第5話
さて、ここで種明かしをさせてもらうと。
言うまでもなく、大叔父の源為朝がこんな知識を持っていた訳が無い。
だが、いきなり十代前半の自分ががそんなことを言い出したら、周囲の人からすれば発狂した、と考えられて聞く耳を持たれずに終わりになるのがオチになってしまう。
だから、大叔父の源為朝が遺していた書類の中に秘められていた知識なのだということで、自分の前世知識を徐々に広めることにしたのだ。
とはいえ、自分の前世知識と言えど、この時代の遠洋航海にはそのまま使える訳が無い。
何しろ1000年近く時代が違うのだ。
星々の位置が微妙に違っており、更に言えば、流石に自分の前世知識にしても、そこまでの細かい違いは思い出せる訳がない。
だから、自分は天文観測に力を入れて、細かい記録を残すのを第一のことにするしかなかった。
そして、そのことから自分は星を見るのが好きだ、という誤解が周囲に生じることになった。
又、余りにも熱心に星を見ていたせいか、昼間にも一部の星が見える視力を自分は得られた。
更には三浦義澄に影響を受けた面々も、天文観測を行い、それによって天測航法の技量を徐々に高めていくことにもなった。
そんなことをしている内に、いよいよ富士の巻狩りの時が来た。
ある意味、自分が二代将軍になるためのお披露目になるイベントといえるが。
自分の前世知識からトンデモナイ事態、曾我兄弟の仇討ちが起こるのが、自分には分かっている。
更には、その余波で叔父の源範頼は父によって殺される事態が起きてしまう。
だから、叔父の源範頼を生かそうと、父に対して、
「叔父の範頼殿も参加されるのでしょう」
とそれとなく自分は水を向けたのだが、
「何を言う。範頼が参加しては、お前が目立たなくなる。範頼には留守居を命ずる」
と父はけんもほろろな態度だった。
これは不味い、叔父の源範頼を生かして、少しでも母の政子や叔父の義時を牽制したい、と考えているのに、と自分は考えたが、父の言う理由は、それなりに筋が通っている。
そのために自分は次善の策を講じることにした。
「私が獲物を得たら、叔父上は喜びの余りに祝福せねば、と駆けつけて下さい」
「そんな予め決まっていることですぞ」
「だからこそです。後で父は色々と言うでしょうが、叔父が祝いに駆けつけるのを咎める等はできません。私は源平合戦の総大将を務めた叔父に、一番に祝ってほしいのです」
「そこまで言われては赴きましょう」
源範頼は、私の言葉に同意した。
その結果として。
「えらいことが起きたものですが、叔父上の指示のお陰で助かりました」
「こんなの戦の内に入りませんぞ」
曾我兄弟の仇討ちに伴う騒乱が起きた際に、源範頼は数々の合戦の経験から、すぐに迎撃態勢を御家人たちに調えさせることに成功した。
御家人にしても、源平合戦で現場の総大将を務めた源範頼殿の指示とあっては、すぐに得心して指示に従うことになる。
そのために曾我兄弟は、史実と異なって二人揃って身柄を確保されてしまった。
「何故にこのようなことをした」
「佐殿(源頼朝のこと)を祖父の仇と考えたからです」
「何を言う。痴れ者が。そなたらの祖父は自害したのだ。仇等、笑止千万」
父の源頼朝と曾我兄弟はそんなやり取りをした後で。
曾我兄弟は死罪になった。
その一方で、流石に父の源頼朝も、叔父の源範頼に感謝せざるを得なかった。
「よくぞ。我が身辺を護ってくれた。礼を言うぞ」
「兄上の身を護るのは当然のことです」
「うむ。儂に言うべからざる(死ぬ)ことがあったときには子どもらを頼む」
「はい、しっかりと護ります」
父と叔父のやり取りを聞いた私はホッとした。
これで叔父は私を守ってくれることになった。
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