第24話
「それでは、帆についてはどうか」
「ジャンク帆が、宋等で使われているジャンク船の帆と共通なのは、やはり間違いないようです。クラブクロウセイルという縦帆は、南洋の島々で使われている船(航海用カヌーのこと)の帆と酷似しており、源為朝殿はこの帆のことを何処かで知られたものと私は考えます」
私と梶原景時は、会話を深めた。
「ふむ。六分儀は四分儀を、大叔父が自分の考えで改良したのかもしれぬな。帆についても、一通りの推測が成り立つようになったな」
「某もそう考えます」
本当は私の考えというか、転生前の知識がもたらしたものなのだが、それなりに本当のように見せられる嘘が成り立ちつつあるようだ。
私はそう考えていると、梶原景時は思わぬことを言い出した。
「それにしても、口伝で海を渡る者がいるとは、本当に世間は広い」
梶原景時は、そういったのだ。
「何、口伝で海を渡るだと、どうせ1日か、2日程度だろう」
「いえいえ、話を盛っておる可能性がありますが、10日以上も海を渡るそうですよ。その間は文字通り、海しか見えないとか」
「それは凄いな」
「六分儀のような器具等は使わず、文字通りに自分の目と耳の感覚を生かし、更に長年の経験によって口伝されてきた知識を組み合わせることで、海を渡るそうです。そして、その航海の東の果てには、巨大な陸地があるとまでも言いました」
「何だと」
梶原景時の言葉に私は驚いた。
梶原景時の言葉は、明らかにポリネシア航法を指すものに間違いない。
私の前世の父が習得して、ヨットでの世界周航を果たす際に使用した航海術だ。
そして、ポリネシア航法だが、実は南米大陸にまでも到達していたという説がある。
何しろインカ帝国もポリネシア文化圏も、事実上は無文字文化なので口伝等に頼るしかないので、明確な間違いない文字による証拠が残されていないのだ。
(イースター島のロンゴロンゴがあるが、本当に文字なのかと疑問視する学者までいる)
だが、双方の口伝によれば。
インカ帝国はポリネシアらしき島々に遠征したことがあり、又、ポリネシアのトゥアモトゥ諸島にも東から英雄が来訪したという口伝が遺されているのだ。
又、ポリネシアの住民の中には、明らかに南米大陸の原住民のDNAの痕跡が遺されており、それは12世紀以前に溯るらしい。
それに南米大陸原産のサツマイモは、欧州人がたどり着く以前に、ポリネシア諸島を経由して、何とニュージーランドにまでたどり着いて栽培されている。
これまた南米大陸からポリネシア諸島にサツマイモが伝わったのは12世紀以前のことではないか、と様々な間接的な証拠から推測されている。
そうしたことからすれば、既にポリネシア航法は、東南アジアから南太平洋の島々を経由して、南米大陸との航海すら可能になっているのではないだろうか。
そして、その知識を自分達が活用すれば、日本から南北米大陸に赴くことさえ可能になる。
更に南米大陸に眠る宝の山の数々を想えば。
それこそペルーやメキシコの銀が、日本のモノになるかもしれない。
世界の富を一変させ、欧州の発展の基礎になった大銀山が日本のモノになる。
又、ジャガイモやサツマイモの入手に成功すれば、日本から飢きんを激減させることができる。
他にもキニーネや天然ゴム等、南米大陸には宝の山が唸るようにある。
又、北米大陸にまで手を伸ばせば、文字通りに日本は千年は繁栄を誇る大帝国になれるやも。
私は思わず妄想した。
そして、
「景時、本当に東に巨大な陸地があるのか、調べられる限りで良い、調べて欲しい。もしや、宝が眠っているやもしれぬぞ」
「ははっ、その言葉に従い、全力を尽くします」
私と景時はそんなやり取りをした。
嘘を吐くな、と言われそうですが、ネット検索を掛ける限りでは、12世紀以前にポリネシア人は南米にまで到達していた可能性が極めて高いとのことで、火葬極まりない話ではないのです。
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