第11話:純白
絶対的で、全てを飲み込む白。
天もなく、地もなく、方向もなく、影もない。ただ無辺無際に広がる、純粋すぎて息が詰まる白色の虚無。光は四方八方から同時に湧き出るように感じられながら、光源はどこにも存在せず、全てを死の静寂と冷たさと無機質な明るさの中に浸していた。
佐藤浩一(この名前を魂に刻まれた烙印のように鮮明に自覚している)は、この純白の地獄の中心に呆然と立っていた。俯いて見たのは、シオン・ブラックソーンの傷跡と汚れにまみれた肉体ではなく、本来の世界の平凡な高校生である佐藤浩一自身の、普通の学ラン(これも異常に清潔で青ざめているが)を着た身体だった。異世界の記憶――王宮の豪奢、闘技場の屈辱、エリーの涙、鏡心湖の幻夢、そして骨身に刻まれた激痛と汚名――は異常にぼやけ、歪み、厚い、結露したすりガラス越しのように、強烈な負の感情を伴う断片と残響だけが残っていた。逆に、召喚前の平凡で抑圧的で中二病的な妄想に満ちた日常世界の記憶は、漂白されたかのように、痛いほど鮮明だった:狭いアパートの部屋、学校の机、コンビニのアルバイト制服、両親のぼんやりとした疲れた顔……全てが吐き気を催すほど明瞭で、この純白の世界に不気味にそぐわなかった。
彼は自分が巨大な、同じく純白の光線で縁取られた十字路の中心に立っていることに気づいた。四本の同じく広く、同じく果てしなく、同じく純白の虚無へと続く道が、「四方」へと延びている。
周囲に「人影」が現れ始めた。音もなく、濃霧から析出するかのように。彼らは歩いていた。慌ただしく、のんびりと、目的もなく。ヴェランディル王国の中世風の粗末な麻の服や華麗なローブを着た者もいれば、佐藤浩一が知る現代世界のTシャツ、ジーンズ、スーツを着た者もいた。しかし彼らの顔は、絶対的に滑らかな空白だった!五官も表情もなく、平らで死の白い光を反射する「面」だけがある。
騒音が始まった。
最初は低い唸り音、無数の蝿が耳元で羽ばたくようだった。やがて音は急速に重なり、増幅し、歪んだ!足音(革靴かスニーカーか判別不能)、車輪の転がる音、不明瞭な会話、耳障りな警笛、果ては王都で辱めの行進をした際の悪意に満ちた罵倒の断片さえも……あらゆる音が最終的に収斂し、異化され、同じ一つの音となった――笑い声だ。
楽しげな笑いでも、心からの笑いでもない。無数の笑い声が歪んで混ざり合った怪物:鋭い嘲笑、下品な哄笑、冷淡な嗤い、病的な痴笑、子供の無邪気なクスクス笑い……それらは億万本の冷たい鋼針のように、佐藤浩一の鼓膜に無孔不入に侵入し、脳髄を貫き、その中で狂ったように攪拌し、穿刺した!この笑い声には源がなく、純白空間の隅々に充満し、耳を劈き、永遠に止むことがない!
恐慌が冷たい毒蛇のように、瞬時に佐藤浩一の心臓を締め上げた。逃げ出したい!この狂気を誘う騒音から!この奇怪な人影から!この全てを飲み込む純白から!
彼は走り出した。
純白の道の一本に沿って、必死に走った!学ランのシャツが汗でぐっしょりになり、肺はボロボロの鞴のように痛みを引き裂かれた。しかし、どんなに速く走ろうとも、どんなに遠くへ行こうとも、眼前の光景は微塵も変わらない!相変わらずあの巨大な、純白の光線で構成された十字路!相変わらず無面の人々が無音で歩いている!耳を刺す奇怪な笑い声は弱まるどころか、彼の走る動作によってより狂暴に、より密集して増幅する!
彼は無面の通行人を次々とすり抜けた。彼らは無自覚のように見えたが、佐藤浩一が接近すると、必ず誰かが「偶然」にも、強く肩で彼を突き飛ばすのだ!その力は彼をよろめかせ、骨が軋むほどだった。突き飛ばした人影もまた顔がなく、その後歩く「人流」に溶け込み、空白の「面」と、どこまでも続く、彼を狙い撃つ嘲笑の奔流だけを残した。
彼は恐怖に震えながら遠方を見上げた。
そこに、純白の虚空中に浮かんでいるのは、栄光尖塔の輪郭だった。それはより凝固し、より眩しい白光で構成され、この純白の地獄の冷たい墓碑のようだった。奇怪なことに、佐藤浩一がどれだけ走っても、方向を変えても、尖塔は視界の同じ「遠方」に永遠に聳え立ち、距離は微塵も変わらず、角度は少しもずれない。それは永遠の、冷淡な座標のように、彼の徒労と囚われの運命を嘲笑していた。歩いている時も、その位置は視線の移動によって決して変化せず、虚空に釘付けにされた恥辱柱のように、そこに固定されていた。
走れ!走り続けろ!繰り返される十字路を次々と抜けろ!(避けるか、あるいは押しのけろ!)無面の通行人を一人また一人!耳元の笑い声は津波のように、ますます高く打ち寄せ、今にも崩れ落ちそうな精神の堤防を衝撃する!汗が目に入り、焼けつくように痛む。肺は火を噴き、息のたびに血の味がする。両脚は鉛を詰め込まれたように重く、持ち上がらない。
疲労。肉体的なそれだけでなく、精神が繰り返し蹂躙され、騒音が持続的に爆撃した後の完全な枯渇だ。異世界のぼんやりとした記憶から来る巨大な屈辱と絶望は、この純白の地獄での果てしない苦しみと絡み合い、魂を押し潰すに十分な重荷を形成していた。
「ぐあっ——!」
ついに彼は支えきれず、足がもつれて、どさりと前方に倒れ込んだ!硬い地面にぶつかるのではなく、その純粋で、質感のない白色の「虚無」に叩きつけられた。音はなく、身体が無形の障壁に衝突した鈍い衝撃だけが感じられた。
彼が倒れた瞬間!
億万の鬼女の金切り声のような騒音の笑い声が、前例のない頂点にまで急上昇した!まるで純白空間全体が狂ったように哄笑しているようだった!彼の鼓膜、脳髄、魂を徹底的に震え砕き、引き裂こうとしている!
歩くことしかしていなかった無面の人々の動作が瞬間的に停止した!全ての空白の面が、一斉に倒れた佐藤浩一へと向けられた!目はないが、億万の冷たく、嘲弄に満ち、悪意に満ちた視線が彼に集中しているように感じられた!
彼らは無音で詰め寄った。
中世のぼろをまとった者、現代の派手なスーツを着た者、華麗な宮廷礼服を着た者……無数の無面の影が、純白と空白で構成された風通しの悪い包囲網を形成し、彼を中心に完全に閉じ込めた。彼らは身をかがめ、滑らかな「面」が恐怖と窒息で歪んだ佐藤浩一の顔に触れんばかりに近づいた。
笑い声は止んだ。
絶対的で、息詰まる死の静寂が訪れた。
だがこの静寂は先の騒音よりも恐ろしかった!それは無形の巨手のように、佐藤浩一の喉を強く締め上げ、息をさせなかった!彼は「感じた」、あの無面の面の裏側には、いかなる騒音よりも耳障りな、無音の哄笑と呪詛が渦巻いているのを!悪意が実体化した冷水のように、彼の皮膚の一寸、細胞の一つ一つにまで浸透した!
この極致の絶望と静寂の中で、包囲網の上方で、純白の空間が音もなく波打った。
ある存在が降臨した。
それは具体的な形態を持たず、究極に純粋で、究極に眩しい、あらゆる「光」の概念を凝縮したかのような白色の光の塊だった。この光は温かくなく、むしろ絶対的で、冷たく、非人間的な秩序と無関心を放っていた。その存在自体が、この純白空間に核を見つけたかのように、より凝固させ、より死の静寂を強め、より絶望的にした。それはこの純白の地獄そのものの支配者——唯一神、「ソルス・デウス (Solus Deus)」だった。
佐藤浩一は溺れる者が最後の藁をつかむように!もがきながら頭を上げ、至高の冷たい光の塊を見つめ、目の中には最後の卑小な、泣き叫びたいほどの生存欲が爆発した。
「で…出して…お願いだ…ここから出してくれ!」 彼の声は嗄れ、砕け、押し潰された後の哀願と困惑に満ちていた。「こ…ここはどこだ?!行かせてくれ!元の…元の世界に帰らせてくれ!俺…俺は何も悪いことしてない!ただ…ただ召喚されただけだ!頑張った!本当に頑張ったんだ!なぜ…なぜこんな目に遭わなきゃいけないんだ?!」 悔しさ、恐怖、未練、全世界に見捨てられた孤独感が、決壊した洪水のように彼の最後の矜持を押し流し、支離滅裂な泣き言となった。
至高の白色の光塊が微かに「波動」した。壮大で、冷たく、一切の感情の揺らぎのない、無数の声が重なり合ったかのような、直接佐藤浩一の魂の奥底に響く声が応答した:
「努力?」 神の声は宇宙規模の、純粋な嘲弄を帯びていた。「塵芥の足掻きが、『努力』と称されるのか?」
光は彼を「見下ろし」ているようだった。その眼差しは万年の氷よりも冷たい。
「佐藤浩一」 神は正確に彼の名を呼んだ。一音一音が氷の槍のように彼の魂を貫く。「本来の世界で既に凡庸、臆病、空虚な妄想に溺れるだけの哀れ虫。『異常』に巻き込まれたこの世界の夾雑物。異世界でもなお臆病を極致まで発揮し、他人を巻き込み、最終的に恥辱柱に打ち付けられた…塵芥。」
神の審判は冷たく正確で、彼の二つの世界における失敗と醜態を徹底的に剥き出しにし、純白の光の下に晒し、隠れる場所を与えなかった。
「なぜだと?」 神の声には極めて微細な、実験室のマウスを観察するような好奇心と残酷さが滲んでいた。「お前の存在自体が、この『秩序』ある宇宙にとっての擾乱、システム稼働中の取るに足らぬが不快なノイズだからだ。お前の『努力』、お前の『悔しさ』、お前の『未練』…永遠の秩序の前では、一粒の塵の呻きよりもなお無意味だ」
光はより眩しくなり、疑いを許さない終焉の意味を帯びた。
「元の世界に戻るだと?」 神の思念に、痴人の夢を見る者を見るような明瞭な軽蔑が伝わってきた。「お前は既にお前の『世界』から忘却されている。お前の位置、お前の痕跡は完全に抹消された。そこには、お前の居場所はない。そしてここには、」 神の光が周囲の無音で見下ろす無面の群衆と永遠の栄光尖塔を掃く。「なおさらない」
神の声が一瞬止まった。純粋な光の塊が「見下ろす」形態に凝縮したように、極致の軽蔑が実体化して押し寄せた。
「塵芥は、塵芥の場所に在るべきだ」 神の思念が冷たく宣告した。「お前の臆病と無能の中で腐り続けよ。それがお前の唯一の価値であり、永遠の帰結だ」
最後の言葉が落ちると、至高の白色の光の中から、純粋な光で構成された、形容しがたい「足」が伸びてきたかのようだった。それは塵芥を踏み潰すような随意さと抗いがたい神性の威圧を伴い、佐藤浩一の胸元へと、軽く蹴りつけた。
天地を揺るがす轟音はない。
ただ空間が完全に引き裂かれ、魂が無理やり剥離される、無音の湮滅感だけがあった。
「ぐぅっ——!」
佐藤浩一は完全な悲鳴さえ上げる間もなく、身体は台風に巻き上げられた枯れ葉のように、十字路の中心、本来は純白の「地面」であった下方に、突然現れた深淵の底も知れない、絶対的な死の静寂と虚無の気配を放つ漆黒の闇へと、急速に落下していった!
彼が闇へと落ちていく刹那、神によって抑圧されていた億万の無面人の狂気的な騒音の笑い声が、枷を解かれた億万の怨霊のように、以前の十倍、百倍の狂暴さで轟然と炸裂した!落下する空間の一寸一寸に充満し、彼の意識が沈む前に最後に受け取った、この純白の地獄からの永遠の「葬送曲」となった!
彼の姿は、絶望の残響と共に、瞬く間に無辺の闇に完全に飲み込まれた。
純白の空間は絶対的な静寂を取り戻した。無面の人々は一時停止ボタンを押され、リセットされたかのように、再び彼らの無音の、無意味な歩行を続けた。栄光尖塔は相変わらず虚空の遠方に永遠に浮かび、冷たい白光を放っていた。唯一神ソルス・デウスの光は音もなく「波打ち」、最初から存在しなかったかのようだった。
佐藤浩一が消えた後、深淵の底知れぬ闇の入り口だけが、音もなく閉じた。まるで最初から存在しなかったように。この純白の地獄は再び、絶望的で、永遠で、全てを飲み込む「秩序」の中へと回帰した。