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三題噺もどき4

別の道

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくろくじゅうきゅう。

 



 空に浮かぶ月は、少しずつ本来の姿を取り戻していた。

 もう数日たてば、見事な満月が顔をのぞかせるだろう。

 その日に、良き晴れの日であれば、ではあるが。

「……」

 等間隔で立ち並ぶ街灯をすこし眩しく思いながら、歩いていく。

 今日の散歩道は、普段とは全く違う道だ。

 最近同じルートばかり歩いていたから、気分転換に道を変えてみた。

「……」

 が。

 まぁ、なんというか。

 あまり良くない道に来てしまったようだ。

「……」

 街灯が確かにあるのだが、それにしては暗いと思ってしまう。

 光はある。眩しいと思う程に、しっかりとした光がある。

 しかし、それが照らす以外の場所があまりにも暗くて、重苦しい。

 今日は雨が降ったわけでもないだろうから、ジメジメとした湿気に襲われることなんてないはずなのに、喉に絡まる何かがある。

「……」

 やけに人の気配が少ないとは思ったが……だからこの道に来たのもあるのだけど。

 あまりにも愚鈍で阿呆ではない限り、この道は人間でも使わないだろうよ。

 これだけ街灯が立っていて、明るい道に見えようとも、その実は、恐ろしい何かが口を広げていると、本能的にわかるはずだ。

 人間の勘というは、案外よく当たるものだ。

「……」

 私はもとより、こちら側の生き物だから、何ともないが……。こんな所人間が歩いていたら、たちまちあてられそうなものである。

 一応、住宅街ではあるので、家々が並んではいるのだが……この辺りに住んでいる人間は果たして健康上や精神上に支障をきたしたりしていないんだろうか。人間でもないのに心配になってしまう。

「……」

 足音を鳴らさぬよう、静かに歩いていれば、時折横切る影がある。

 決して街灯の下にはいかない、影がある。

「……」

 あぁ、人の気配がないとは言ったが。

 それは、生きている人の気配がない、という意のものであって。

 ここにはさも当然のように、当たり前のように、そこにいなくてはいけないとでも言うように、普通の人間のように。

 ―死霊がいる。

「……」

 そのどれもが、どうにも未練を残しているものばかりのようで。

 何かの嫉妬に呑まれたのか、ぶつぶつと恨み言を言っている物もいれば。

 盲目的に何かを信仰しているように祈りをささげているような物もいる。

 すれ違い彷徨うものは、口々に憎い憎いと言っている。

 苦しいと嘆く物もいれば、痛いとさえずる物もいる。

 震えるだけの子供もいれば、何かを叫ぶ大人もいる。

「……」

 なんともまぁ……よくもここにこんなに集まったものだ。

 流れ着いてここに来たのか、ここで何かがあって留まっているのかは定かでは……ないと思ったが。

「……、」

 明らかにあの家だなぁ。

 並ぶ家の中に、明らかに巨大で見合わない豪奢な家があった。

 そこの門のあたりには、集合体のようになってしまった物が押し寄せているのが見えた。

 何で守られているのかは分かる気にもならないが……果たしていつまで保つのやら。

 もうそろそろ限界のようにも見えるが、まぁ、生憎私の知ったことではない。

「……」

 ここに漂う空気を吸うだけでも、腹が満たされたような気分になれそうだが。

 今頃、アイツがチーズケーキを焼いているはずだから、あまり下手に満たしてもよくない。

 さっさと帰って、美味いものを食べるとしよう。

「……」

 また何か機会があれば、ここにこよう。

 その時には、あの家がどうなっているか見物だな。




「ただいま」

「おかえりなさ……どこに行ってきたんですか」

「あぁ、いい場所を見つけたぞ」

「……絶対だめです」

「なんでだ……」









 お題:盲目・嫉妬・チーズケーキ

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