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デカルコマニー・ラヴァーズ  作者: 金剛ハヤト
アナザー・ロスト・ラヴァー
11/19

第11話 水永清音に恋をした

たとえば貴方が 太陽に生まれ変わったとして

私が 空に生まれ変わったとしたら

私は貴方を 抱きしめることができるだろうか

「こんばんは三葉くん。()()()()()が傷心の恋人を慰めに来ましたよ」


 その言葉だけで、水永が今日一日の俺の行動を把握していることが理解できた。


「バカにしに来たの間違いだろ」

「慰めに来たって言いましたよ。耳かきしてあげましょうか?」


 水永は微笑みを崩さず言い放った。いつもなら肩の力がスッと抜けるような冗談でも、今回ばかりは却って気に障る。舌打ちしそうになるのを堪えながら、努めて冷静になるよう自分に言い聞かせた。


「何も言わずに帰ってくれ。今は何も聞きたくない」

「お断りします。このまま貴方を帰すわけにはいきません」


 やめろ。今話しかけてくるな。


「一体()()()()()んですか」


 来るな。


「三葉くん」

  

 来ルな。


「────消えろって言ってるンだよ!!」


 刹那、雷鳴が轟いた。白い閃光が夜空を切り裂き、雨足が強くなる。水永の怯えたような顔を見た瞬間、俺は血の気が引いた。


「……あ」


 俺は今、何を言った? 考えると同時、最悪のタイミングで冷静になることに成功した。


 やってしまった。取り返しのつかないことをしてしまった。そう思った。俺は別に、お前にそんな顔をさせたかったわけじゃないのに。


「ごめん、言い過ぎた」

 

 途端に水永の顔を見るのが怖くなって、俺はすぐに頭を下げた。いや、顔を下げただけかもしれない。ただただ水永の顔を見ないようにすることに集中していたと思う。だから顔を上げるのも怖くて、少なくとも数十秒以上は地面の水たまりを見続けていた。


「……顔を上げてください」


 声を掛けられたのは、俺が顔を上げるタイミングを見失ってどうすればいいか迷っていた頃だった。水たまりを踏む足音の後、視界の端に水永の足が入り込んできたかと思うと、頭上から声が聞こえてきた。


 ゆっくりと顔を上げる。目が合ったと思った次の瞬間、雷とはまた違う乾いた破裂音があたりに響いた。刹那に左頬に走った痛みと熱に、思わず手で押さえる。そこからまた少し遅れて、俺は左頬にビンタをされたことに気が付いた。


「なぜ私が貴方を叩いたのか、分かりますか?」

「俺が、お前に心無い言葉をぶつけたから」

「違う。貴方の謝罪が身勝手極まりないものだったからです」

 

 水永は悲しそうだった。叩いたのは水永なのに、俺よりずっと痛そうな顔をしていた。


「申し訳ないから謝ったんじゃなくて、私の顔を見たくなかったから頭を下げただけですよね?」


 図星を突かれて、俺は何も言い返すことが出来なかった。


「私が怯えたのを見てどうすればいいか分からなくなったんですか? それとも私に失望されるのが怖いから、頭を下げて本音を確かめようとしたんですか?」


 震える声は怒りだろうか。それとも悲しみだろうか。潤んだ瞳を見て、水永のことを傷つけてしまったことを理解した。


「私はそんな柔な女じゃないです。そもそもの話この展開になることは"作者()の視点"で知っていましたし、確かに驚きはしましたけど、貴方から怖い顔で消えろと言われたくらいでは傷つきません。だけど私が心の底から貴方のことを心配してるのに、貴方が自分のことしか考えていないのは、いくら私でもちょっと嫌な気持ちになるんです」


 一滴の雨が水永の頬を伝う。


「────ごめん」


 今度こそ、俺は水永に頭を下げて謝った。


「貴方の謝罪を受け入れます。だから何があったのかちゃんと教えてください」


 一呼吸置いてから、少し声を柔らかくした水永から促される。

 

「その……今日色々あって、兄貴がお前と同じ『異能力者』だって初めて知ってさ。兄貴が俺のことを頼ってくれなかったのは俺が『異能力者』じゃなかったからだって思って……だって俺、お前みたいに()()()()()何も持ってないからさ……持ってるお前が妬ましくて、その……八つ当たりした」

 

 今日何があって何を感じたのか、水永にどんな感情を抱いたのか。俺は頭を下げたまま、語弊が無いよう慎重に言葉を選びながら説明した。


「俺が自分勝手だったせいでお前に辛い思いをさせた。本当に、ごめん」


 さらに深く頭を下げると、

 

「反省してますか?」


 と、ポケットから何かを取り出したような衣擦れの音の後に声が返ってくる。


「この通り」


 頭を下げたまま俺が答えると、


「もうしないって、約束してくれますか」


 と水永から聞かれたので、


「約束する」


 と答えた。


「じゃあ、これからは私のことを清音と呼んでください」

「分かった…………ん?」


 今なんて言った?

 

「はい、言質取れました。オッケーです」


 顔を上げると、さっきの涙はどこへ行ったのやら、ボイスレコーダーを持った水永が満面の笑みを浮かべていた。


「騙されましたねぇ三葉くん。女の涙は謀なんですよ?」


 嵌められた────


「お、お前ッ! 汚ねぇぞ!」


 なんて計算高い女なんだろう。そう思った。生まれてこの方こんなことをしてくるヤツに俺は出会ったことが無い。自分のことを棚に上げるつもりは更々ないが、それでも言葉を我慢できなかった。この卑怯者。


「フフ、これでまたひとつ賢くなれましたね?」

「テメェ……!」

「言っておきますけど、身勝手な謝罪をされて傷ついたのは事実ですから。全部分かってても実際にされたらすごく悲しかったし、心が苦しくなりましたから!」

「……ごめん」


 それを言われると俺は何も言えないではないか。俺がバカなら自分が悪いことなど自覚せずに相手に言い返せただろうに。もどかしい。ごちゃごちゃと二束三文にもならない思考をグルグル回していると、水永が慈愛に満ちた表情を浮かべながら口を開いた。


「頭は冷えましたか?」

 

 その声はこの世界に存在するどんな音よりも柔らかで、如何なる川のせせらぎでも比較にならない清らかな声だった。世界一の交響楽団が高級な楽器を用いて演奏する曲よりも、このささやかな声の方がはるかに価値が高いものだと感じられた。神に頭を撫でられた気がして、俺が抱いていた焦りや妬みなどはとうの昔に消え去っていた。


「……おかげ様で」


 まこと、名は体を表すとはよく言ったものである。そう思いながら水永に感謝を伝えた。


「それなら許してあげましょう! 私は心が広いですからね!」


 声を弾ませながら胸を張るその姿が、どうしようもなく愛おしい。俺は胸の奥に温かなものを感じていた。


「ありがとう()()


 心からの感謝と喜びを込めて笑いかけると、清音は目を丸くして動きを止めた後、恥ずかしいものでも見たように顔を赤くして目を逸らした。


 彼女が能力を使っていたのか、止む気配の無かった雷雨が雲ごと消え去って姿を現した満月が空を淡く照らし出す。月が綺麗な夜だから、赤らめた顔が夜でもハッキリとみることができた。


「どう……いたしまして……」

「なんでそんなに照れるんだよ。"神の視点"で見たんじゃなかったのか?」

「み、見るのと実際に言われるのとでは訳が違うんですよ! 一々言わせないでください……!」


 照れて顔が赤くなっているのを誤魔化そうとしたのか、清音は怒ったような言い方をした。しかしそんな思惑に反して声はどんどんと萎んでいく。自分からは躊躇なく好意をぶつけられるくせに、いざ相手オレから好意をぶつけられると嬉しさよりも恥ずかしさが勝つ。いじらしさに思わず笑みが漏れた。


「一緒に帰ろう」


 傘を閉じて手を差し出すと、


「ちょ、ちょっとだけ待ってください」


 少し考えてから、清音は答える。


 突然、止んだはずの雨がまた降り始めた。また清音が何かしたのだろうかと思いつつ身体が濡れないように傘を差し直すと、傘を閉じた清音が俺の腕に抱きついてきた。


「実はさっきの雨で傘が壊れてしまったので……その、家まで送ってってください」

「喜んで」


 穏やかな雨を同じ傘に受けながら、俺たちはゆっくりと歩き出した。

とあるバカがやらかした致命的ミスについて


バカ作者 「指差し確認ヨシッ!投稿完了!一応見直しするか……ん?」

前話本文 「2018年ドヤァwww」⇒2019年にするべき部分を間違えてた

バカ   「やらかしたぁぁぁぁぁ!!!!」

前話本文 「何を見てヨシッて言ったんですか?」(真顔)


はい……昨日(2026年3月1日)投稿した第10話について、私は致命的なミスをやらかしてしまいました……。

前話本文内に【】内の表記を誤って2018年にしてしまいました。正しくは2019年となっております。(当該箇所は昨日の時点で修正済みです)


いやほんと、マジですみません……めちゃくちゃ匂わせた演出しておきながらそこでバカみたいなミスをするっていう……穴があったら入りたい……。


今後同じ過ちを起こさないため、戒めとしてこの文章は削除せずに残しておきます。

改めまして読者の皆様、誠に申し訳ございませんでした。

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