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BLADE × ARMS  作者: 六花
第1章 『出会い』と『想い』
10/11

第十幕 《訪れた平和・・・?》


男達を捕らえた翌日・・・

この日は何時もと代わりなく、平穏に過ぎ去っていった・・・


御劔から呼び出しを受けたのは、そんな日の放課後のことだった。


曰く、

「昨日の騒動の事後処理について話したい。ついては、玖瀬君と水無瀬夕月君、明月君を連れて生徒会室に来てくれないか?」

と言うことらしい。



三人を伴って生徒会室を訪れると、そこには雅達を除く生徒会メンバーが揃っていた。


悠姫「なんかデジャヴ・・・」

生徒会室に広がる光景に既視感を覚える悠姫・・・


御劔「おはよう。四人ともよく来てくれたね・・・・・・そんな所に立っていないでこちらに来たらどうだい?」

入ってきた四人に挨拶し、自分の方へ来るように促す。


悠姫「おはようございます、会長・・・」

三人「おはようございます・・・」


四人は揃って挨拶する。


御劔はそんな四人に笑顔を向け、引き出しから数枚の書類を取り出す。


そこには、今回の一連の出来事がまとめられており、男達の処遇が記されていた。

四人は静かに、その書類に目を通す。


一足先に読み終えた悠姫が会長に話しかける。


悠姫「犯行に及んだ男達ですが、思っていた以上に早くカタが着きましたね」


御劔「ああ・・・これで水無瀬の二人も安全だろう。そこでだ・・・」


そこで話を切ると、新しく何枚かの書類を取り出す。

悠姫「それは何です・・・?」


御劔「これは、こちらで用立てた水無瀬君達の新しい住居だよ。今のままの生活では、君も何かと不便だろう・・・そこで、せめてものお詫びにとこちらで用意したものだ・・・」


御劔会長が広げた書類は住居や土地の権利書だった。それに加えて、建物の外装や内装の写真が添付された間取図まで用意されていた。


お詫びと言っても、実際のところ生徒会にはなんら責任はない。

いくら生徒会とは言え、一個人らの言動にまで目を光らせていろ、というのは無茶というものだ。


今回のこれは、学園の生徒がしでかした事ということで、御劔に名を連ねる者としてとった行動なのだろう。


悠姫「・・・いきなりですね?このあいだ引っ越してきたところだというのに・・・」


御劔「・・・そもそも二人を君の家に住まわせたのは、二人の身を守る為だ。君や玖瀬君がいれば、危険は無いと判断したからなんだが・・・その原因が取り除かれた今、彼女達を君の家に住まわせておく必要はなくなったからね・・・」


悠姫「まぁ・・・そうですね」

御劔の説明に納得する悠姫・・・

悠姫にしても、彼女達との生活はイレギュラーであり、いつまでも一緒に暮らすという訳にもいかない。


そこにこの申し出である。

悠姫としては、断る理由は一つも見つからない。


もっとも、その本心を言えば、

「ようやく、あの苦難から開放される」

であるが・・・



しかし、水無瀬姉妹のほうからしてみれば、この話は良いことばかりというものでもなかった。


何せ、悠姫との生活が終わりを迎えてしまうということである。


当然、二つ返事で頷くことなどできるはずもなく・・・


夕月「・・・少し、考えさせてください」


御劔「まあ、そう急く話でもない・・・ゆっくりと考えて結論を出すといい・・・」


そこまでで話は終わりなのか、御劔は二回、手を叩いた。


すると、生徒会室の扉が開き、次々と現れる人達によって室内はみるみる間に、その姿を変えていった。


御劔「今回の事件が無事に解決したからね。ささやかながら祝勝会を開こうと思ってね・・・」


悠姫達が呆気に取られている間に、ただでさえ広い生徒会室は装飾と料理で埋め尽くされていった。




・・・




祝勝会からの帰り道、陰鬱な様子で歩く人影一つ。


明月「まぁまぁ、悠姫くん・・・似合ってたんだから、良いじゃない」



グッさ・・・・・・


悠姫「・・・・・・!!」


夕月「そうですね、確かに似合っていました・・・」

悠姫「・・・・・・っ!!!!!」


ショックが大きかったのか、壁に片方の腕をついて

落ち込んでいた。


悠姫「俺って・・・俺って・・・・・・」


追い撃ちをかける夕月ちゃん・・・


しかし、そのことに気づかない。


明月「・・・やるね、夕月ちゃん!」


明月はそんな夕月に親指をピシッと立て、不敵に笑うのだった。


夕月「えっ・・・えっ・・・何がですか、何がなんですか・・・!?」


明月に弄られていることにも気付かず、おろおろとする。


悠姫「俺は・・・俺は・・・俺は・・・」


そして、一人壁に手をつき、絶望という名の底なし沼に沈んでゆく悠姫であった。





・・・・・・



雅「まったく、突然ですね・・・引っ越しにしろ、祝勝会にしろ、少しくらい話してくださってもいいでしょうに・・・」


生徒会室に残って後片付けを手伝っていた雅が、御劔に愚痴をこぼす。


そんな雅に、苦笑を浮かべながら、謝罪の言葉を口にする御劔。


御劔「いや~、悪かったと思っているよ。相談も無しに勝手に決めてしまってね・・・でも、まあ祝勝会はサプライズだからね。話してたら、サプライズにならないじゃないか・・・」


雅「そうですが・・・」


御劔「それに、引っ越しにしても、あれは提案だからね・・・決めるのは彼女たちさ」


雅「そうですね・・・ですが、次からは一言くらい相談して下さいね。私だって生徒会副会長なんですから・・・」


水無瀬姉妹が、いま笑って悠姫と帰っていられるのも、全て御劔の采配のお陰と言えよう・・・

御劔は誰も見ていないところで、一人思案していたのだ。


御劔「ははは、まったく玖瀬君には敵わないな・・・」


二人は笑みを浮かべながら、後片付けに勤しむのだった。






日付がもう少しで変わろうという時間、ベッドに入った明月は寝付けないでいた。


今日、御劔会長に言われたことを、頭の中で反芻していた。


明月「(新しい家かぁ・・・悠姫くんと一緒にいられなくなっちゃうよ~。夕月はどう考えてるんだろ・・・)・・・夕月、まだ起きてる?」


時間が時間だけに、もう寝ているかもしれないと思いながらも、隣の部屋にいる夕月に声をかけてみた。

夕月「・・・起きてますよ」


夕月は明月の予想に反して、まだ起きていた。


明月「今日言われたこと、どう思ってる?」


夕月「明月もそのこと考えていたの・・・私は出ていった方がいいと思うの。これ以上、悠姫くんに迷惑はかけられないでしょう?それに、あまり長く居ると・・・」


明月「長く居ると?・・・何?」


語尾を濁す夕月に、聞き取れなくて聞き返す明月だったが・・・


夕月「何でもないです!何でも・・・!」


慌てふためいた様子の夕月の声が返ってきただけだった。



自分の部屋に戻った明月は、既に意思を固めた様子の夕月に、『自分はどうしたいんだろう・・・』と考えている内に、その意識を微睡みの淵へと沈めていった。





祝勝会の日から、あっという間に一週間が過ぎた。


学園での明月はずっと上の空で、夕月が話しかけても生返事を繰り返すばかりであった。

家に帰っても、部屋に閉じ籠って、ご飯の時と学園に行くとき以外、顔を出すことはなくなった。


そんな明月を心配して、夕月も雅も思案を巡らせるが、何か良い方法が出てくる訳でもなく、結局のところ明月が自分の気持ちに決着を着けなければ何も解決しないということだ。


だが、その後押しをしてあげることくらいはできる。


この日も、晩ごはんを食べると、すぐに部屋に向かった明月であった・・・


夕月は雅の手伝いを終えると、そんな明月の元へと向かった。


夕月「明月、入りますよ・・・」


明月からの返事はないが、そのまま部屋に入る。


明月は頭まで布団を被って丸くなっていたが、そんな明月を見ても夕月は何も言わず、ベッドの縁に腰かけた。


夕月「ねぇ、明月・・・?」


呼びかけてみるが反応はない。

そんな明月であったが、夕月は気にせず話しかけ続けた。


夕月「まだ、自分の気持ちが定まらないの?私には、既に決まってるように思えるのだけど・・・」


明月「・・・」


夕月「どうしてそんなに落ち込んでいるの?どうなることが、そんなに悲しいの?」


明月「・・・」


夕月「いつまで、そうしているの?・・・明月はいつだって自分の気持ちに正直で、思ったままに行動してきたでしょう?」


明月「・・・」


何も応えない明月・・・

聞いているのか、いないのか・・・でも、そんなことお構い無しに夕月は続ける。


夕月「・・・こんなの明月らしくないですよ?悩んでも解決しないなら、いつもみたいに気持ちのままに動きなさい・・・」



告げたい事だけ告げると、夕月は明月の部屋を出ていった・・・


後に残されて明月は、ゆっくりとした動作で布団を捲り落とすと、困り顔で笑みを浮かべていた。


明月「もう・・・『お姉ちゃん』には敵わないな・・・全部お見通しか・・・・・・そうだよね、こんなの私らしくないよね!」


何かを決意したのか、明月の顔に先程までの暗さはなかった。






翌日は土曜日で、明月が部屋から出てきたのはお昼を回った頃だった。


明月「ねぇ、悠姫くん・・・私と勝負してくれる?」


悠姫に勝負を挑む明月の様子は真剣そのもの・・・

突然のことで、困惑を露にする悠姫だったが、その真剣さに圧され了承するのだった。



場所を中庭へと移し、対峙する明月と悠姫。


雅「では、審判は私が務めさせてもらいます・・・」

二人の間に雅が立ち、夕月は少し離れた位置からその様子を窺っていた。


明月「悠姫くん、お願いがあるの・・・」


悠姫「なんだ・・・?」


明月「もし・・・もし、私が勝ったら・・・・・・このまま、ここに住ませてほしいの!」


このお願いもまた、悠姫を困惑させていた。

いきなりの勝負にしろ、このお願いにしろ、悠姫には明月が何をしたいのか、見当もつかないでいた。


悠姫「・・・?新しい家に何か不満でもあるのか・・・?」


悠姫は明月の我が侭を、単に新しい家に不満があるのだと勘違いしていた。



夕月「悠姫くん・・・」


雅「鈍感・・・」



二人揃って、悠姫に聴こえないように嘆息する。


悠姫「?・・・何か言ったか?」


二人「いいえ、何にも・・・」


そんな三人を見て、明月が笑い声を溢す。


明月「あははっ・・・違うの、悠姫くん。私がね、引っ越したくないのは・・・この四人での時間が楽しいからなんだ!もっとこの時間が続いて欲しいって、私が望んでいるからなんだ!・・・・・・だから、私と勝負してください」


いつになく真剣な明月の様子に、悠姫は頭をかきむしった。


悠姫「わかったよ、やってやる。その願いを賭けた勝負。・・・たが、俺は一切手を抜かないからな。その願いを叶えたいというのなら、全力で俺を倒しに来い!」


悠姫の言葉に、刀を握る手に力がはいる。


明月「もちろん、そのつもりだよ!」



雅「・・・両者、準備はいいですね?・・・・・・それでは、始め!!」





まず、先攻を取ったのは明月だった。


軸足にギリギリまで体重をのせて、地面を蹴る。



一瞬の間に悠姫に肉薄し、斬りかかる。


悠姫からしてみれば、まさに突然目の前に現れたようなものだが、悠姫はその一撃を刀を抜く事なく、鞘の部分で受け流す。


明月は二、三歩下がると、驚きで目を丸くするのだった。


明月「今の防げちゃうの!?たいていの生徒なら、今の一撃で決まっちゃうところなのに・・・」


悠姫「そうだな・・・予想以上だったよ。・・・だが、俺も手を抜かないって言ったからな・・・そう簡単には決めさせないぜ!」


悠姫は明月との距離を詰めると、刀を振るう。


明月はそれを受け止めると、不満の声を上げる。


明月「どうして、鞘から抜かないの?」


悠姫「いくら死にはしないって言っても、女の子に刃は向けたくないからな・・・それが不満なら、実力で抜かせてみな」


明月は不敵な笑みを浮かべ、刀を握る手に力を込める。


明月「絶対、抜かせてやる~!」


明月は一歩下がると、身体を一回転させ、遠心力をのせて刀を一閃させる。


しかし、悠姫はそれを読んでいたのか、明月が離れる刹那に刀に込める力を抜いていたため、体勢を崩すような事はなかった。


悠姫「あまい・・・!」


迫り来る刃を、自身の刀で軌道を逸らし回避すると、バックステップし、その反動を利用して加速する。


左肩を内側に深くいれ、勢いをつけて刀を振る。


本来、鞘から抜く勢いでつける威力を、膂力で補ったのだ。


明月は隙を突かれた格好となり、回避は間に合わない。


明月「くっ・・・!!」


咄嗟に刃を立て、横からの一閃を防ごうとするが、抑えきれずに、刀ごと後ろに弾き飛ばされてしまった。


明月「いたたたたっ・・・」


何とか起き上がるが、あちこち擦りむいており、血が滲んでいた。


悠姫「・・・この程度か?もう、終わりにするか・・・?」


明月「まだまだ・・・・・・このくらいじゃ終わらないよ!!」


悠姫「・・・ふっ、いいぜ。かかって来いよ!」



悠姫と対峙して、明月は思考を巡らせていた。


明月「(・・・って言ってみたはものの、どう攻めたらいいんだよぅ!攻撃したら防がれるし、倍になって返ってくるし・・・カウンター狙っても、一撃目をかわせる自信ないし、第一そんな余裕与えてくれないし・・・・・・やっぱ、手数で攻めるしかないっか・・・)」


明月は鞘を逆手に持つと、悠姫へと向かっていく。


初撃は刀による一撃・・・悠姫はそれをバックステップで回避するが、明月は一歩踏み込んで、鞘による一撃を見舞う。


悠姫はそれを刀で受け流すが、明月は体を回転させて三撃目を放つ。


悠姫「ちっ・・・」


悠姫が堪らず受け止めたところへ、鞘による更なる一撃・・・


無防備な横腹への攻撃に、「もらった!!」と心の中で叫ぶ明月。


しかし、悠姫は左手を鞘へと移動させ、右手で刀を抜くと、それを防いだ。


明月「うそ~!今の防いじゃうの・・・!!」


絶対に通ると思っていて攻撃を防がれ、驚く明月・・・

しかし、その驚きが明月に隙を生む。


悠姫は明月の力が一瞬抜けたのを感じると、明月の刀を弾き返し、肘うちをくらわせる。


明月「かはっ・・・!」


鳩尾に決まり、呼吸が一瞬詰まる明月・・・

堪らず、よろめいてしまう。

悠姫は躊躇うことなく、そんな明月に蹴りを入れる。

明月「ぅぐ・・・!!」


後ろに吹き飛ばされ、地面を転がる明月。



明月「っ・・・」


刀を杖にして何とか立ち上がる明月だったが、身体は満身創痍・・・立っているのがやっとの状態だった。

悠姫「俺に刀を抜かせたか・・・やるじゃないか明月。だが、もう限界なんだろ?諦めて、降参しろよ・・・」


降参を呼びかける悠姫に対して、明月は首を横に振る。


明月「まだ、終わってないよ・・・私は・・・私は、まだ立ってる!」


息も絶え絶えに答える明月だが、その目はまだ闘志を失っていなかった。


明月「(力も技も負けてる・・・カウンターもダメ、数でもダメ・・・弱いなぁ、私って・・・それに・・・)強すぎだよ、悠姫くん・・・こんなんじゃ、全然勝てないね・・・・・・でも・・・でもね、私だって負けたくないんだよ。だから・・・だからっ・・・・・・!」


明月は刀を鞘に納めると、抜刀の構えをとった。


悠姫「へぇ、そう来るか・・・でも、抜刀技は諸刃の剣だぜ」


先程も述べたように、抜刀技とは、鞘から抜く勢いを利用することによって、剣に必殺の威力を持たせる。

しかし、それは初撃に全てを賭けるということであり、それを防がれてしまえば自分は無防備な状態になると言うことだ。



明月「この一撃に全てをかけるよ」



悠姫「そうかよ・・・なら俺も、それに全力で応えてやるよ!」


悠姫も刀を鞘に納めると、抜刀の構えをとった。



二人とも、静かに睨み合う。


そんな二人を、固唾を飲んで見守る夕月と雅・・・



静寂な時間だけが流れて行く・・・



先に動いたのは明月の方だった。

軸足に体重をのせ、地面を蹴る。


続いて、半テンポ遅れて、悠姫が動く。


突進するような勢いの明月に対して、流れるような動作で向かっていく悠姫。





二人の影が交錯する・・・




果たして立っているのは・・・






悠姫「ったく・・・無茶しやがって」


立っていたのは悠姫の方だった。

明月の方はと言うと、気を失って倒れていた。



雅「・・・あなたもですよ、悠姫」


明月を部屋で休ませる為に担ごうと近付くと、途中で雅に遮られてしまった。


雅「最後の一撃・・・横腹に入っていたでしょう?」

そう言って、問題の箇所に触れる雅。


悠姫「っ・・・!」


途端に、悠姫は顔をしかめる。


雅「あまり、無茶しないでください・・・明月さんは、私が部屋まで連れていっておきますので、悠姫は少しでも休んでください。明月さんが目を覚ましたら、呼びますから・・・」





明月が目を覚ましたのは、それから一時間後のことだった・・・



明月「・・・うぅ~ん・・・・・・ここは・・・私の部屋?」


目を覚ました明月は、周囲を見渡して、此処が自分の部屋だと気付く。


明月「そうか、私・・・負けちゃったんだ・・・・・・っ・・・」


悠姫に負けてしまったこと・・・

自分の力が至らなかったこと・・・

想いを通せなかったこと・・・


全てが綯い交ぜになって、明月に襲い掛かる。



明月「・・・っく・・・ひっく・・・っ・・・ひぐ・・・」


暫くの間、明月は声を押し殺して涙した・・・




















何れくらいの時間が過ぎたのだろう・・・


窓から見える空は紅く染まり、外の街灯には明かりが灯っていた。



ドアがノックされる音に明月が顔を上げると、雅が立っていた。


雅「ごめんなさい、勝手に入ったりして・・・」


明月は静かに首を振る。


雅「大丈夫ですか・・・?まだ、辛いようなら休んでいていいですよ・・・」


明月「いえ・・・大丈夫です・・・怪我は大したことないから」


実際、目立つ怪我といえば最後に負った打ち身ぐらいで、あとはあちこちに軽い擦過傷があるくらいだ。


既に出血も止まっているので、二、三日もあれば完全に治るだろうが・・・


雅「いいえ・・・私が言っているのは、目に見える傷だけのことではありません」


明月の目は赤みを帯びており、まだ潤んでいた。


だが、明月は又もや首を振る。


明月「本当に大丈夫だから・・・」


笑顔を見せる明月に、雅はこれ以上深く追及するようなこともしない。


雅「そうですか・・・なら、お話がありますので、リビングまで来て貰えますか?」




雅についてリビングまで行くと、そこには悠姫と夕月が椅子に腰かけて待っていた。


悠姫「もう、大丈夫なのか?」


心配して聴いて来る悠姫に、笑顔を向ける。


明月「うん、もう大丈夫だよ・・・」


悠姫「そうか・・・」


明月の答えに安心する悠姫だった・・・


明月「ところで、話があるって何の話かな・・・?」

悠姫「ああ、それはさっきの勝負の件だ・・・」


先程の勝負・・・この家に残れるか、出ていくかを賭けた、明月にとって一世一代の賭けに出た勝負だった。


明月はそれに負けたのだ。


明月「うん、わかってるよ・・・明日には出ていくから・・・いいよね、お姉ちゃん?」


夕月「私はかまいませんが・・・」


不意に明月に尋ねられて困惑する夕月は、その視線を雅へと移す。


その視線に気づいた雅は、優しく微笑んで頷く。




雅「その話なんですが・・・・・・実は既に断ってあったりします」















明月「・・・・・・え?」


悠姫「・・・・・・はい?」


雅の言葉が脳に届かず二人揃って首を傾げる。



明月「既に・・・・・・」


悠姫「断った・・・・・・」



明月と悠姫が意味を理解できずに、雅の言葉を繰り返すと、雅は再び笑顔で頷いた。



雅「はい・・・」



二人「えええぇぇぇぇぇっ・・・!!??」


何故か、悠姫まで一緒になって驚いている・・・


どうやら、雅からは何も聞かされていなかったらしい・・・



明月「夕月は知っていたの!?」


あまり驚いた様子のない夕月に、少し疑問に思った明月が問いかける。


それに対して、夕月は申し訳なさそうに、静かに頷いた。


夕月「話そうとしたんですけど、その時にはもう明月は意思を固めていましたから・・・」



明月「うぅ・・・・・・ありがとう」


自分の知らないところで、実は話が着いていたことには納得がいかないようだが、自分の為に動いてくれた二人に感謝の念が込み上げてくる明月だった。







しかし、一人納得がいかないのが、この家の主である悠姫だった。


悠姫「ちょっと待て!俺は聞いてないぞ!」


ものの見事においていけぼりをくらった悠姫が、声をあげるのだが・・・


雅「女の子が涙を流しているというのに、悠姫は何とも感じないのですか・・・!」


悠姫「え・・・いや、それはそうだが・・・」


いや、でも・・・、だが・・・、と一人呟いていると、そこへ雅の止めの言葉が降り注ぐ。


雅「なら、黙っていてください・・・」


悠姫「はい・・・」


主としての威厳が形無しの悠姫だった・・・





この日、リビングには、和気藹々と話す三人の女の子の声と、反省猿のポーズをとった悠姫の自虐の声が響くのだった。


















そして、時は戻り、追憶の旅から帰ってくる悠姫・・・


長い、長い、記憶の旅・・・でもそれは、時間にしてみれば一瞬の出来事だ。




多くの人に出会った・・・


良い出会いも、悪い出会いもあった・・・


ときには、闘うこともあった・・・

いや、ほとんどがそうだったのかもしれない。




全ては、二人を助けたことから始まったのだ・・・




悠姫「(それを運命だったと言うのなら、これもまた、運命なのかもしれないな・・・)」


悠姫は会話をうちきると、踵を返して家の方へと向かう。


明月「悠姫くん・・・!?」


悠姫「何してる?さっさと来ないか・・・来ないなら閉め出すぞ・・・」


悠姫の言葉に二人の顔が輝きだす。


二人「はい・・・!!」


顔を見合わせて頷き合うと、悠姫の元へと駆け出す。



これまで、静かだった生活に、少しくらい賑やかさが加わってもいいかなと思える悠姫だった・・・











《後書き》


え~~~、長らくお待たせしまして申し訳ありませんでした。


取り合えずは、この話が最終話となります。


納得のいかない方もいるかもしれませんが、お許しを・・・




しかし・・・!


これは、まだ BLADE × ARMS の第一章に過ぎません。


取り敢えず、次は違う作品を書こうと思っていますが・・・


ただし、変わらず更新速度は遅いと思います。




こんな私ですが、これまで同様、この先も読んでいただけると嬉しいです。


最後になりましたが、ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。



それでは・・・・・・え?

カンペ?何々・・・




次回予告?


水無瀬姉妹の事件にカタが着き、祝勝会を開く生徒会・・・


テンションは徐々に上がっていき、騒がしさは頂点に達する・・・


盛り上がる一同・・・

しかし、それは悠姫を陥れるために張り巡らされた、巧妙な罠だった・・・




次回、番外編《YMCの悲劇》


明月「大丈夫、大丈夫・・・恥ずかしいのは一瞬だけだからね・・・」


剣夜「そうそう・・・」


悠姫「説得力が無いんだよ!お前らの顔が全て物語ってんだ!」





ショートストーリーをお楽しみに・・・?



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