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第12話

 私の言葉に、梶原景時は少し感情が動いたようだった。

 それを横目でうかがいながら、私は更に独り言という形で言葉を紡いだ。

「大叔父の源為朝の書類の中にあったのだが、薩摩国の更なる南にある琉球の島々の南には、大きな九州とほぼ同じ大きさの島があるとのことだ。更にその土地では稲作が年に2回栽培できる程、温暖で雨もよく降るとのことだ。こういった土地を開拓し、荘園にするのは儲かることではないかな。尚、その島には、特に国主のような大きな統治者はいないようだともいう。それこそ、梶原殿やそれに従う面々ならば、荘園として切り取り放題ではないかな。更にその南にも、同じような大きさの島があり、気候も同様だと書いてあった。これらが真実だとしたら、どれだけの利益が上がるかな」

 梶原景時の目が輝きだした。


「おっと、大叔父の源為朝の書類のどこまでが本当なのか、梶原殿に確認して欲しいと頼みに来たのだった。だが、梶原殿は乗り気ではない様子、別の者に託すとしようか」

「お待ちを、お待ちを。その御役目、喜んで承りまする。ですが、少なくとも、琉球の島々の南の大きな島の探査費用は、言うまでもなく」

「その島の探査費用は幕府が出すし、それだけではなく、そのための航海技術を持つ者を、三浦義澄殿に頼んで出して貰うつもりだが」

「それを先に言って下され。某、合議制の面々から喜んで降りて、その探査に当たりまする」

 梶原景時は完全に乗り気になっていた。


 景時が自ら合議制の面々から降りる気になるとは、やはり実は困っていたのだな、と私は自分の推測が当たっていたことに安堵した。

 景時にしても、自分の最大の庇護者だった私の父、源頼朝が亡くなったことから、自らの地位に不安を覚えていたのだ。

 何しろ自分がほとんどの御家人から嫌われているのを、自分でも知っている。

 だからこそ、逆に合議制の面々に入ることで、景時は自らの権勢を保とうとしたのだが、私が景時を合議制から排除しようとしているという噂が流れてきたのだ。

 

 これは暴発して、兵乱を起こすしかないやも、と自分が困り悩んでいるところに、私が何の警戒もしていない体で自邸を訪れて、国外逃亡する名目を出してくれたのだ。

 どう見ても勝算の乏しい兵乱(何しろほとんどの御家人が敵に回るのが見えている)を起こすよりは、国外逃亡の方が自らの命は助かる可能性が高い。

 しかも、私が様々な援助をしてくれるのだ。

 更に自らの支持者、城氏等もその島々に赴かせることで富ませることができるやもしれぬ。

 景時は、そこまで素早く考えて、合議制の面々から降りて、海外探査に向かうことにしたのだ。


 私は内心で景時の誘導に成功したことに安堵したが、とはいえ自らの内心を決して景時に覚らせる訳には行かない。

 何しろこれはこれで、御家人の間に紛議を呼びかねない案件だからだ。

 下手に景時が言い出しては、色々と問題が起きる、と自分は踏んでいる。


「それでは数日後の吉報を絶対に黙って待つのだ。私が他の面々に話をするからな。お前が言いだしては、話がこじれかねない」

「それはもう重々分かっておりまする」

 私と景時は更なる約束をした。


 そう、この案件は冷静に考えれば、景時が儲かる話になってしまいかねないのだ。

 そうなると、他の多くの御家人が激怒する事態が引き起こされてしまう。

 だから、少なくとも名目上は、この一件は景時を国外追放する罰なのだ、に周囲に見える必要がある。

 景時は頭が回る男なので、その辺りを阿吽の呼吸で読んでくれる、と自分は考えていたのだが。

 この辺りの空気の読みは、流石に父の寵臣の景時と賞賛すべきだろう。


「それではよろしく頼む」

 私はそう言って梶原邸を辞去した。

 感想欄にも書きましたが。

 本文中には具体的な地名が出てきませんが、主人公の念頭にある南の島々は、台湾やフィリピン諸島になります。


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― 新着の感想 ―
[一言] 技術の元を探してゆっくり、ゆっくり進出して行ってたらギリシャやポルトガル方面か、もしくはイースター島へ辿り着いた民族方面に行くことになったりして(笑)
[一言] 南の島でで平家の落人と出会う景時とかちょっと見てみたい 仲間にするのか制圧するのか
[一言] 水=ダムさえ有れば沖縄本島でも年最大3回は米造り出来ますけどね 最大のネックが当時の台湾同様に、宮古/石垣/久米島を苦しめた農業用水の確保とマラリアなんだよなぁ ついでに台風にサメやハブの被…
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