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俺様彼女の事情




 どうでもいい情報。ファーストキスはいつですかとアンケートを取ったところ、最も多かった答えは、16~18歳らしい。俺はといえば、始めては成人過ぎたついこの間で、おまけに相手は花だから、カウントされないかもしれない。つまり未経験になる、うるせぇ、ほっとけ。

 だから、二度目だろうが、関係ない。ノーカウントだ。


 向日葵はといえば、満足げに笑っているだけだ。照れもしない、よく出来たでしょう、と笑っているだけ。始めてされた時と一緒だ、何も変わっていない。テレビやらゲームやらの真似をしただけだ。

 じゃあ、何だ、変わったのは俺の方か。違う、と否定した瞬間、首まで赤くなったのが分かった。

 俺が一人で焦っていると、向こうからすごい音がした。


 振り返った瞬間、後悔した。さっきの俺様女だった。彼女はこちらを見ながら、日傘を持ちながら震えていた。なぜか真っ赤だった。

 「し、信じられない…こんな道中で…何考えてんのよ!変態!」

 「何だ、お前、キスもまだか。私、ヤナと二度もしたぞ」

 「…っ!このっ」


 ぱすっ。


 彼女を後ろから軽く頭をチョップした人影に、俺は思わず驚いた。菊川さんだった。

 「ヤナ君、逃げて」

 「けど」

 「何すんのよ、あんたぁ!!」

 俺様女が菊川さんにつっこんでいくが、意外にも、彼女は軽い身のこなしで、彼女を上手く受け止めた上で、捕まえていた。

 「あなたに死なれては困るもの。私に殺される前に。キス二回目って何。キス二回目って何。キス二回目って」 

 「すいません、よろしくお願いします!!」



 しかしさすがに女性を置いて逃げるほど最低にはなれず、俺は帰らずに、少し遠くから覗いていた。向日葵も、興味深そうに二人を見ていた。

 「あんた、どこの誰よ!私のパパがあんたを」

 「あら…私のことが分からないの?」

 「…っ…もしかして…菊お姉さん!?」

 俺はこけそうになった。そして、少し安心した。やっぱりそうきたかと。

 「似てない姉妹だな」

 「違う、あの子、菊じゃないぞ」

 「え、じゃあ、何だよ」

 「うーん、化粧しすぎてよく分かんないけど…もっと小さい花だ」

 ふーん、と花の種類にそれほど詳しくない俺がさっさと納得していると、俺様女は、想像もできない可愛い笑顔を菊川さんに向けていた。

 「お久しぶり、もう会えないかと思った!」 

 「私もよ、元気そうでよかった」

 よかった、大丈夫そうだ。俺が目で合図すると、向日葵も頷き、ついていった。



 帰りに、美貴さんの部屋を覗いた。明かりがついている、帰ってきたようだ。真緖とどうなったか気になったが、言うまでは待っていよう。俺はバイトに行くべく用意をしようとすると、すごい衝撃が背中を襲ってきた。

 「ヤナ、お帰り~」

 「酒臭っ!美貴さん、重いです!」

 「美貴さん!ずるい!ずーるーい!」

 「だぁ、お前も乗るな!」



 水と土でどんちゃん騒ぎしてる美貴さんと向日葵を置いて、俺はさっさとバイトへ逃げていった。あれは機嫌が悪い酔い方ではない、ちょっとほっとした。明日は真緖の惚気話を聞くことになるのだろうか、やれやれ、俺が皿を洗っていると、隣に菊川さんがやってきて、手伝ってくれ始めた。

 「昼はすいませんでした、大丈夫でした?」

 「ええ、ごめんなさいね。あの子、ちょっと、困ったところがあるから」

 「いえ…それで、あの子は、その」

 近距離で小さく微笑まれるから、少しどきりとした。

 「何の花だと思う?」

 「さ、さぁ」

 俺はごまかすように、慌てて皿洗いを開始した。



 バイト終了。お疲れ俺。

 美貴さんはまだ俺の部屋にいるのだろうか、ビールが足りないと暴れていたらたまらない、俺がスーパーに寄ろうとすると、思わず、あれ、と呟いた。重そうに袋を下げているのは、菖蒲ちゃんだった。

 「こんばんは」

 「…っ、え、えええええ、や、ヤナさん!!」

 彼女が派手に荷物を落とし、俺が慌てて手伝った。彼女は真っ赤だった。こちらも照れるから、俺はあまり見ないようにした。

 「すいません、すいません!」

 「いや、いいって」

 拾っていくと、それはおむつや粉ミルクがたくさんあり、菖蒲ちゃんは照れたように笑った。

 「お嬢さんのお子さんのです。可愛いんですよ、男の子なんですけどね。最近、私が抱っこさせてもらっても泣かなくなってきて…何だか弟が出来たみたいで」

 「良かったね」

 「はい!あ、す、すいません、話してしまって…じゃあ、私、帰りますね。さようなら」

 じゃあ、と別れかけた俺は、思わず慌てて立ち上がった。どうしてそう、街灯がない道を選ぶんだ。まあ、近いからだろうけど。

 「送ってくよ。荷物も持つから」

 「…ふぇええ!?あ、ありっ、ありがっ、」

 「わ、分かったから。舌噛むって」



 いつまでも手を振ってくれている菖蒲ちゃんを無事に送り、別に何もしてないのに、何となく部屋に入りづらい。誰に何の申し訳なさを感じてるのか、馬鹿馬鹿しい、俺が部屋に入ると、酒臭い美貴さんと向日葵が手を振っていた。

 「おっかえりー。遅いじゃねぇか、こんにゃろお」

 「ヤナ、お帰りのちゅうう」

 「だから酒臭いって!美貴さん、こいつに酒飲ませましたね!?」



 ぴぴ…ぴぴぴぴ…

 携帯アラームが頭に響く。頭が割れそうだ。これが二日酔いというものか、なるほど、二度と経験したくない。一通り吐いた後、少し頭はすっきりしたが、夕べのことはあまり覚えてない。美貴さんはいつの間にか帰っているし、向日葵はといえば、なぜか猫耳をしていたから、何があったか思い出したくもない。

 さっさと大学に行く準備をして、行く前に、俺は向日葵の寝顔をもう一度見た。よく眠っているが、気分は悪くなさそうだ。酒とはいえ水分だ、あまり害はないようだ。

 猫耳を外すと、向日葵がふにゃっと呟いた為、俺は気がつくと、なぜか、本当になぜか、向日葵の頭を撫でていた。俺は慌てて手を引っ込めると、急いで大学へと飛び出した。



 「おっはよー、ブラザー!!」

 いつから俺の兄弟になったんだ、大学に来るなりテンション高く迎えた真緖に、俺は、おはよう、とだけ軽く返した。しかし奴も負けじと俺の腕を引っ張ってきた。

 「なぁなぁ気になるだろ、昨日、俺と美貴さんがどうなったか。聞きたいだろ!?」

 「聞きたいっつうか言いたいんだろうお前は!」

 「お、朝から賑やかだねぇ」

 「お、おっはよー、樫田っち!聞いてくれよ、昨日なぁ」 

 テンション高くきゃっきゃっきゃっきゃ騒ぐ真緖の向かいで、あ、と顔を上げた樫田と、俺が、あ、と目が合った。そういえば、そうでした。一人で気まずくなってる俺の向かいで、樫田は走り出した。

 「お、おい!」

 よかった、止まってくれた。

 「あ、あのさぁ」

 どうする。告白されてないんだから、断るのも変だ。かといって今まで通りは無理だ。それは嫌だ、と、勝手で最低すぎる俺が、そう否定した。

 「また、向日葵と遊んでやってくれ。あと、その、なんだ、俺、友達ただでさえ少ないし、お前唯一、対等に話せる女子だし、あと、その、なんだ、えーと」

 だから何が言いたいんだ俺は。一人で焦ってる俺の前で、樫田は振り返り、大笑い、した。

 「ヤナ君は外さないなぁ」

 「…っ、かし、」


 どす!!

 「だっ!!」

 もろに腹筋にきた、すごい勢いで腹を殴りつけた樫田は、俺の耳元にそっと近づいてきた。

 「大好きだぜ」

 がりっ。

 「いってーーー!!」

 「にょほほほほほほ!!」

 耳、噛みやがった。大丈夫かよ、寄ってきてくれた真緖の手を借りて立ち上がり、俺も半泣きの目で笑っていられた。格好良すぎるよ、樫田さん。



 噛まれた耳がまだ痛い。そうとう惚けたいらしい真緖から逃げるように、俺はさっさと大学から帰っていった。向日葵はいい加減起きただろうか、など考えていると、後ろに、また強い衝撃が走った。

 嫌な予感は当たった。俺様女だった。俺の頭をどついたらしい日傘を手に、彼女は顔中から怒りのオーラを放っていた。

 「あんた…本当、どんな種類の変態なのよ!花ばっかにもてて嬉しいわけ!?とんだ底辺以下ね!」

 「いやいやいやいや!何でそうなるんだよ!つうかあんたどっから見てたんだ!」

 「昨日からずっとよ!」

 「えー!?」

 暇なのか、この子は。俺が言葉を返せないでいると、彼女が傘先を俺の鼻すぐ近くに突きつけてきた。

 「あんたがどの花とよろしくやろうが知ったこっちゃないわよ!けどね!菊お姉さんまであんたにそそのかされてんじゃないのよ、あんたもういい加減にしなさいよ!」

 「いい加減にって、何だよ!俺は何もしてねぇよ!何でこんな花にもてまくってんのか、知りたいくらいだ!」

 すると彼女が、喉の奥で小さく叫んだ。

 「…っ、信じられない!あんた、自分がどういう人間か忘れたの!?」

 何だ、俺は思わず彼女の顔を注意深く見た。彼女は、花たちがどうして俺に惹かれるのか分かっているようだ。核心に触れられそうで、俺がそのまま見ていると、彼女は少し赤くなった。

 「何よ、私まで手籠めにしようって魂胆!?悪いけど、私はそこまで単純じゃ」


 かん、と軽い音がして、傘が蹴り上げられた。俺は始めて、真緖が格好よく見えた。今日はよくこいつに助けられる日だ。

 「これでまた貸しが増えたな」

 「その前にお前が奢れよ、まだ奢られてねぇよ」

 真緖の顔を見た途端、彼女が悲鳴をあげた。

 「…な、何、あんた…花と経験あるの!?」

 俺が思わず吹き出すと、真緖が頭をかきながら照れていた。

 「えー、分かるー?参ったなぁ。そうなんすよー、俺の彼女、超美人でーなんたって元薔薇だしぃ、まあやったのは事故みたいなもんだったけど、いつかは本当に…きゃああ」

 女子高生のようなテンションの真緖の言葉に、俺は驚くどころか、むしろ、落ち着いていっていた。そうか、美貴さん、話したのか。しかし落ち着く俺とは逆に、彼女はどんどん声を荒げていった。 

 「信じられない、このど底辺供…!変態!へんたっ…」

 いきなり、彼女が倒れた。俺たちが思わず駆け寄ると、瞬間、言葉を失った。日傘の下で倒れているのは、さっきまで騒いでいた彼女ではなかった。

 

 「…かすみ草だな」

 「だな」


 それはチューリップくらいしか分からない俺でも知ってる、ポピュラーな花だった。ぐったりしているように見えるかすみ草を手に、俺はとりあえず、カバンの中のペットボトルの水を、花めがけてぶちまけた。

 「も、戻るのかそれで」

 「知らん。とりあえず向日葵に聞いてみるわ」

 「あ、俺も行くよ」



 花瓶なんてあるわけない、グラスに水を注いでとりあえずそこに突っ込んでおいてみた。かすみ草を注意深く見て、向日葵は、うんと頷いた。

 「大丈夫、お腹が空いてただけだ。もう元気になったぞ」

 「そうか、戻れるのか?」

 「もう、戻れるはずだぞ。意地張ってるだけだ」

 するとかすみ草が器用に揺れ、向日葵があっかんべぇをしてやっていた。微笑ましいといえなくもないが、シュールな絵面だ。パパとやらに連絡しなくて大丈夫なのだろうかと俺がまた要らん心配をしていると、ふいにドアが開いた。

 「ヤナ…水、くれ…」

 「美貴さん、だからチャイム」

 まぁ例えあと千回言っても押さないだろうなこの人は、俺がグラスを探していると、真緖がわざとらしく座り直した。

 「こ、こんにちは」

 「………っ」

 ようやく真緖に気づいたらしい美貴さんは、慌てるように押し入れの中に入っていった。

 「み、見るな!今、すっぴんなんだよ!」

 「大丈夫!可愛いっす!美貴は何もしなくても可愛いっす!」

 「おい、そこのラブコメ!頼むから余所でしろ!」

 「そうだ、うらやましいぞ!」

 「お前も怒るポイント違うだろうが!」

 などと俺たちが騒いでいると、すっかり人間の姿に戻ったかすみ草様が、テーブルに足をのせていた。


 「五月蠅いわよ、ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ。人間と花が混じって、馬鹿みたい」

 「…なんだ?随分、生意気なガキだな」


 押し入れから出てきた美貴さんに睨まれ、かすみ(仮)さんの顔色が少し青くなった。

 「この前、客から花束もらっちゃってさぁ。薔薇と、引き立て役のかすみ草いっぱい。白くて小さくて可愛い花だよなぁ、地味だけど。地味だけど」

 「…っ…殺してやるううう!!」

 「だぁ、狭いとこで暴れるな!」

 「いーじゃん、かすみ草。俺、結構好きだぜ」

 え、と場の視線を一気に集めた真緖が、照れたように笑った。

 「あ、でも、本命は美貴さんだけど」

 「-ばっ、馬鹿」

 甘い空気に俺が吐きそうになっていると、これが致命傷だったらしく、かすみ(仮)さんは泣きながら部屋を飛び出していき、俺は慌てて、カバン内のペットボトルをひっつかみ、彼女を追いかけ、それを持たせた。

 「待てって!これだけでも持って帰れ!また倒れるぞ!」

 「離して!」

 真っ赤に泣きはらした顔に、俺は思わず手を引っ込めた。

 「何よ、あんただって、薔薇とか向日葵とか、派手な花がいいんでしょう!どうせ私は地味よ!地味な引き立て役よ!」

 ああ、と俺はようやく納得した。だから彼女はこんなにいつも濃く化粧して、全身派手な服を着ていたんだ。

 「けど、あんたのパパは、あんたがいいんだろう。それでいいじゃねぇか」

 「…分かったような口聞いて…」

 「…は?」

 何だろう、何か知らんが、押してはいけないスイッチを踏み押してしまったようだ。俺が恐る恐る振り返ると、かすみさん(仮)は、覇王のような顔をして、俺を睨み上げていた。

 「決めた。今日から、あんたは私の犬よ」

 「はぁ!?」

 「覚悟なさい!絶対に逃がしてあげないんだから!」

 

 かくして。

 俺はお花様の犬に認定されました。俺が何をしたが知らんが、頼むから、誰か俺の立場を変われ。本気で。



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