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デカルコマニー・ラヴァーズ  作者: 金剛ハヤト
許されざる彼女
20/21

第19話 アウト・オブ・ワールド・Ⅶ

 ずっと雨が降っている。


 夕べはあまり眠れなかった。夜が明けても網膜にこびりついたあの光景が忘れられなくて、私はベッドの上で少しの間ぼーっとしていた。そんな私を驚かすように震えと音を発したスマホに手を伸ばすと、トークアプリに彼からメッセージが届いていた。


[放課後]

[いつもの場所で待ってる]


 私は、断腸の思いでトークアプリを削除した。


 メッセージを見た瞬間彼に会いたくなってしまった。最後に見たあの焦った顔を思い出した。何の話がしたいのか、"神の視点"を使うまでもない。だからこそ会ってはいけない。


 彼は絶対に嘘を吐かない。真実を告げるに決まってる。私の間違えた解釈が正しいものになる。だから絶対に、会ってはいけない。


 彼の心は月谷さんに向いたのだ。誰が何と言おうと関係ない。たとえ事実と食い違っていようと、私がそうだと思えばそうなる。あの花束だって同じこと。間違っても、私への誕生日プレゼントだなんて思ってはいけない。


「行ってきます」

 

 暗くなったスマホの画面に水滴が落ちる。今日の天気は雨だった。



 朝礼の時間になっても、彼が教室に来ることは無かった。欠席確認の際にハト先生からチラリと目線を向けられたが、私は首を横に振った。どうやらハト先生も理由を知らないらしい。


 一体何があったのだろうか? 考えかけて、私はハッとなってやめた。


 1時間目が終わった。彼の席は空席のままだった。2時間目、3時間目、昼休みになっても、彼が扉を開けて教室に入ってくることは無かった。なんだか妙な胸騒ぎがして、昼ご飯が喉を通らなかった。


 彼の身に何か起きたのかもしれない。考えた途端怖くなって、私は今更、トークアプリを削除したことを後悔した。削除せずに、通知をオフにするかブロックするだけにしておけばよかった。


 5時間目に入っても、雨足は弱まるどころか一層の激しさを増していく。吹く風に揺さぶられて窓はガタガタと震えている。


 突然、窓ガラスが強烈な光を放ちながら点滅した。数秒遅れて聞こえてきた雷鳴にクラス全員の意識が外に向いた。


「今雷鳴らなかった?」


 集中力が切れた誰かが呟いたその刹那、爆撃のような凄まじい破裂音が教室を振動させた。


「うおぉっ!!? 今のメッチャ近くなかった!?」

「警報! 警報だろコレは!」


 悲鳴にも近い声があちこちから上がった。一部は馬鹿な男子の馬鹿な願望だったが。とにかく、2度の雷は授業を中断させる威力を持っていた。


「折り畳み傘で帰れるかなぁ」

「部活できねぇから止んで欲しいんだけど……」


 皆が皆自分の身を案じる中、私はどうしても彼の安否が気になってしまう。どんどんと激しさを増す雨に、嫌な予感は止まらなかった。


「えー、見ての通り外は大雨だ。一部地域では河川の氾濫も起きてるので絶対に水辺には近づかないように。寄り道もせずに真っすぐ帰りなさい」


 終礼の時間、ハト先生が注意喚起を促した、皆一斉に教室を出ていく。


 私は、旧校舎に向かった。もしかしたら旧校舎3階の空き教室に、彼がいるかもしれない。そんな気がしたから。


「あれ……?」


 1階の渡り廊下。いつもは開いているはずの扉が、今日に限って閉まっていた。開けようとしても鍵が掛かっていて開かない。職員室に鍵を取りに行こうか少し迷ったけど、先生たちが理由もなく鍵を貸すわけがない。それらしい理由も思いつかなくて、私は渡り廊下を引き返した。


 下駄箱にはもう人は残っていなかった。こんな大雨だ、用もないのに学校に長居する理由は無い。彼の靴も、やっぱり無かった。


 晴れない後悔を抱えながら自分の靴を取ったとき、靴ではない何かの感触が私の手に当たった。取り出してみると、出てきたのは1通の手紙だった。


「またラブレター……? はぁ……いい加減しつこい────」


 微かに、スズランの香りがした。


「え……?」


 私が使っている香水と同じ匂い……なんで?


 私は気になって手紙を裏返した。


「この封蝋……!」


 ライオンの封蝋。形こそ楕円で少し歪だけど、3月に私が送った手紙と全く同じもの。急いで封を開けたら、余りにも濃い香りが飛び出した。香水を直接振ってしまったのだろう、中に入っていた便箋は下半分が少しシワが寄っていた。


『メッセンジャーより愛をこめて

 貴方にお話したいことがあります

 旧校舎3階の空き教室でお待ちしております』


「────まさか!」


 考えるよりも先に、身体が動いていた。


 旧校舎の裏口。遠回りだけど、そこなら開いているかもしれない。私は雨に濡れるのも構わず走った。傘も下駄箱に忘れたまま、それでも私は走って裏口へと向かう。扉は待ち構えていたかのように開いていた。


 私は3階の空き教室に向かわなければならない。


 私の中にあるのはそれだけだった。もはや聞こえてくるのが自分の足音なのか雨音なのか分からない。必死になって階段を駆け上って、私は最後の扉を開いた。


「三葉くん!!」


 パン! と、雷とは違う破裂音が私の鼓膜を叩いた。それはクラッカーの音だった。


「え……?」


 クラッカーを手に持った三葉くんと目が合った。


「え……?」


 何故かクラッカーを鳴らした本人が状況を理解できていないような顔をしていた。


「こんなところで、何してるんですか……?」

「そっちこそ、何をそんなに焦ってるんだ……?」

「わ、私はてっきり、三葉くんに何かあったのかと思って……」

「俺はお前の誕生日を祝おうとして……」

「えっ?」

「は?」


 どういうこと?


「誕生日……?」

「俺に何かあった……?」


 互いに何かを勘違いしていることは明らかだった。


「私の誕生日、1週間後ですよ……?」

「そんなの分かってるよ。でも昨日、お前にもう見られたから……」

「見られたって……?」


 三葉くんが取り出したのは、押し花がラミネートされたしおりだった。使われている花は、昨日三葉くんが持っていた花束のスズランと同じ白だった。


「ひょっとしてこれって────」

「フライングだけど……誕生日おめでとう」


 目の前の真実に、私は頭が真っ白になった。


「ホントはサプライズにしたかったんだよ。だから清音が"神の視点"でネタバレ食らわないように、華さんにも協力してもらってたんだけど……まさか現場を押さえられるとはな……」

「華さんのことが、好きになったんじゃないんですか……?」

「は? 何で? 今更清音以外の誰かを好きになるわけないだろ」


 じゃあ、私が昨日見たのは……あの花束も、私のための……?


「なぁ。誕生日にもう1回告白するって言ったけど……それも、今言うよ」


 音を立てて崩れていく。私が逃げ道にしようとしていたものが壊れて、自分がチェックメイトにハマったことを理解した。


「だからお前の時間、俺に全部くれないか?」


 ダメだ。言ってはいけない。


『お前は死ぬなよ。独りぼっちはもうごめんだ』


 だって、私は約束を守ることができないから。だから答えなかった。


「普くん」


 私はいつか彼を傷付けてしまう。私が死んだとき、一生消えない心の傷を刻むことになる────でももう、我慢できない。


「……もう、どうなっても知りませんからね」

「え?」


 心に身を任せて、私は普くんを抱きしめた。


「大好き!!」


 幸せで、幸せで。


 人生で一番素敵な誕生日でした。






















 ずっと雨が降っている。

あと5話くらいで完結します。


それから説明を挟む場所が無くて本文ではカットするしかなかったんですが、スズランは春に咲く花なので本来10月に咲きません。ではなぜスズランを用意できたかというと、実は雫ママ(月谷母)の異能です。

はい、ここにきてまさかのニュー異能力者です。

ざっくり言えば花を咲かせる異能です。どんな花でも種や種に該当するものさえあれば季節とか気温とかフル無視して1週間で咲きます。

ラフレシアくらいなら余裕でしょう。研究者と協力してめちゃめちゃ頑張れば絶滅した花を現代に蘇らせることもできるかもしれません。しかし、水やりやその他必要な手入れ等を怠ると何も起こらないようです。野菜とか果物の花もいけますが、副産物で収穫できる農作物は美味しくないと思います。


あと雫ママは自分の異能を自覚してないです。生まれつきだったので、どんな花でも種植えて育てとけば1週間で咲くと思ってます。

ほんまに花屋か?

そして英才教育の結果、誠君と華さんも「種植えたら1週間で咲くんでしょ?」って思ってます。

どうやら学校でアサガオ育てるのをサボったみたいです。

あと、誠くんは異能力者じゃないです。

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