第11話
私は、まずは比企能員と話し合うことにした。
「比企殿、梶原殿を合議制から外し、源範頼殿を入れるというのはどう考える」
私は単刀直入に比企能員の意見を尋ねた。
「悪くはないでしょうな」
比企能員は奥歯に物が挟まったような意見を私に言った。
13人の合議制のメンバーは、大江広元らの文士が4人、比企能員や北条時政らの御家人が9人だ。
更にその御家人のメンバーだが、相模の御家人が三浦義澄らの4人、伊豆の御家人が北条時政と義時父子、武蔵の御家人が比企能員と足立遠元、下野の御家人の八田知家と、それなり以上にバランスが取れたメンバーが選ばれている。
だから、そこに将軍の門葉衆筆頭といえる源範頼を押し込むのは、細かく言えばバランスを崩す。
(厳密に言えば、名目上は門葉衆筆頭になるのは平賀義信なのだが、源範頼は私の叔父になる上にそれこそ数々の武勲から、実質的には門葉衆筆頭と言える立場にある)
だから、舅の比企能員は色良い返事をしないのだが、私は切り札を早々に切った。
「梶原景時が、それこそ御家人の多くから嫌われておるのは、皆が知っておることだ。だから、この際に日本の外に追い出そうとも考えているのだ。合議制の面々に景時を入れておいては、すぐに合議制が割れるような気がしてならぬ。景時を日本の外に追い出せば、その心配がなくなる」
「確かに否定できませんな」
「それに範頼は、安達盛長の娘婿になる。そなたは安達盛長の義兄弟ではないか(安達盛長の妻は比企尼の長女の丹後内侍であり、比企能員は比企尼の養子になる)。そう言った点でも、範頼が合議制の面々に入るのは、そなたにとって悪い話ではないのでは」
「確かに悪い話ではありませんな」
比企能員は何とか前向きになった。
「ですが、梶原殿を外すのには余程の注意をしないと、梶原殿が暴発しますぞ。何しろ」
比企能員はそこで言葉を切ったが、私も比企能員が何を言いたいのかは分かっている。
梶原景時は、相模の武士団を三浦氏と二分するといえる鎌倉党と称する大武士団の頭領だ。
更に越後の城氏を始めとする日本各地に散らばる平家の多くの元家人を、梶原家が平氏の一門であることから自らの庇護下にも、梶原景時はおいている。
だからこそ数多くの御家人から嫌われていても、合議制の面々に梶原景時は選ばれたのだ。
そして、下手に合議制から外すと鎌倉党以下の面々を率いて、梶原景時は武装蜂起しかねない。
更には全国規模の兵乱にまでもなりかねない。
「分かっている。それなりに名誉のある役目を与えることで、梶原景時には外れてもらう」
「一体どうやって」
「それはな」
私は自らの秘策を話し、比企能員は私の秘策に驚嘆して同意した。
その翌日、私は敢えて平服で梶原景時の下を訪れていた。
梶原景時は私の姿を見て、表面上は畏まったが、目がぎらついている。
既に私が合議制の面々から外そうとしているとのうわさが、景時の耳にまで届いているようだ。
「梶原殿には頼みがある」
「何なりと」
「大叔父の源為朝の知識の由来を探してほしいのだ。勿論、費えはそれなりに出す」
「大叔父の源為朝の知識ですか」
「そうだ、天測用の器具や帆の仕組み、三浦義澄らが日宋貿易を行いだして、宋人に聞いてみたが、一部のことは宋人も知らぬとのこと。それなら、何者が大叔父に教えたのか、調べて欲しい」
「そうなると某は異国に赴くことになりますな」
私の言葉に、景時は早速、難色を示しだした。
私は少し横を向いて言った。
「平家の元家人を保護しているのは極めて良いことだが、実際のところ、現地では色々と揉め事が起きておるのではないか。調査の際に交易をするなり、何だったら土地を開拓なりしてはどうかな」
ご感想等をお待ちしています。




