第16話
私は浅草寺を色々と見て回った後、私なりの妙案を思いついた。
私は比企能員や北条義時らを傍に呼び寄せた後で、いきなり切り出した。
「(奈良の)東大寺の大仏に匹敵する大仏を、浅草寺に寄進するというのはどうかな。父の供養も併せてするということでしたいのだが、いかぬか」
「えっ」
比企能員を始めとして、全員が絶句する事態が起きた。
全員が絶句したのを内心では面白く感じながら、私は言葉を継いだ。
「東大寺の大仏を再建した陳和卿を呼び寄せて行いたいのだが、どうかな」
比企能員を始めとする面々は、お互いの顔を見あった末に、北条義時が口火を切った。
「そういった大仏は鎌倉に作るべきではないでしょうか」
「確かにもっともだが」
私はそこまで言って言葉を敢えて切った。
私なりの反論を効果的にしないと、この母方叔父に言いくるめられてしまう。
「鎌倉沿岸の海は遠浅の浜辺なのだ。大型船の接岸が難しいという問題がある」
「確かに仰られる通りです」
私の言葉に、三浦義澄が同意の言葉を発した。
三浦義澄は、私の示唆から(未来知識に基づく)帆船を建造し、実際に運航している。
その三浦義澄が、私に同意する言葉を発したことから、その場の空気は私に急に傾いた。
「この浅草寺ならば、外洋を航海する大型船を間近まで接岸させることができる。更には千葉氏や小山氏といった坂東の御家人達も容易に協力することができるだろう。そういった協力を得られることからも、又、急に亡くなった父の追善供養も併せて行うという観点からも、この地に大仏を作るのが妥当だと考えるのだが。いかぬことだろうか」
私は懸命に北条義時以下の面々に説いた。
北条義時の顔が苦渋に満ちるのを、私は(決して顔には出さずに、内心で)面白く感じた。
大仏建立というのは、それこそ幕府財政が傾く程の費えが掛かることだ。
更に大仏建立に掛かる様々な手間暇等まで考えると、この地に作る方が鎌倉で作るよりも遥かに合理的なことは論を待たない。
だが、私の言葉に単に同意しては、比企氏を肥え太らせることになる。
だから、北条義時としては私の言葉に反対したいのだが、その反対の言葉に苦慮している。
「しかし、費えがトンデモナイことになりませぬか。幕府財政を破綻させるべきではないでしょう」
北条義時が何とか反対の言葉を絞り出した。
実際、その言葉は間違ってはいない。
だが。
「義時殿は、自らの義兄にもなる先代の鎌倉殿(源頼朝)の追善供養はしたくない、と言われるのか」
比企能員が早速、北条義時に難癖をつけた。
「義時殿、先代の鎌倉殿(源頼朝)に対して、流石に失礼な言葉と言わざるを得ませんぞ。身銭を積極的に切ってでも、こういうことは行うべきです」
三浦義澄まで自分に加勢する言葉を吐き出した。
実際、私の次の将軍位に誰が付くのかを考えると、比企能員と三浦義澄は私に味方することで、私の好意を得て、自らの意中の人物(私の子ども達)を私の後継者にしたいのだ。
だから、この二人は私に味方して、北条義時を攻撃することになった。
私が見ていると、北条義時の顔が益々苦渋に満ちた表情になっていく。
私は叔父への非難はここまでだ、と判断した。
叔父を逆ギレさせる訳にはいくまいし、そうなっては、叔父を始めとする北条家の面々はこの浅草寺での大仏建立を絶対に拒否するだろう。
「そこは他の御家人達にも協力を呼び掛けるし、交易等の収益を積極的に活用することで、何とかできると私は考えるのだが。私が父の追善供養をしてはならぬのか」
「そんなことは決して申しませぬ。極めて結構なことです」
私が頭を下げながら言うと、北条義時はそう言わざるを得なかった。
事実上、大仏建立が決まった。
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