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酔った俺と怒った花と偏った趣味の花



 突然だが、恋の自覚の仕方は人それぞれだ。

 他人から言われて自覚する。これは結構な人が経験あるのでないだろうか。『お前、あの子好きなんじゃね?』は、ある程度単純な人間なら下手な惚れ薬より効果あるように俺は思う。

 次は単純にときめきだ。相手を思ってドキドキ、しかしこれは思春期もしくはおさかんな年頃の場合、少しでも好みであると頻繁に起こる。酷くなると異性というだけでこの症状が起こる。のでこれは意外アテにしていない人物が多い。

 そしてもっとも重力候補なのが嫉妬だ。これは軽い恋心では絶対に産まれない。好きな相手が自分以外の異性と仲良くしていると面白くない、ただ、面白くないのだ。


 「じゃ、かんぱーい」

 「うぇーい!」


 その日、恐らく、じゃない絶対始めての、バイト連中での飲み会が行われた。参加してるのは男ばかり、皆、向日葵や菖蒲ちゃん目当てだ。

 俺は正直止めようとしたが、向日葵は意外にもノリノリだった。

 「旦那様の職場の皆様には愛想良く出来るぞ!」

 「目潰すぞ、お前」

 ならせめて菖蒲ちゃんだけでも送ろうかと思っていると、思いの外、彼女も何だかもじもじしていた。

 「ご迷惑でないなら」

 「いや、でもほんと五月蠅いし多分、酒臭いし、絡まれるかも」

 「居酒屋さん、1度行ってみたかったんです。駄目、ですか?」

 そんな上目遣いに勝てるほど勇者じゃありませんでした、俺は。


 「じゃ、ひまちゃん歌いまーす!」

 「よ、待ってましたぁ!」

 飲み会は予想以上の大騒ぎとなっていた。向日葵は酒を飲んだか飲まされたか知らないが、歌ったり踊ったりおっさんみたいに笑いながら実に楽しそうにやっていた。

 うらやましいもんだ。俺は酒が美味くないし、やっぱり酔っぱらいは苦手だ。

 「ひまちゃん日本一!大好き!」

 「おお私も好きだぞ!みんな優しいから大好きだぞ!」

 不味い。ああ、不味い不味い不味い。


 「…や、ヤナさん。お水。サラダ、食べますか」

 「…いいよ。君もあっち行ってきたら」

 「けど」

 「ちょっと飲み過ぎた。風、当たってくる」

 「ヤナさん!」


 格好悪。あーかっこわるい。

 菊川さんの次は向日葵か。やつ当たって菖蒲ちゃんにまで嫌なこと言って。俺は思われれば誰でもいいのか。どうなってんだよ。まったく、どうなってんだよ。

 つうか- 

 「ヤナさん…」

 「うえええええええええ!」

 「ヤナさぁん!?」



 最悪だ、吐いた上、介抱されるなんて。

 「大丈夫ですか?」

 「うん、もう大分平気…もう、平気。ごめん」

 嘘だ、まだ頭がガンガン痛い。また醜態をさらしたくないが、店に戻るように言っても、また彼女が傷つくだけだろう。


 「優しくされたからって大好き連発して…単純だよな。あいつも」

 「…そう、でしょうか。優しくされたら好きになりますよ。だって花だから。優しさをもらって、優しさを返す花だから。ヤナさんは違うんですか?」

 「え?」

 「どうやって、好きになるんですか」

 「どう、って」


 最後にまともに好きな子が出来たのなんて、いつ、だっけ。分からない。分からない、けど。好かれて、喧嘩して、叫ばれて、五月蠅くて、愛されて、愛されて、愛されて。


 「…俺も単純でした」

 「でしょう」

 花のこと言えない。人間も、少なくても俺は単純だ。好かれれば満更でもないし、嫉妬だってしてしまう。

 「私…あの。向日葵さんの代わりでも、いいですよ」

 「…ぅなよ」

 「え?」

 そんな悲しいことを、言うな。

 まるで向日葵が消えるみたいに。君もいつか消えるみたいに。


 

 死にたい。

 酔ってたとはいえ、女子高生にすがりついた。おまけにもう一回吐いた。


 「ヤナ」

 顔を上げると、向日葵がいた。真っ青なのは、酒に酔っただけではないようだ。

 「菖蒲に…抱きついてたのって…見間違い、か?」

 見られた。見られていたのか、俺は焦る通り越して、妙に冷静だった。

 「酔ってたけど、すがりついちまったのは本当だ」

 「…好きなのか?私よりも」

 「分からん」

 そして、最低な対応をした。


 頭が痛い、ああ、頭が痛い、なあ。痛いのに。

 「何やってんのお前!!」

 何で大声出させる上に全力ダッシュさせるんだこいつは。窓から飛び降りようとするか普通。

 「待て待て待て待て落ち着け!深呼吸しろ深呼吸!」

 「落ちついたからってこの怒りが風化するか、しないだろう!つうかさせないぞ!もう嫌だ、もう!ヤナが私しか見てくれない

なら死ぬ!私死ぬぞ!」

 「だから落ち着けって!命は大事にしろよ!」

 「大事にしたって、ヤナから好かれないじゃないか!」

 「あのなぁ!俺は例えお前と両思いになったところでエロイ本もビデオも見るし、街でいけいけな姉さん見たらドキっとするぞ!俺っつうか男はそういうもんだ!」

 よりによって力説した答えがこんなもんか、俺が自分の言葉に自分で脱力していると、向日葵も涙をもっと強くしたまま、静かに俺に頭突きをかまし、そして、部屋から走り去っていった。もう追う気にもなれなかった。



 けど捜索はする。どんだけヘタレなんだ俺は。電話で美貴さんにかけると知らんと一蹴され、あと可能性として高いのは何でか仲良い菖蒲ちゃんだが、まさか連絡は取れなかった。まさかなぁ、と思いながらも樫田に連絡を入れると、すぐに電話がかかってきた。

 『もっしー?向日葵ちゃんなら、私ん家にいるよ』

 「おお、聞いてみるもんだ。よくお前の家知ってたな」

 『ううん、商店街を泣きながら爆走してたところをたまたま捕獲した』

 「何やってんだあいつ!」

 ほらほらヤナ君だよ、と樫田の声が聞こえるが、向日葵は電話を拒否ったらしく、否定の叫び声で俺が泣きそうになった。

 『大丈夫、同居人私のこと知ってるから、向日葵ちゃんにも理解あるし。一晩くらいだったら』

 「悪い、今度なんか奢る」

 『…うーん、奢ってくれるくらいだったら…ヤナ君、明日は暇かい?』

 「は?」



 「きやあああああああああああああ!長身に目つき悪眼鏡で萌えコンボキタこれ!」

 「結婚して!むしろ嫁に来い!」

 「萌えすぎてもうやば妊娠した!」

 神様、俺は何やってんでしょうか。何でこんなわけの分からん格好して、写真撮られまくって叫ばれまくってるんでしょうか。フラッシュ痛い。フラッシュ痛い。

 そのカメラ何万したんだよ。何でこんなに人いるんだよ。つうか何で妙な格好して写真撮ったり撮られたりしてんのねえ。何が面白いのか誰かここに来て俺に説明してくれ。

 「樫田」

 「あ、ヤナ君、ここではホワイトスノーと呼んでくれたまえ。本名は駄目にょりん」

 「もう何でもいいけどよ、なんなんだこれ」

 「コスプレ会場だお☆」

 「楽しい!?」

 「すごく!!」

 分からん。分からん分からん分からん。何でこんなに写真撮られるんだ。七五三の時より撮られてるぞこれ。HPに載せるだと俺のこの醜態を世界に晒すかこの野郎、名刺ですってもらってもな明かに偽名だしつうかアドレスしか書いてない。

 つっこみたいけど、ここでつっこんだら負けのような気がする。

 「あ、あのすいません…写真いいですか?」

 「ああ、どうぞどうぞ」

 「あ、あの…よかったら見下してくれませんか?」

 「………こう?」

 「きゃあああああああああああああサタン様は私のもの運命でつうううううう!!!!!!」

 ここは日本か。誰か日本語しゃべれ。頼むから。あとフラッシュ痛い。



 「ヤナ君、お疲れ様」

 「んー」

 また違う服を着てきた樫田が買って来てくれた缶ジュースをがぶ飲みする。衣装のせいもあるだろうか異常な熱気だ、冷房がんがん効いてるはずなのに。恐いのが、ちょっと慣れてきたことだ。俺は花以外にもオタクにももてるかもしれない。

 「この格好なんだっけ」

 「んー?魔界少年サイコルゾに出て来るサタン様。もー、普段ツンなんだけどいざって時に優しくてね」

 「ああもういい、もういい、そのへんは」

 「あはは、ごめんね付き合ってもらっちゃって」

 「いいって、別に。向日葵を泊めてくれたしな」

 「…本当に、ありがとう」

 だから。眼鏡外した顔で、そんな風に笑うな。



 「にゃああああああお帰りでつかサタン様あぁ!」

 「私めを!最後に私めを踏んで下たい!」

 「うるせぇよあんたら普通にしゃべれよ!あとほんと勘弁して下さい!!」

 最後までもてまくりだったが、もう2度と御免だ。慣れてきたら、今度は別のものが恐くなってきた。みんなまあ可愛いし素直だし心は綺麗なんだろうが、なんつうか目が恐い。そろって狩人みたいな目してやがる。

 男性更衣室は狭い。まあ圧倒的に女が多かったし適切な判断ではあるだろうが、そのせいだろうか、視線が、痛い。

 「…おい、どこのサークルだよ」

 「白雪たんとによによしがって…!」

 白雪-ホワイトスノーだったか、樫田のことだろうか。によによとはなんだ、何することだ。

 「おい、白雪たんに目ぇ覚まさせてやろうぜ」

 「今日こそお茶に誘うぞ!まじこ!!」

 分からん、が。

 

 「おお、どうしたんだいヤナ君」

 「送りますよ、樫田様」

 「…い、今のをサタン様の衣装でもう1度…!」

 「また着るのか、せっかく苦労して脱いだのに」

 ほんと、黙っておけば、黙って、おけば、なのに。けど黙られたら黙られたら、困るのだ。



 「むはああああああやバスやバスやバス!!サタン様ぁ!目線こっちお願いしまうま!」

 「駄目よお!ゆらりん駄目ぇ!ヤナ君は今一般人!」

 「はははは、おじゃまします、そしておじゃましました」

 樫田の同居人は予想はしてたが、予想以上なお方だった。可愛いのに。可愛いのに、すごく残念だ。何でこんなに人形が並んでるんだ。何でこんな似たようなポスターばっかり張ってるんだ。ゲームに埋もれて服が見えねぇよ。

 「よし、ひまちゃん呼んでくるよ!」

 「えー、帰っちゃうの、萌えっ子」

 ぶう、と頬をふくらました同居人さんは、また俺に妙なことを言うかと思ったが、にこりと笑ってくれた。

 「ごめんね私、五月蠅くて」

 「いえ…」

 「こんな調子だから、バイト先でも友達できなくてさ…寂しいからずっと拾った百合に話しかけられたら、翌朝人間になってるんだもん。もう何の萌え展開かと」

 「それからずっと?」

 「うん。私のせいで、すっごい偏った花になっちゃったけど。百合なのに薔薇好きって、何そのネタ的な」

 言いたいことの半分も申し訳ないくらい理解は出来ん、けど。

 「…樫田楽しそうですよ」

 「…そうかそうか。サタン様が言うならそうだろうね」

 勝手に、幸せを願うのは偽善だろうか。どの花も、どの家でも愛されてほっとするのは、どこクラスの阿呆だろうか。

 

 しかしあいつ遅いな、と思っていると、奥から声が聞こえて、同居人さんにうながされて覗いた。

 「ちょ、ちょっと待って!このスチルゲットしてから!」

 「おー、結構進んだねー」

 なんだゲームに熱中してるのか-伸ばした首を瞬時に引っ込めたくなった。向日葵が夢中になっているのは、女性向け恋愛ゲームだった。俺にようやく気づいたのか、向日葵が真っ赤な顔してコントローラーを落としそうになった。

 「や、ヤナ違うぞ!これは浮気じゃないぞ!こいつヤナにちょっと似てるし、名前もヤナに変えられたし、私のこと肉声で向日葵って」

 「向日葵素直に感想を言っていいか気持ち悪い!!」

 「ぶえええええええええ!?」

 「ヤナ君、カレー食べてくー?」



 カレー美味かった。食い過ぎた。

 「眠い…」

 「お前、どんだけゲームやってたんだよ」

 「始まりの鐘が手に入るまで、とやってたら、気がついたら後半モードに」

 やばい、話し方がゲーマーっぽくなってる。どうかこいつがオタクになりませんように。うちにはものを増やす余裕も金もありません。

 まあ、それはそれとして。

 「もう怒ってないのか」

 このまま何事もないように話を進められないのも、また、俺だ。眠い眠いと五月蠅い為、おぶってやった向日葵は、あごで俺の後頭部を軽く叩いた。

 「怒った!」

 「うん」

 「けど、ヤナの部屋じゃないとやっぱりやだ」

 「…狭いぞ」

 「ヤナとくっつける」

 「ゲームもないぞ」

 「あ、百合が床で出来るゲームくれたぞ」

 「おお、何だ」

 「ツイスターゲームだって!」

 「返してこい今すぐ!」

 「ええ!?」

 

 「ヤナ、今日はサービスいいな」

 「何で」

 「ずっとおんぶしてくれるし、えへへ」

 そりゃお前。

 「今度はだっこがいいぞ」

 「そりゃ高いな」

 「ええ、向日葵お金ない」

 「じゃあ駄目だ」

 「ええー?」

 そりゃお前。こんな顔見せられないよ。どんな顔かって。知らね。鏡もないしな。どんな顔してるか想像もしたくないから、余計見せられないよ。




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