第2話
出来吉くんの説明によれば、話の始まりは、先月の日曜日。
池で釣りをしていた彼は、眼鏡を落としてしまった。
足元から結構深くなっている場所で、だからこそ魚もよく釣れる好スポットだ。あっというまに眼鏡は沈んで、完全に見えなくなった。
僕と同じで、出来吉くんも軽い近眼。眼鏡なしでは日常生活を送れない……というほどではないにしても、不便なのは間違いない。
困ったなあ、と思っていると、池の水面がピカーッと光って、水中から女の人が現れた。
長い金髪に、真っ白なワンピース。まあ水中から現れる時点で普通の人間のはずもなく、いかにも天使とか女神といった雰囲気で、さらにそれっぽい言葉まで口にする。
「あなたが落としたのは金縁眼鏡ですか? それとも銀縁眼鏡ですか?」
彼女は両手にひとつずつ、眼鏡を持っていた。出来吉くんの眼鏡と同じタイプだが、縁の色だけが違う。右手の眼鏡は金縁、左は銀縁だった。
それが欲しいとか欲しくないとかでなく、出来吉くんは、とにかく真実だけを告げる。
「いいえ。僕が落としたのは、普通の黒縁眼鏡です」
「あなたは正直者ですね。そんなあなたには……」
彼女はにっこり微笑むと、金縁眼鏡と銀縁眼鏡をサッとしまって、代わりに黒縁眼鏡を取り出した。
自分の眼鏡を返してもらえる、と出来吉くんは安心したけれど……。
「……この特別な眼鏡を差し上げましょう。見た目は同じでも機能は抜群。あなたにピッタリですよ!」