ウニ弁当
十一歳の夏休み、父が静岡から持ち帰った小さな箱の中に海のにおいが詰まっていた。
ふたを開けるとご飯の上にきらきらとウニがのっていた。
父と母は笑って箸をすすめる。
わたしは好き嫌いが激しく、ひとくち、ふたくち、三分の一も食べられなかった。
「いいよ、食べられなかったら残していいよ」
そう言った父のあの、ほんのすこし沈んだ顔をわたしは今も覚えている。
それから父がウニ弁当を買ってくることはなかった。
あの夏の味はわたしの舌には残らず、父のまなざしだけが胸の奥に、ひっそりと沈んでいる。
連載版もあります。
詩小説ショートショート集
わたしとAI君とのコラボレーションです。
このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。
ショートショートタイトル「ウニ弁当」の原詩は同じタイトル「ウニ弁当」です。




