第31話
前話から10年余りの歳月が流れ、1215年が舞台になっています。
「本当なのか」
「はい。天測による経緯度からしても、ほぼ同じ地点にたどり着いたことは間違いありません。再度、南米大陸に到達して、航路をほぼ確認できたようです」
「それは良かった」
私は南米大陸への航路を確認できたと報告する使者に直答していた。
あの「平賀氏の変」から10年余りが過ぎて、自分の子どもらはすくすくと成長していた。
更には御家人達は、積極的に日本国外へと乗り出すようになっていた。
交易で一山当てようとする者もいるし、荘園開拓で儲けようとする者もいる。
勿論、失敗する者もそれなりにいるが、それこそどこぞの武闘派ヤクザも真っ青な面々が揃っているのが今の御家人達だ。
例えば、交易にしても、自分の思うような利益が上げられない、となると、即座に武力をちらつかせるのが当たり前の面々であって、それで利益を上げていた。
(勿論、時代が時代なので、それなりに相手も武力を持っているので、そうでもしないと利益が上がらないというのも、又、現実だった)
中には交易なんてまどろっこしい、と言って、海賊活動に勤しむ面々まで出る程だ。
荘園開拓にしても、台湾、呂宋では収まらず、比諸島から蘭印諸島にまで目星をつけて開拓を試みようとする御家人たちまで現れるようになっていた。
(尚、主人公には詳しく分からなかったが、この背景にはモンゴルの勃興があった。
モンゴルは対西夏、金戦争を始めており、その戦乱から逃れようとする難民の群れを生んだのだ。
そして、その難民を、新たな荘園の開拓用の小作人として受け入れることによって、御家人達の荘園開拓が過熱したというのが裏ではあったのだ)
こうした現実から、遠目でも同じ日本の御家人仲間だと分かるような旗印的なモノが、御家人間では求められるようになった。
当然のことながら、どんなモノが良いか、という相談が私の下に来ることになる。
そして、悩んだ末に私が選んだのが。
「これは良い旗印ですな」
「旭日旗(印)ですか。うん、これは景気が付いて、良い旗印だ」
等々の好評の声が、多くの御家人から上がることになった。
私の最初の提案では、いわゆる日の丸を旗印にするつもりだった。
だが、和田義盛が中心になって、反対の声が上がった。
色々と反対の声が上がったが、その中で最大の声になったのが、
「余りにも簡素過ぎます。もう少し景気の良い旗を」
という声だった。
それならば、ということで私が考えたのが、旭日旗だった。
日本が隋に送った国書や天照大御神に由来し、太陽を象徴にするのが、我が国にもっとも相応しい旗だ、既に日足紋を家紋として用いている家もあるし、ということで、私は旭日旗にしたのだが、八本や十二本の日足紋が存在したことから、十六本の旭日旗が結果的に採用となった。
これって、どう見ても軍旗だな、と私は内心で考えたが、考えてみれば武家政権と言える幕府の御家人が用いる旗印であることから考えれば。
十六本の旭日旗こそ、日本の御家人の旗印として相応しいといえる、と最終的に私は納得した。
そして、私が提案した十六本の旭日旗は、それなり以上に御家人間では好評を博したが。
日本の御家人が赴いた海外では、あの旭日旗の赤は殺した人の血で染められたものだ、という悪い噂が住民の間で流れているらしいことには、私は閉口せざるを得なかった。
(彼らのやらかしを見れば、止むを得ない気がしなくもない)
又、御家人達の熱情は、地球の裏側の南米大陸への航路を10年余りの歳月は掛かったが、何とか開拓することに成功した。
尚、それを最初に果たしたのは梶原景季で、
「宇治川では後れを取りましたが、ここでは一番乗りを果たしました」
と報告してきて、私達を微笑ませた。
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