第38話
実際に朝廷の使者に対する正式な幕府の返答を決める宿老衆の会議は、大荒れに荒れることになった。
「そんな地頭の改任要求等、断固として拒絶するべきだ。どうしても、と求めるのならば、儂が1万騎の奉公衆を率いて上京し、それで朝廷を恫喝してくれる」
和田義盛がまずはそう獅子吼した。
「和田殿の御言葉、全くもってその通り。とはいえ侍所長官の和田殿自ら赴くまでも無い。私が武蔵の武士団を率いて上京すれば足りるでしょう」
比企能員が自害した後、代わりに宿老衆の一人に選ばれた畠山重忠までがそう言った。
いつもなら、私は政治向きのことはよく分からないので、将軍のお考えをまずは承りたい、と言って、私を基本的に立てる畠山重忠までが、私の意見を聞くことなく、こういう有様だった。
他の宿老衆、源範頼らの意見も大同小異だ。
幕府としては、地頭の改任要求は非法の証拠がない以上、断固として拒絶することになった。
だが、承久の変を知っている私としては、それを知らない御家人達が景気の良い事だけを言っているのではないか、と一言、釘を刺す必要を覚えた。
下手をすると火に油を注ぐ事態になりかねないが、それなりの覚悟を宿老衆にも決めておいてもらわないと、私が梯子を外される事態になりかねない。
(何しろ史実と異なる流れで、朝廷と幕府は対立しつつあるのだ)
「そこまでの意見が出ていることを、私は嬉しく考えるが」
私は敢えてそこで言葉を切って、宿老衆を見渡しつつ、更なる言葉を継いだ。
「場合によっては、朝廷の命令に従わないとして、勅旨によって我々が討伐される可能性がある。そこまでの覚悟をもって、地頭の改任要求は拒絶するとの返答を行うということで良いのか」
私は念押しだけのつもりだけで言ったのだが、この宿老衆の中で一番温厚な筈の大江広元が最初に口を開いた。
「何を言われる。その際には鎌倉大番役全てを鎌倉殿が引き連れ、更には奉公衆等に動員を掛け、朝廷を御諫めするまでのこと。君側の奸を討つだけであり、帝に弓引くことではない」
その横では三善康信が、大江広元の言葉に対して深く肯き、言葉が終わり次第に口を開いた。
「全くもって、大江殿の御言葉通り、いざとなれば君側の奸を討つだけのこと」
おい、お前ら文官が率先して戦を煽ってどうする、と私は内心でツッコんだが、その言葉を聞いた御家人達が黙っている筈が無い。
「大江殿や三善殿がそう言われるとは、その際には某が先陣を務めるぞ」
「老齢の和田殿が先陣をされることは無い、某が先陣を務める」
「畠山に任せる程、儂は老いてはおらん」
「お前らに任せておいては、先陣争いで負けそうだ。儂が傍で先陣の総指揮を執ろう」
「蒲殿が総指揮を執られるならば安心じゃ」
源平合戦の経験のある御家人の面々が口を揃えて言う惨状を呈しだした。
これは紛争どころか、大戦が必至になりつつある気が私はしてきた。
私は頭痛がする想いがしながら、宿老衆に対して地頭改任は断固拒絶すると宣言して帰宅した。
すると、そこには鬼女ではなかった母の政子が待ち構えていた。
「地頭の改任要求はどうなりました」
「断固、拒絶すると宿老衆と話し合って決めました」
「当然のことですね。それから鞠子の産んだ皇子の親王宣下のことは」
「言うまでもなく、改めて親王宣下を求めます」
私は母にそう丁寧に答えた。
母は横を向きながら言った。
「全く戦を知らぬ者達が。そんなに朝廷は戦をしたいのですか」
私はそんなことはありませぬ、と母を諫めたかったが、母の言葉に激怒の炎が秘められているのを察して沈黙を保った。
下手に私が口を開けば、母の炎は私を焼きそうだ。
私は大戦の準備を粛々としようと決めるしかなかった。
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