-03-
そんな訳で国からの依頼を受ける事になった数日後、王宮に呼ばれた。
勿論だが、ギルド長と一緒にである。
「王宮に入る事初めてだ。」
「入った事あったら驚くわ。」
王宮へ向かう道中の馬車の中でギルド長と他愛無い話をしている。
「言い忘れていたが、勇者と聖女様に魔人の説明はされていない。理由は色々あるらしいが、秘匿すべしとの事だ。」
「いつも通りだね。」
「いつも通り、だ。」
まあ、異世界に来たばかりで覚えるべき情報量が多い勇者に態々複雑な魔人種の情報まで詰め込むのは、あまりにも酷だろう。
何より教会でも一般的な魔人の認識だろう。つまり、バレたら勇者と聖女は敵対してくる事だろう。特に聖女は、魔人を魔族だと認識しているから。
国への信用と信頼が地に落ちる事になる。
「必要になったら、国か教会から説明されるだろう。お前から説明する必要性はない。」
必要になる時って、あるのだろうか?
聖女は教会から離れる事はないだろうが、聖女や聖人が教会の上になった事ってあまりない筈だ。
「了解した。」
自分から魔人であると告げた事のない僕からすれば、ただいつも通りなだけだ。感情の機微に理解が出来ない事は多いが、魔人種だけの特徴ではない。往々にして短命種と長命種は理解し合えないのだ。
まあ、完全に理解し合える存在などいないのだから、種族の違いだけが原因ではないけれど。
「いつも通り、長命種の血を引いているらしいと言っておくよ。」
「そうだな、記憶がないから何の種族か分からない事にギルド内でもなっているしな。」
ギルド内で使っているいつもの言い訳だ。齟齬が出ない様に同じ様に告げておけば良いだろう。記憶がないのも長命種なのも本当のことだしな。
「さて、着いたな。」
王宮の正門到着した。この馬車は朝ギルドまでギルド長と僕を王宮から迎えに来た、騎士団の馬車だ。
他国の王族や貴族には王族直属の近衛騎士団の馬車にで、王宮に招かれるらしい。僕は今まで見た事がない。興味がない事だから、近衛騎士団の馬車が通る日でも依頼等を入れていたんだろう。
王族や貴族ではない、要人は王国騎士団の馬車で王宮に招かれる。こちらは何度も見かけているし、ギルド長が招かれているのも見ている。
案内の騎士の後をギルド長と共に進む。分かってはいたが広い。王宮が広い理由は色々あるんだろうが、この広さを毎日移動するの面倒にならないのだろうか、とくだらない事を考えながら王宮内へと進む。
「こちらの部屋で暫し待たれよ。」
案内された一室は、殆ど目にしない高級品が品よく僕達を迎え入れた。
椅子に腰掛けるとすかさず使用人が、お茶を用意してくれる。
「今日は口調に気を付けてくれよ…。」
この前散々口調について言われていたが、またもや釘を刺されてしまった。でも、今日は勇者や聖女との顔合わせだろうから、気にしすぎなくても良いと思うのだが。
ノック音の後入ってきたのは、シャルバラン王子と緊張した面持ちの青年と微笑みを浮かべる少女だ。後一応、護衛の者も。
まさか王子まで現れるとは…。
「ではみなかけてくれ。」
王子は和かに声をかける。其々席に着くとやはり王子から話し始める。
「彼が勇者アオ タチバナ、彼女が聖女フィオネーラだ。」
紹介された勇者と聖女はこちらに向けて会釈をする。行動は同じ会釈だが、表情が全く違う。勇者アオは緊張が抜けないままだし、聖女フィオネーラは和かなままだ。流石に聖女は慣れているのだろう。
「そしてこの王都の冒険者ギルドのマスター、ジル・セバオーンと、君達と共に旅をするB級冒険者のシュウだ。」
次は僕達の紹介だ。ギルド長は握手で挨拶している。僕もついでだからしておいた。
「よ、よろしくお願いします。」
勇者アオは少し気弱そうに見える。どこにでも居る普通の青年がいきなり世界を救う為に、魔王を倒せとか言われた割には落ち着いているから、案外図太いのかも知れないけれど。
「よろしく。」
「よろしくお願いいたしますわ。」
聖女フィオネーラは教会で聖女の勤めを果たしてきていたからか、魔王討伐の旅に出るというのに随分と安定した精神状態を保っている様だ。
「これから君達には交流を深めてもらおうと思ってね。勇者召喚の成功を発表する前に互いを少しでも信用できる様になっておいてもらいたい。」
王子から旅立つ前の下準備の依頼なのだろう。交流をを深める、信用できる様に、か。
「勇者アオと聖女フィオネーラには冒険者登録をしてもらおうと思っている。」
冒険者ギルドには身分証明をギルドから保証されているというメリットを求めて、冒険者登録をする者が一定数いる。当然ながら犯罪者は登録出来ない。