない。

なんで授業の前にトイレに行かなかったんだろう。

なんでトイレに行かせて下さいって言えなかったんだろう。

なんで次が体育だからってズボンの下に短パンを重ね履きしちゃったんだろう。

なんで我慢できなかったんだろう。

なんでみんなの前でお漏らししちゃったんだろう。


帰り道、ぼくは学校から出てまっすぐ家へと向かった。

校門を出る時、みんながまじまじと僕を見ていた。

家に帰るまで、また誰かと会うんだろうか・・・

帰ったらお母さんに何て言おう・・・


「弥生、パンツ丸見え。」

突然後ろから声がした。

僕はとっさにお尻の汚れた部分を隠した。真由がいた。

「こんなことで嫌いになったりしないから。」

月村はそう言って僕の手をとった。

ほどなく、反対側の手が握られた。葉月がいた。

「かえろ。」

二人は僕をぐいぐいと引っ張っていく。

両手をつながれているので、一粒こぼれた涙を拭うことはできなかった。


こちらは過去作に大幅加筆ですb

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