表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLADE × ARMS  作者: 六花
第1章 『出会い』と『想い』
1/11

第一幕 《何気ない日常》



ここは神奈川県水無月市

そのほぼ中心にある高級住宅街

けして、広大な面積を持つ邸宅が建ち並んでいる訳ではなく、シックな造りでそこそこな大きさの建物ーーと言っても、もちろん普通の二階建ての家よりは遥かに大きい建物ーーが規則正しく並んだ美しい街並みだ。


いつもは静かな住宅街だが、今日はその静寂を破るように言葉の応酬が聴こえてくる。


一方は少年だろうか・・・

歳は十五、六くらいに見えるから、高校生だろう。

理知的で生真面目さが窺える容貌、ずば抜けて高い訳ではないが百七十半ばはある身長・・・女性がすれ違い様に思わず振り向いてしまうぐらいの美少年だった。腰まである長く艶やかな髪のためか、美しい女性のようにも見える。

もう一方は二人の少女だった。

年齢は少年と同じくらいか、それより少し幼く見える。

双子なのか二人ともよく似た顔立ちをしている。一人は優しげな栗色の長い髪をそのまま背中に流しており、後ろを少し大きめのリボンで結んだ、何処と無く大人しそうな少女だ。もう一人は先程の少女と同じ栗色の髪だが、その長い髪を後ろで一つのまとめている・・・いわゆるポニーテールという髪型だ。その髪型の所為か、先程の少女に比べて活発的な印象を受ける。印象が大きく異なる二人ではあるが、共に美少女であることは間違いない。


そんな三人の・・・いや一人対ニ人の口争は、なかなか終わりを迎える様子はなかった。


やがて、この無駄な言い争いに疲れたのか、少年はその茶色みがかった髪を掻きながら、言うことを聞かない少女達を睨み付けた。

「いい加減、出ていく気にならないのか?」

よく美人に睨み付けられると、その容姿も相まってたいへん怖いと言われるが、それは男にしても同じことが言える。

切れ長で少しつり上がった眼・・・その眼に睨まれたら、たいていの女性は怯えてしまうだろう。そうでなければ、竦み上がって動けなくなるだろう。


だが、この少女たちは普通ではなかった。

見えていないのか、気にしていないのか、それとも『そんなところも素敵』とでも思っているのか、一向に気にする様子はない。


少女1「もっちろん。私たち、ここに住むって決めたもん・・・!」

少年「何勝手に・・・」

少女2「すみません・・・ですが、帰る家ももうありませんし、どうかここにおいてもらえませんか?」

涙目と上目遣いの必殺コンボ・・・

話を途中で遮られたにも関わらず、燃え上がりかけていた少年の怒りが終息していく。

いつの時代も男はこれに弱いものだ。

少年「うぅ・・・」


何故、こんなことになったのだろう・・・?

少年はそう自分に問い掛ける。


この少年・・・朝霧悠姫の運命が狂い始めたのは、忘れもしないあの日・・・


一週間前の、ちょうど今日みたいに晴れ渡った日のことだった。。




ーーーーーーーーーーーー



「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

雲一つない空、世間で言われるところの快晴の空の下、ブレザーを着た少年少女達が挨拶を交わし合っている。

日常的に見られる光景につい笑みを浮かべたくなる。

しかし、そんな何気ない日常は、時にして脆い。ある一つの出来事で容易く瓦解してしまう。


それは今この時間、この瞬間とて例外ではないのだ。


「きゃああああ!」

早朝だと言うにも関わらず、一人の女子生徒が黄色い悲鳴をあげる。

それは瞬く間に伝播していき、振り向いた女子生徒は次々と黄色い悲鳴をあげていった。

少女たちの視線の先には一人の男子生徒がいた。

容姿は一言で言えば超絶美形、漆黒の髪に海より深い青い瞳、身長は百八十を超えている・・・という、まるで少女漫画にでも出てきそうな少年だ。

しかし、性格の方はどうだろうかと言われると・・・そちらも非の打ち所が無いように思える。

実際、彼はその事を証明するかの如く、声をあげる少女達ににこやかな笑顔と挨拶の言葉を振り撒いている。


少女「はぁぁぁぁ・・・いつ見ても素敵よね、剣夜様は・・・」

少女「頭は良いし、運動神経も抜群だし・・・」

少女「そうよね!その上学園No.3ですもんね!」


少女達「はぁぁぁぁぁ・・・」


そんな事が少女達の間で囁かれているとは知らずに、剣夜様と呼ばれた少年は誰かの元へ歩み寄っていった。


時を同じくして、学校に向かう一人の少年がいた。

綺麗な顔立ちをしているのだろうが、牛乳瓶の底のように分厚い眼鏡をかけ、元は長く艶やかであっただろう髪はボサボサになっており、後ろで一つのまとめられている。その為、お世辞にも格好いいとは言えない。


少年が一人で歩いていると、後ろの方から女の子達のはしゃぎ声や歓声が聴こえてきた。

少年「なんだ・・・?騒々しいな」

少年はうざったらしそうに後ろを振り向いた。

すると、こちらに向かって来る一人の美少年の姿が目に入った。

その少年が一直線にこちらに来るのを確認して、この上なく嫌そうに溜め息を吐く。


少年「またお前か、剣夜・・・相変わらずの人気ぶりじゃないか・・・?」

嫌味を含んだその言葉に、全く意に介した様子を見せず、剣夜と呼ばれた少年は微笑み掛けてきた。

剣夜「相変わらずなのは君もだろう、悠姫?いい加減まともな身なりをしてきたらどうだい?今の君の姿は見てられないよ・・・昔の君はとても・・・」

剣夜が何か言いかけたが、その言葉を発するより速く、悠姫の拳が剣夜の横っ腹にめり込んだ。

悠姫「う、うるさい、このばか!」

悠姫と剣夜は家が隣通しだったこともあり、幼い頃からの付き合いだ。剣夜はよく悠姫の家を訪れ、悠姫の祖父に悠姫と一緒になってしごかれていた。

剣夜「くぅぅぅ・・・いくら力の弱い君だからって、今のは効いたよ・・・」

悠姫「力の弱いは余計だ!」


再び、悠姫の拳がめり込む。


この二人のやりとり、というか、主に剣夜が殴られる所を見ていた女の子達が悲鳴をあげる。


しかし、そんなことは全く意に介していないのか、蘇った剣夜は悠姫にひたすら話し掛けていた。

剣夜「そうそう、それよりいい加減、本気で僕と試合ってくれないか・・・?」

すると、これまで以上にうざったそうな顔をする悠姫。

悠姫「またその話か・・・断ると前にも言ったはずだぞ。なんで学園No.3のお前とNo.121の俺が本気で闘り会わないといけないんだ・・・」

このランキングは何を表しているのかと言えば、それには彼らの通う学園が関係してくる。

彼らの通う私立御劔学園は通常のカリキュラムに加えて、特別な制度を持つことで有名だ。

その制度は武芸制度と呼ばれ、互いに武芸を競いあう制度のことだ。

授業のない時間は全て闘う事が許されている。

武器は何を使ってもよく、チームを組んでもよい。要するに、何でもありということだ。

ただし、もちろん人殺しは禁止されているし、試合をしている者がやり過ぎないように監視者が常に目を光らせている。


そして、この闘いにおける強さを表しているのが、このランキングだ。


学園No.1は私立御劔学園において最強であることを示している。そして、No.1は自動的に生徒会長を任されることになっている。


また、このランキングが上位であればあるほど、学園からの支給がよくなる。

No.1ともなれば学費免除の上に学内の施設の優先的使用権が認められていたり、賞金が貰えたりと至れり尽くせりなのだ。



剣夜「そこを何とか・・・頼むよ。僕と君の仲じゃないか」

悠姫「どんな仲だ!絶対断る!」

はたから見ればたいへん奇妙な光景だろう。

かたや学園でもトップ3に入る実力者、もうかたやは学園No.100にも入っていない落ちこぼれである。

誰が見ても可笑しな光景だ。


そうこう話しているうちに、学園が見えてきた。

私立御劔学園は古くから続く名門校で、その歴史は数百年続くといわれている。この学園の特徴は、先程述べたように武芸制度である。健全な肉体には健全な精神が宿る、という精神のもと、この制度が作られた。

しかし、時代は動くもので、今となってはこの制度が目当てでこの学園を受験する者が後を絶たない。


悠姫「ほら、学園が見えてきたぞ。この話はもう終りだ」

剣夜「ちょっ・・・まだ、話しは終わって・・・」

もう話すことはないとばかりに、悠姫は校門をくぐっていった。



しかし、このとき悠姫はとことん運から見放されていた。

校門をくぐったところで鼻先を何かが掠めていった。

瞬時に、周りの状況を把握しようと神経を集中させる。どうやら校庭で武芸者同士が闘っているようだ。

そして今、自分を掠めて飛んでいったものが弓矢だったことを知った。


悠姫「まったく・・・あぶね〜な」

そう言うと、更に詳しい状況を把握しようと神経を研ぎ澄ませた。


闘っているのは少女が二人と、少年が十人近くいる集団だ。

二人の少女を少年達が取り囲んで襲っていた。


少女達の方は明らかに劣勢で、もうほとんど負けが決まったようなものだ。


卑怯にも思える勝負だが、この学園ではそれが許されている。

いくら数が集まっても、圧倒的な強さの前には無意味だということだ。

それに本当に強い者は、そういうことはしないものだ。


悠姫「ったく・・・何やってんだか」

悠姫は関わる気はこれっぽっちも持っていなかった。

いや、悠姫だけではない。この場にいる全ての者が傍観を決め込んでいた。


ところが、襲われている少女達の顔に見覚えがあることに気づいた。


悠姫「あいつら、夕月に明月か・・・?」

通り過ぎようとしていた足が自然と止まる。

この二人はクラスメイトであり、他人と関わりを持とうとしない悠姫に、未だに話し掛けてくる物好きな人物だ。


悠姫「ったく、何やってんだあの二人は・・・」

攻撃されているのがその二人である以上、もう見過ごすことはできない・・・

悠姫は頭を掻きながら、二人の方へ歩みを向けた。







次回予告

夕月と明月の元へと向かった悠姫・・・

圧倒的に不利な状況に悠姫はどう立ち向かうのか・・・

敵の刃が夕月と明月に降り下ろされそうになったとき、悠姫の剣が閃く・・・



次回、《垣間見る悠姫の実力》






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ