第七幕 《新たな同居人!?》
次の日も、空は快晴だった。
雲一つない、青々とした空・・・
それは、昨日と同じく見事な空模様だった・・・
そんな二日続きの空模様は、何か予感のようなものを感じさせる。
例えそれが、不吉な予感だったとしても・・・
今日も、今日とて、今日といえども、一日は始まるのである。
悠姫「あぁ~、煩わしい~~~!」
学校への道半ばで、ついぼやいてしまう悠姫。
先程から道行く人、道行く人の視線が嫌というほど注がれてくるのである。
雅「まあ、仕方ないですね・・・昨日の校庭での一件はかなりの生徒の目に入ってるみたいですし、日野達也との勝負も幾らかの生徒に見られていたようなので、おそらく学園中の生徒に知れ渡っているのではないかと・・・」
それを聞いた悠姫は・・・まあ、言わなくても伝わるだろう・・・
剣夜などが見たら、ひどく嘆くことだろう・・・
かわいい顔が台無しだよ・・・と。
悠姫「変装がばれたのはまずかったよな・・・」
雅「そうですね。悠姫はあまりに綺麗すぎますからね・・・」
悠姫「はぁぁぁ・・・」
雅の言葉にため息をつく悠姫・・・
まあ・・・その心中、わからないでもない・・・
簡単に言ってしまえば、男なのに綺麗って言われてもなあ・・・だ。
雅「もうすぐ学園ですし、教室に入れば少しはマシになるでしょう」
悠姫「ああ・・・だといいけどな・・・」
奇しくも、彼の予感は的中するのだった・・・
それは、彼にとってある意味天からの助けであり、衆目から逃れられる事を内心では喜んでいた。
それは、校舎に入ってすぐ・・・下駄箱で靴を履き替えているときに知らされた。
『一年S組、朝霧悠姫。同じく玖瀬雅。至急、生徒会室に来なさい。もう一度、繰り返します。一年S組・・・』
因みにS組というのは特進クラスのことだ。
御劔学園では一学年を、上から順にS組、A組、B組、C組・・・といった感じで分けられている。中でも、S組は成績優秀者が集められたクラスなのである。あくまで、ペーパーテストの上で、だが・・・
と言ってもまあ、過去の話を振り返ってみればわかることだが、変人の巣窟である。
悠姫「おいおい、いきなり呼び出しかよ・・・」
雅「私まで一緒とは、一体何でしょうか・・・?」
二人揃って首を傾げながら生徒会室に向かう。
コンコン・・・
悠姫「失礼します・・・」雅「失礼します・・・」
生徒会室に入ると、まず目に入ってきたのは、栗色の髪のよく似た二人の女の子・・・夕月と明月だった。
一目みて感じたのは、二人の憔悴しきった様子だった。
特に、明月はいつもが元気なだけに、とりとめて憔悴ぶりが際立っている。
悠姫「ど、どうしたんだ、二人とも・・・何かあったのか!?」
尋常ではない二人の様子に、事情を確かめようとする悠姫であったが、それは横から割り込んできた声によって遮られた。
「朝霧君、二人を心配する気持ちは解るが、まずは私の話を聴いてくれないか・・・?」
ここで悠姫は、ようやく自分達の他にも数人の生徒がいることに気付いた。
そして、今の声の主を確認したところで、悠姫はいすまいをただしきちんと挨拶するのであった。
悠姫「失礼しました、御劔会長。とんだところをお見せしてしまいました・・・」
そう、先程の声の主こそ、この部屋の主であり、多くの強者達が集うこの御劔学園においてトップに君臨している人、その人なのである。
また、苗字からもわかる通り、この御劔学園の創立者の家系である。
その上、現理事長の息子で、次期理事長候補として名が挙がる程の人なのである。
その他にも、この場にいる生徒は七帝に名を連ねるものばかりだった。
No.6、No.7の水無月姉妹を除くとしても、No.8の景籍直晃、No.5の日野達也、No.4の倉敷籠女、No.3の華菱剣夜・・・
No.2を除く全ての七帝が集まっていた。
No.2・・・七帝の中でも、その名前を知る者は少なく、一般生徒に至っては皆無といって等しいだろう・・・
と言うのも、No.2が生徒会に出席したことはこれまで一度もなく、また生徒に公表もされていないため、知る機会がなかった、というのが理由である。
今では、その存在すら危ぶまれるといった有り様である。
何か理由があるようだが、その辺りも一切公開されてはいない・・・
御劔「いや、構わない。それより、早速だが本題に入らせてもらう・・・」
皆の目が御劔会長に集まる。
御劔「君達に来てもらったのは、昨日の日野和也の一件の事なんだが・・・」
そこで、会長の視線が水無瀬姉妹の方へと移る。
御劔「昨晩、彼女達の家が日野和也によって放火された・・・」
その言葉を聞いた悠姫と雅が驚愕の表情を浮かべる。悠姫「あんの野郎、負かされたからって姑息なことを・・・!」
悠姫に至っては飛び出さん勢いだ。
雅も、普段あまり怒気を表さないにも関わらず、珍しく憤慨している様子が感じられた。
七帝はというと・・・
予め聞かされていたのか、表情に変化は見られないが、当事者である水無瀬姉妹はその時の光景を思い出したのか、顔色が白を通り越して青と言っても過言ではない有り様だった。
兄である日野達也にしても、申し訳なさで一杯なのか、非常にいたたまれない様子だ。
悠姫「それで、日野和也は!!あいつは今、どうなってるですか!」
雅「ちゃんと罪に問われるんでしょうね・・・?」
怒りのあまり感情的になる悠姫に対して、憤怒しながらも冷静にあくまで客観的に情報を整理しようとする雅。
御劔「もちろんだ。日野和也は退学処分の上、刑事処分にかけらる。だから、安心するといい・・・」
放火は殺人に並ぶ重罪だ。
当分は・・・いや、少なくとも数年は刑務所暮らしだろう。
未成年ということで、幾らかは軽減されるかもしれないが、極刑は免れないだろう・・・
この話を聴いてようやく怒りを収めた二人であったが、その顔はやりきれなさを物語っていた・・・
御劔「まあ、事件の話はここまでにして・・・朝霧君、君はこの二人がかわいそうだと思うかね・・・?」この、突然の会長の問いに少々戸惑うもの、はっきりと答える悠姫。
悠姫「ええ、もちろん思いますよ。彼女達に非はないんですから・・・」
御劔「では、ちからになってあげたいと思うかね・・・?」
悠姫「ええ・・・」
この問いにも躊躇なく答える。
御劔「何かできることがあればしてあげたいと?」
悠姫「ええ・・・」
御劔「なら、暫くの間彼女達を君の家で預かってくれないか・・・?」
悠姫「ええ、いいです・・・よ?」
先程までのノリで、つい肯定の返事を返してしまう。
この悠姫の言葉を聴いた途端、御劔会長の表情に笑みが広がる。
御劔「そうか、そうか!了承してくれるか!では、早速・・・」
悠姫「ちょ、ちょっと待ってください!何でそうなるんですか!!それより、若い男女が同じ屋根の下というのは問題でしょう!!!」
会長の話を遮るように、悠姫の慌てた声が響く・・・
叫びにも似た・・・いやもう叫びとしか聴こえなかった・・・
御劔「ノープロブレムだ・・・既に君は玖瀬くんと一つ屋根の下で暮らしているではないか。だが問題が起こったという話は聴かない」
悠姫「それは!・・・それは、雅は物心のついた頃には一緒に暮らしてたし、俺にとっては家族みたいなもので・・・それ以前に!!俺がいいって言っても、二人が嫌がるでしょう!」
御劔「おやっ・・・ということは、二人がオッケーなら良いのかね?」
悠姫「うっ・・・ほっとけないよな~、困ってるみたいだし。う、うう~~~・・・」
会長の言葉に、言葉を詰まらせる悠姫。
迷っているのか、一人で何やらぼやいている。
御劔「それなら問題ない。これは、彼女ら意思だ。だから、何も支障はない・・・という訳で二人とも、お許しがでたよ・・・」
悠姫「なっ!ちょっと、待て!俺はまだ認めて・・・」
会長の話を聴いて、駆け寄ってくる夕月と明月・・・
いや、明月はどちらかというと・・・
明月「ありがとう~~~悠姫君~~~!」
夕月「あ、明月!そんなに走っちゃ・・・」
明月「ありゃ・・・」
その時、たまたま落ちていた一枚の紙切れに足を取られた明月・・・
バランスを崩した明月、しかし加速をつけていた体は急には止まれない・・・
制御を失った体は、そのまま・・・
悠姫「あぐっ!!・・・あ、明月・・・てめぇ、いい覚悟・・・してんじゃ・・・ねぇか・・・・・・」
明月の体当たりと肘をもろにボディにくらい、撃沈する悠姫なのであった・・・
御劔「・・・玖瀬君」
悠姫を支えながら生徒会室を出ていこうとする雅を呼び止める御劔会長・・・
御劔「・・・どうやら、日野和也の手下共が何か企んでいるらしい。・・・No.2の君のことだから心配はいらないと思うが、くれぐれも二人の事を頼んだよ」
生徒会室から他の七帝がいなくなった事を確認し、それでも他人に聞かれないように音量をおとして、雅に話しかける・・・
雅「ええ・・・わかっていますよ。悠姫もついていることですし、何より彼女達自身がかなり強いですからね・・・きっと、大丈夫ですよ!」
御劔「ああ・・・だといいんだがね・・・」
御劔の不安を消し去るように、殊更明るく答えた彼女だったが、彼の不安を取り除くには至らなかったようだ・・・
余談だが・・・
あの後、悠姫が意識を取り戻したのは、最後の授業が終わりを迎えたときだそうな。
一体、何しに学校に来たのか分からない悠姫君なのであった・・・
次回予告
一緒に暮らし始めた悠姫くんと水無瀬姉妹・・・
普通なら、嬉し恥ずかしのSchool Days((笑))のハズが・・・
明月には振り回され、雅には弄られ、そして・・・そして、常識人だと思っていた夕月には・・・
次回、《どたバタっ、同居生活!?》
明月「お約束だよ、悠姫くん・・・」
雅「ええ、お約束です・・・」
悠姫「そんなお約束、いらねぇ~~~!!!!!」