第5話 告白・Ⅱ
全然気づいてなかったんですが、2月13日にこの作品が日間ランキングにランクインしてたみたいです。
投稿してからまだ1週間経ってないんですけど?
なんで????
ンなコト知らねぇ!!! ありがとうございます!!!!
神の視点。それは小説において登場人物の心情や背景を含めたあらゆる情報を全て把握しているかのように読者に語る表現方法だと、昔本で読んだことがある。それが水永が持つ、もうひとつの力。
水永は言い切った。この世界は物語であると。今までとはわけが違う。解釈などという曖昧なものではなく、一つの事実として言い切ったのだ。であれば"神の視点"を持つ水永は、世界の全てを見通すことが出来る神の目を持っているということになる。
信じるかどうか決めるまでかなりの時間を要した。会ってまだ1週間しか経っていない変な同級生に1年後お前か私が死ぬと言われたところで、はいそうですか、と受け入れることはできない。できるわけがない。しかし今まで体験した出来事を考えると、水永の言葉には計り知れない力に裏付けされた説得力がある。
水永の言葉を嘘だと仮定する場合は妄言だと切り捨てるだけでいい。だが真実だと仮定する場合、俺が死ぬ可能性が生じる。嘘だと切り捨てて真実だった場合、俺は回避できたかもしれない死に直面するかもしれない。
であれば最も利益がある選択は何か? 俺の答えは一つだった。
「どうすれば死なずに済む?」
「私の言葉を信じてくれるんですね」
水永は答える前にそう言った。
「別に、信じたわけじゃない」
俺は短く否定する。水永は分からない様子で首を傾げてた。
「お前が嘘を言ってる可能性もある。本当のことを言ってる可能性もある。それは俺が死ぬ可能性があることを意味している。だが俺はまだ死ねない。でも俺はお前みたいな力は持っていない。だから俺は俺を生かすためにできることを全力でやる」
死にたいと思ったことなんていくらでもある。生きる意味なんて分からない。自分が何のために生まれてきたのかなんてずっと分かってない。でも俺にはまだ家族がいる。俺が死んだら心が壊れてしまう人がいる。俺の兄貴は親不孝者だ。親より先に死んでしまったから。俺まで兄貴みたいな親不孝者になるわけにはいかない。
────なにより、何も分からないまま死ぬのは嫌だ。
「貴方は強い人ですね」
水永はまた顔を伏せる。それは羨望の声のように聞こえた。
「強がってるだけさ。俺はライオンでも太陽でも、ヒーローでもない。ただの人間だ」
「ただの人間というと語弊がありますね。貴方は『主人公』です」
「いや、それは俺よりお前の方がらしいだろ」
「……え?」
言うと、水永は面食らったような顔をする。
「私が……『主人公』……?」
「事故で家族を失って、それがきっかけで不思議な力を手に入れて……まるでジャンプの主人公みたいだ。俺が主人公だって言うならお前だって主人公だ。まぁ、主人公がふたりいても問題はないだろ」
水永の瞳が揺れている。呆然、驚き、口は開いたまま塞がらない。朝日を初めて見たフクロウのように目を大きく見開いていた。
「とりあえず話を戻すぞ。どうすれば俺たちは死なずに済むんだ?」
「……死を回避する方法は私にもわかりません。ですが如何なる場合においても、最終的には私か貴方が死ぬという『結末』に未来が収束するのです」
「そのクソみたいな『結末』はクソみたいな物語にそう定められているのか?」
水永は頷く。
「何回も何回も観測をやり直しても未来が変わることはありませんでした。『結末』を書き換えようとしても無理でした。もはや諦めていましたが、貴方と一緒なら、変えることができるかもしれません。────だから、三葉くん」
水永は弾かれたように身を乗り出し、至近距離まで顔を近づけてくる。その両手が俺の右手を包み込むように掴んだ次の種類、今日一番の衝撃と困惑が俺に襲い掛かった。
「私たち、付き合いましょう」
「……は?」
スズランの香りが鼻腔を擽る。水永の香水の香りだ。屋外、しかも動物園の中でも匂いが分かるくらいには近い距離にいるわけで。理解した瞬間脳みそが停止した。
「貴方が主人公なら私も主人公。確かにそうかもしれませんね。ですがこの物語における私の立ち位置って、実は『ヒロイン』なんですよ」
「待って、待って」
「主人公とヒロインは大抵の場合物語の中で恋愛関係になりますよね? つまりそういうことです」
「??????」
状況に理解が追い付かない。何を言っているんだコイツは。俺が知らない間にエサやり体験のエサでも食べて頭がおかしくなったのか?
「水永、一旦落ち着け。お前は冷静じゃない」
「いいえ私は冷静です。どちらかと言えば、冷静じゃないのはあなたの方では?」
「出会ってまだ1週間しか経ってないんですけど? どう考えても冷静じゃないのはお前だろ」
「貴方はそうかもしれませんが、私は1年前からずっと貴方のことを見てきました。物語の観測を通じて、貴方の全てをね」
そうだった、コイツ神の視点持ってるんだった。
「訳分かんねぇ……なんなんだ? お前は俺の何を好きになったんだ……?」
「強いて言うならその性格、でしょうか……? 私にもよくわかりません。もしかしたら、私が貴方に抱くこの温かい感情も設定されたオブジェクトでしかないのかもしれません。────それでも私は貴方のことが好きです」
「そこに嘘はありません」と、水永はまっすぐ俺の目を見ながら言い切った。さっきまでの俺を揶揄おうとする悪戯な感情はそこには見えない。
「誰にも予想できないことをしましょう。この画面の向こう側で私たちを覗き込んで見ている読者が想像できないようなことを……。私と貴方で、物語から逃げませんか?」
あぁ、なんて綺麗な瞳なんだろう。願わくば、この瞳をずっと見ていたい。そう考えている自分がいた。
「また、俺の思考に干渉したのか?」
「コラっ、私のことをなんだと思ってるんですか貴方は」
水永の呆れたような目が俺を見ている。瞬き、感情に連動して形が変わっていくその有様に俺は釘付けになっていた。
「こう見えて私はロマンチストなんですよ? 好きな人には私をずっと見て欲しい。無意識に私のことを目で追って、会えない日には私のことで頭がいっぱいになって、今か今かと次会える日を待ち焦がれる。私は貴方にそう想って欲しいです」
鼻先に触れる吐息が温かい。止まることを知らない好意の言葉が春風のように俺を撫でる。ここまでされて相手を意識しない男などいない。しかも相手は美少女だ。
そりゃあ、嬉しいに決まっている。
「……ダメ、ですか?」
黙りこくった俺を見て不安になったのか、水永が弱々しい声を漏らす。
「あぁもう、分かったよ。付き合ってやる、お前と付き合えばいいんだろ。────だからそんな目で、俺を見るな」
俺は、自分が思っていたよりチョロい男だったらしい。上目遣いをされただけで、告白を受け入れてしまうなんて。こんなところを兄貴に見られたら、笑われるに決まってる。
「はい……はい!」
水永は顔を綻ばせ、噛みしめるように何度も頷いていた。
「だが勘違いするなよ。これはあくまで俺とお前を生かすための協力関係だ。お前が考えているような関係じゃないからな」
「でも恋人にはなってくれるんですよね?」
「……………………それは、そうだけど」
「ありがとうございます。……ふふ、素直じゃない人ですね」
そう言って水永は微笑んだ。途端に水永に見つめられてることが無性に恥ずかしいことのように思えてきて、俺は急いで目を逸らす。
「ねぇ三葉くん。私、デートの続きがしたいです」
「貴方はどうですか」と、水永は言葉にせず目で俺に尋ねてくる。時刻は既に午後の4時、あともう少しで日が暮れる。解散するにはいい頃合いだ。
「……1周だけだぞ。今日はそれで満足してくれ」
「はい!」
休憩所を出て園内をまた歩く。ここにいる動物たちは全てもう見たにも関わらず、水永はずっと楽しそうに笑顔を浮かべていた。そして最後まで水永と繋いだ手が離れることも無かった。
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