「あかりちゃんの星空」
❅「冬の童話祭2023」参加作品です。
冬のある日。
一軒のお家の前で、一人の女の子がずっと夕方から立って空を見上げていました。
ぎゅっと、柴犬のぬいぐるみを抱いて。
女の子の名前はあかりちゃんと言いました。
五歳の元気な女の子です。
けれど、今のあかりちゃんは何かを我慢する様に眉をぎゅうっと寄せて唇を真一文字に引いていました。
今にも泣きそうな顔になりそうです。
でもあかりちゃんはグッと我慢をしていました。
「ぺろち……」
そう呟くと、さらに柴犬のぬいぐるみをぎゅううっと抱きしめます。
お外は寒いので、もうあかりちゃんのほっぺはすっかり冷たくなっています。
寒いのに、手袋もマフラーも付けずあかりちゃんは立ってお空を見上げています。
冬の夕陽はすっかりと沈んでもう辺りは真っ暗になります。
あかりちゃんは暗いのが苦手です。
でも。
「ぺろちが帰ってくるまで、待ってるもん!」
そして柴犬のぬいぐるみの頭をそっと撫でました。
ぺろちとは、あかりちゃんのお家が飼っているもう年寄りの柴犬でした。
そのぺろちは急に食事を摂らなくなってしまって入院することになったのです。
動物病院の先生はあかりちゃんに「三日、様子を見ようか」と言いました。
ぺろちが入院する間、あかりちゃんが寂しくないようにお父さんがぺろちの代わりになる、柴犬のぬいぐるみを買ってくれました。
あかりちゃんは「ミニぺろち」と名付けて大事に抱きしめて、三日間毎日お布団で一緒に寝ました。
「ミニぺろち。ぺろちは元気になって帰ってくる。そうだよね」
ぬいぐるみは何も言いません。
けれどあかりちゃんは頷きました。
ミニぺろちの心の声が聞こえていたからです。
『大丈夫だわん』
あかりちゃんにはちゃあんと分かっていました。
ミニぺろちは例えぬいぐるみでも、あたたかな存在であると。
『あかりちゃん寒くない?』
ミニぺろちは心で語りかけました。
「大丈夫」
ふるふると震えていますが、あかりちゃんは平気だと答えました。
もうお空にはお星さまが見えてきました。
すると、すうっと流れ星が流れました。
ハッとあかりちゃんはしました。
そして慌てて「ぺろち元気、ぺろち元気、ぺろち元気!」と大きな声で言いました。
ミニぺろちも心の中で言います。
『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』
流れ星が大きく光って消えた時でした。
お父さんの車が、駐車場に来たのです。
お母さんが車の後ろから犬のキャリーケースを出しています。
「お母さん! ぺろちは!」
あかりちゃんがキャリーケースに駆け寄ります。
「大丈夫よ。ぺろち元気になったわよ」
お母さんが安心させるようにあかりちゃんに言いました。
お家に入ると、あかりちゃんはぶるると震えました。
キャリーケースからぺろちをお父さんが出しました。
ぺろちは、あかりちゃんと同じくぶるると体を震わすと、
「わん!」
と元気に吠えました。
「ぺろち!」
ミニぺろちを放り出すと、あかりちゃんはぺろちを抱きしめました。
ミニぺろちはとっても寂しかったですが、
『良かったね、あかりちゃん』と言いました。
その晩。
あかりちゃんのお布団にはぺろちとミニぺろちの一人と二匹が仲良く寝ていました。
〖おわり〗
お読みくださり、本当にありがとうございます。