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デカルコマニー・ラヴァーズ  作者: 金剛ハヤト
許されざる彼女
14/19

第13話 アウト・オブ・ワールド・Ⅰ

今回から新章突入です。

それから日間ランキング50位ランクインしました!

ありがとうございます!

「明日、ふたりで美術館に行かないか?」


 夏休みに入ってすぐに三葉くんからデートのお誘いを受けた。"神の視点"で誘われること自体は知っていたけれど、三葉くんの方から私を誘ってくれるのは初めてだから少し驚きだ。それと同時に嬉しくもある。いつもは私がお出かけに誘っていたから。


 明日は何を着ていこうか。とはいえ、彼の好みは既に目星が付いている。リボンやフリルが沢山あしらわれた可愛い系の服よりもシックで大人びたクール系だ。私がどんな服を着ていても三葉くんはちゃんと褒めてくれるけど、後者の方が反応が良い。


 三葉くんの好みに合わせるならクール系が正解だ。それでも彼にはもっと色んな私を見て欲しい。夏場だし、ここはいっそ大胆に露出多めのオフショルダー。でも三葉くん以外の男から視線を向けられるのは死んでもイヤ。


 自室でひとりファッションショーを開いてからもう1時間以上が過ぎている。三葉くんは今頃どうしているだろうか? 私は気になって、"神の視点"で覗いてみることにした。


 目を閉じて耳を塞ぐ。そうすれば次の瞬間には頭の中に一冊の本が現れる。これが"神の視点"の使い方だ。


【時間軸:現在】

【対象:三葉普】

【観測形式:映像】


 念じれば、閉じた視界の中に映像が映し出される。三葉くんは夜ご飯の最中だったみたいで、リビングで彼の母親と一緒にご飯を食べていた。しかし、なんて退屈な食事なんだろう。会話は一切なく、ふたりとも表情が殆ど無い。黙々と箸を動かしているだけ。まるで機械の作業を見ている気分だ。


『母さん。明日友達と遊びに行くから昼はいらない』


 おもむろに三葉くんが口を開いた。友達と遊ぶ、つまり私とのデートのことだろう。私たちの関係は誰にも言わないという約束をちゃんと守ってくれているようだ。


『そう』


 三葉くんのお母さんの反応はとても冷たい。冷たいというよりも生気の感じられない声だった。希望を見失った人間が見せる感情が抜け落ちた顔だ。三葉くんもそんな母の姿を気にする素振りはない。


 なぜここまで雰囲気が暗いのか、その理由が太陽さんの急死に端を発するすれ違いにあることは"神の視点"で既に把握している。心苦しさは覚えるが、こうした問題は当事者が解決するべきことであって、私が出る幕はない。ただいつか、ふたりが仲直りできる機会が訪れることを私は願っている。


『相手は女の子?』


 不意に、三葉くんのお母さんが短く尋ねた。どこか確信めいた聞き方に心臓が一瞬跳ねた。


『違う』


 質問に対して三葉くんは動揺せず、即座に否定した。


『そうなの。前々からよく部屋に連れ込んでた子かと思ったけど、違うのね』

『……なんで? つか、なんのこと?』


 三葉くんの顔があからさまに強張った。


『だって、最近アンタの部屋から香水の香りがするもの。私が使ってるスズランのやつとよく似てたわ』

『アー……ソレはアレだ。俺がこっそり母さんのヤツを使ったんだよ。どんな感じなのかなーって、ちょっと気になってさ。勝手に借りてごめん』

『私スズランの香水はもう長いこと買ってないけど』

『……よく考えたら俺が買ったヤツだった気がする』

「三葉くんッ!」


 いくら何でも無理がある。目を逸らして苦し紛れに言い訳している三葉くんが情けなくて可愛い。そう思った。普段は凄くしっかりしているけど、こういう所で結構隙がある。そこが彼の魅力でもある。 

 

 しかしなぜ三葉くんのお母さんは彼を質問責めにしたのだろう? その答えは私が"神の視点"で観測するよりも、彼女が自分から口にする方が早かった。


『もしもアンタが大切な人がいるなら、ちゃんと声に出して伝えてあげて』

『なんだよ、急に』

『私は今でも後悔してる。お父さんにも太陽にも、好きってもっと言ってあげたかった』


 とても真剣な顔だった。生気がなかった彼女の目に、確かな光が宿っているのが私の目にも見えた。


『明日も大切な人が死なないことを保障してくれる神様なんていないのよ。心の準備なんて待ってたら車に轢かれて死ぬかもしれない。相手のことを想っているんだったらさっさと伝えなさい』


 母は強し。そんな言葉を思い出しながら、余計なお節介をしてくれた三葉くんのお母さんに少しばかり恨みを抱きながら、私は目を開けて観測を終了した。


 三葉くんは間違いなく私に恋心を抱いている。まだはっきりと自覚していないだけで。本音を言えば三葉くんには自覚してほしい。当然だ。そして好きだと言って欲しい。でも三葉くんが私への恋心を自覚したら、私が死んだときに余計な傷を負ってしまう。


 私にはもう『物語』を書き換える力は残っていない。『結末』も既に固定されてしまっている。なによりこれ以上は三葉くんに悲しみを背負わせたくない。迫りくるタイムリミットに溜息を洩らしながら、私は服選びを続行した。


 

 美術館の入り口の前には大きな噴水の広場があった。朝の10時過ぎに到着したときには既に多くの人でにぎわっていたが、その中に清音の姿は見当たらなかった。今回は俺の方が先に到着したみたいだ。


「お待たせして申し訳ありません」

「大丈夫。俺もさっき着いたばかりだし」


 俺が到着してから間もなく姿を現した彼女は美術館の落ち着いた雰囲気に合う上品で落ち着いた衣装を着ていた。彼女の美麗な顔立ちと非常に相性がいい組み合わせなのだが、如何せん彼女は背が低いので、逆に背伸びをしている子どもみたいで可愛く見える。彼女自身はそれに全く気付いていないのが更に可愛さを引き立てている。


「清音はやっぱりそういう服が似合ってるな」

「ふふ、その反応を見るにやはり三葉くんはクールビューティーなファッションがタイプなんですね」

「そうだな……まぁある意味、そうかもしれない」


 そういうと清音は不思議そうな顔をして首を傾げた。その反応がおかしくて俺は思わず笑ってしまった。


「ちょ、ちょっと! なんで笑ってるんですか!」

「いやぁ、別に? ただ清音は可愛いなって思っただけだよ」

「もう!」


 熟れたリンゴのように顔を赤くした彼女の顔を見たとき、自分がどれだけ彼女に惚れ込んでいるのかを改めて理解した。


「それじゃあ行こうか」


 手を差し出すと、清音は頬を赤らめさせたまま微笑み、俺の手を取る。彼女のスズランの香りがいつもより強く感じられた気がした。繋いだ手から伝わる感触の中に幸せを感じていたときだった。


「────無理に言葉にしなくていいですからね、普くん。その気持ちだけで十分ですから」

「……清音?」


 彼女のその言葉だけで、昨日の母さんとのやり取りを見られていたことを理解した。


 しかし言い回しが引っ掛かる。いつもの彼女なら「無理に」なんて言葉を使わないと思う。焦らなくても良いとか、そういった気遣いの言葉を彼女は使うはずだ。でも今回の言い方は、少し俺を遠ざけようとしているような印象を覚えた。しかしさっき俺に見せてくれた笑顔に嘘は感じられなかった。


 必ず何か理由がある。俺が想いを言葉にして伝えると、彼女にとって都合の悪いナニカがあるんだろう。


 雲が太陽を覆い隠す。空は青いはずなのに、あたりは一気に暗くなった。

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