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デカルコマニー・ラヴァーズ  作者: 金剛ハヤト
アナザー・ロスト・ラヴァー
9/19

第9話 俯く向日葵

貴方の心臓になりたい

 店頭に並ぶ花々が斜陽の下で揺れている。カフェや銀行が所狭しと立ち並ぶ駅前の中でルナガーデンは咲き誇る1輪の花のように存在感を放っていた。


 急なお願いにもかかわらず、誠は「願ったりかなったりだ」と二つ返事で快諾してくれた。思い立ったが吉日ということで、学校からそのまま誠の実家であるルナガーデンに行く運びになり、他愛のない雑談に花を咲かせながらふたりで歩いていた。


「ただいま」

「おかえりなさい。今日は少し遅かったわね?」


 誠の声に反応して、店内で花の世話をしていた誠のお母さん────しずくさんが手を止めてこちらを見る。目が合ったので会釈をすると、雫さんは驚いたように目を丸くした。


「あらあら普くんじゃないの! いらっしゃい!」

「お久しぶりです」

「元気そうで良かったわ~。確か3ヶ月ぶりよね? うちに来るの。あっ、別に嫌味とかじゃないからね! どの店で花を買うかは普くんの自由だから。それで今日はどうしたのかしら? 前みたいに向日葵を買いに来たの? それとも別の花? 香水もあるわよ! 遠慮なく言ってちょうだいね!」

「あ、あはは……」

 

 止まる気配のないマシンガントークにたまらず誠を見る。助けてくれ、と。うまく伝わったようで、誠は頷いてくれた。


「落ち着けお袋。今日は客じゃなくて友達として来てくれてるんだ。恥ずかしいことすんな」

「あら、そうなの?」

「はい。いきなり押しかけちゃってすみません」

「気にしなくていいのよ! 普くんはもうひとりの『家族』みたいなものなんだから!」


 よく笑い、よく話す。向日葵のように陽気な人だ。季節で例えるなら間違いなく夏だろう。


 ────俺は■■■■になりたいんだ。


 無意識に思い浮かべた兄貴の姿は蜃気楼のように揺らめいていた。目尻を下げて笑う癖や声の抑揚までハッキリと覚えていたはずなのに、霞んでいる。いつのまにか、俺は兄貴の姿が分からなくなっていることに気が付いた。


「普くん?」


 呼び掛ける声にハッとする。顔を上げると、雫さんが観察するような目で俺を見ていた。


「大丈夫? ぼーっとして、もしかして具合悪い?」

「あいや、大丈夫ですよ。こうして友達の家に来るの、初めてだからちょっと緊張して……」

「ならいいんだけど……熱中症には気を付けてね。この時期怖いから」

「それは任せてください。一応、医者志望ですから」


 俺が笑いかけると、


「あら、頼もしいわね」


 雫さんは笑い返した。


「それじゃ、私は作業に戻るけど、友達だからって失礼がないようにしなさいよ」

「分かってる。言われなくても。早く戻れ」

「はいはい。分かったわよ」


 息子の棘のある物言いを気にすることもなく、雫さんは中断していた花の世話を再開した。

 

「お袋がすまない」

「謝らなくていい。迷惑だと思ってないから」

「そういってくれると助かる。────行こうか」


 階段を上がり、廊下を進む誠の背中を追う。誠は[ハナ]と書かれた花形のプレートが掛けられた扉の前で立ち止まると、


「姉、客だ。出てこい」

  

 扉を3回ノックした。


 間も無くして扉の向こう側から物音が聞こえてくる。いよいよだ。この扉の向こう側に、兄貴の彼女だった人がいる。俺が知らない兄貴を知っている人がいる。


 ドアノブが回る。扉が開く。ストップウォッチで測れば1秒にも満たないような刹那の中、記憶の中で褪せた彼女の色彩がよみがえる。


 乱雑に染めたような金髪のショートヘアに泣きぼくろ、兄貴とは似ても似つかない目つきの悪さ。一度見た人間の顔は忘れない。


「────うそ……」

「初めまして、華さん」


 俺を見た瞬間、月谷華つきたにはなは表情の無い声で呟いた。抑揚のない無機質な声だった。目つきの悪さからは想像もつかない程大きく見開いた目が揺れて、言葉を落とした唇が僅かに痙攣している。


「アンタ、なんで」


 声を取り戻した彼女から僅かにタバコの匂いがした。傷んだ金髪。目の下の隈。手首に巻きつけられた包帯。目に見える全てのものが彼女の精神状態を物語っていた。


三葉普みつばあまね。あの日の事故で亡くなった、貴方の彼氏の弟です」


 彼女の背中の向こう側、時計の針が2つ動く。午後5時を知らせる防災無線のチャイムの音が鳴った。


「華さん。少しお時間いただけませんか?」



 寿命が切れそうな照明が点滅している。予想よりも片付いていた室内は、代わりにむせるようなタバコの匂いが充満していた。


「こうして、アンタと話すのは初めてだね」


 長い沈黙を破ったのは華さんだった。ぎこちなく笑いかける姿が痛々しい。しばらくの間笑ったことがないことが一目見て理解できた。


「大きくなったね。いくつになったの、身長」

「4月の身体測定で170センチになりました」

「将来有望じゃん」


 華さんはまた笑った。さっきよりも少しだけ、自然な笑顔だった。


「学校は楽しい?」

「今はそうですね」

「いいじゃん。部活は何かしてる?」

「いや、特にはしてません」

「アレ、意外。誠と同じ美術部だと思ってたんだケド」

「1年の頃に誠から誘われたことはあるんですけど、その、まだ事故からそんなに経ってない時期だったので、余裕が無くて」

「まぁそうだよねぇ……」


 華さんが深い息を吐く。


「アタシが言うのもアレだけどさ、大丈夫? 死にたいとか、自分が死ねばよかったとか、そういうこと思ってない?」

「思ってますよ。毎日」

「良かった。アタシとおんなじだ」

「そこは「思い詰めたらダメだ」とか「自分を大切にして」って言う場面だと思うんですがね」

「アタシがそんなご立派なこと言える質だと思ってんの?」


 言いながら華さんは手首の包帯を見せつけるように腕を軽く振った。


「人を見た目で判断しないようにしてるだけですよ」

「アハハ、お兄ちゃんとは大違いじゃん」

「……どういう意味ですか?」

「あ、知らない? だったら教えてあげる。アイツね、初対面でアタシのこと"社会不適合者"っつってきたのよ」

「え、初対面でそんな風に言ったんですか? あの兄貴が?」

「そうだよ。そのときからアタシは学校も行かずに遊んでるような不良(ヤンキー)だったから間違ってないんだけどサ。流石にイラついたよね」


 にわかには信じられないことを聞いた。あの兄貴が、初対面の人間にいきなり蔑称を付けたなんて。何か理由があるに違いないとは思うが、その蔑称を付けた相手と付き合うことになった経緯がまるで分からない。兄貴は華さんのどこに惹かれたんだろう? 


 顔は……今でこそ陰があって健康的とはお世辞にも言えないが、笑えば美人なんだろうなと分かるくらいには整っている。水永とは毛色の違う美人だ(水永の方が俺の好みに合っているのだが)。兄貴は面食いだったのだろうか? 


 身体は……改めて観察するとモデル顔負けのスタイルだ。言動の端々に見られる乱雑さや威圧感のせいで分かりづらいが、非常に女性らしさのある身体だ。女性らしさの象徴とも言える胸は服の上からでも分かるほど大きい。兄貴は巨乳好きだったのだろうか?


 性格は……兄貴評は『社会不適合者』だが、流石に初対面の相手を見た目だけで蔑如する人だとは思えない。恐らく華さんの良くない噂を知っていたとか、その現場を目撃したことがあるとか、そんな背景があるのだと思われる。華さん自身も『社会不適合者』であることを否定はしなかった。憶測しかできないが、お世辞にも褒められた性格ではないのだろう。兄貴は意外とこういう人が好きなのだろうか?


「……ふーん。もしかして「なんにも知りませんでした」って感じ?」 

「あ、はい」


 思考を打ち切り、俺は頷いた。


「じゃあさ、社不呼ばわりされてムカついたアタシがアイツの顔面ぶん殴ったことも知らないでしょ」

「何があったらそんな最悪なファーストコンタクトから恋仲にまで発展するんですか?」

「アタシだって知らないよ。だってアイツの方から告ってきたんだもん」

「兄貴の方から告白したんですか!? 社会不適合者に!?」

「おいクソガキ、舐めんなよ」


 華さんの顔に初めて明確な表情が浮かんだ。苛立ちを露にする華さんの顔は予想以上に恐ろしかったが、それ以上に華さんの中に人間らしい感情が残っていたことに安堵して思わず笑みが漏れた。


「ちょっと、なにひとりで笑ってんのさ」

「嬉しいんですよ。華さんがそうやって健全な感情を出してくれることが」

「……どういう意味?」

「人間、本当に壊れたら何も感じなくなりますから」


 笑うことも泣くことも無くなった母さんの姿を思い浮かべながら言った。


「前を向いて生きろ、なんて無責任な言葉は言いたくありません。それでも、華さんが壊れずにちゃんと怒ったり笑ったりしてくれるなら、俺は嬉しいです」


 俺が言うと、華さんは頬を少し赤く染めて目を逸らした。


「そういうズルいところ、ホントそっくりなんだけど」

「褒め言葉として解釈します」


 無意識に飛び出した台詞に思わず口を押える。一瞬だけ水永が俺に乗り移ったような気がした。


「……ねぇ、アマネくん」

「っ、なんですか?」

「彼女いるでしょ、アンタ」

  

 瞳孔の開いた、狩人のような目。


「いきなり何を」

「いるんでしょ。誤魔化しても無駄だよ」


 様子が豹変した華さんに俺は危機感を覚えた。しかし、身体を引いて距離を取ろうとした瞬間、華さんは獲物を狩る猫のような素早さで距離を詰めてくる。勢いのままに顔を両手で捕まえられた俺は、その華奢な腕からは想像もつかない怪力に引き寄せられた。逃がさないと言わんばかりの力強さに俺はバランスを崩し、華さんの身体に体重を預けることになった。


「アタシさ、頭悪いけど、勘はすっごくイイの」


 華さんの金髪が頬に当たった。


「タイヨウと初めて会った時もそうだった。他の人にはない()()()がアイツにはあるって、一目見てわかったもん」


 瞳孔の開いた目が、まさぐるように俺の目を覗き込んでいる。


「でもアンタからは……なにも感じないね。()()()()()だから、アンタも()()なのかなって勝手に思ってたんだけど」

「その「俺が兄貴の弟だから」っていうの、何なんですか? 誠からもさっき同じことを言われたんですけど」

「……そっか。アイツのこと、知らないんだ」


 華さんが少しだけ顔を引いたそのタイミングを逃さず、俺は口を挟んだ。弟の名前を出したことで正気に戻ったのか、華さんは俺の顔から手を離した。


「教えてください、俺が知らない兄貴のことを。そのために来たんです」

「……ん、いいよ。教えたゲル」


 俺が目を見つめ返しながら言うと、華さんは物憂げな表情を浮かべながら頷いた。


「アマネくん。アタシ、今からとんでもないこと言うけど、信じるかどうかは好きにしてね」

「構いません」


 いつか体験したことがある緊張感に、思わず背筋が伸びる。


 そして次の瞬間────


「タイヨウはね、未来を見ることができる不思議な力を持ってたんだ」


 俺は目を見開いた。

金髪ダウナーヤンキーヘビースモーカー系巨乳ギャル(属性過多)

※煙草は20歳を超えてから!


くっそどうでもいい補足!

単純な戦闘能力は華さんがぶっちぎりで作中一位!

頑張ったら握力だけで人の頭蓋骨に罅を入れられるよ!

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