第10話
三幡の死の時と、十三人の合議制導入の時が微妙に前後することになりますが、作者の小説描写の都合上ということで、緩く見て下さるように平にお願いします。
何でこうなった、それこそ1本マストの船ができた時点で後先を考えずに逃げ出すべきだったか、と私が自省している間もなく、次なる試練が私に襲い掛かった。
それこそ入内する予定だった妹の三幡が重病に掛かり、命旦夕に迫るという有様になったのだ。
自分の結婚騒動等にかまけていて、私の脳裏から抜け落ちていたのだが、そもそも私の姉妹は誰一人、入内することに成功していないのだ。
だから、妹の三幡も入内前に死ぬのだ、と私は覚悟しておくべきだったのだが、三幡はずっと健康に育ってきていたこともあり、私は忘れていたのだ。
その結果として、院宣を給わって京から名医を呼ぶようなことまでしたのだが、その名医さえも匙を投げるような事態が引き起こされて、三幡はあの世へと旅立った。
そして、
「どうして、どうして娘が二人共に私より先立つの。三幡はずっと元気だったのに」
と母の北条政子が泣き喚く事態が、父の源頼朝の死から半年も経たない内に起きてしまったのだ。
ともかく、これはこれで頭が痛いですむ話ではなく、私は母を懸命に慰めることになった。
更に言えば、妹のことで私が慌ただしい状況にあったことと、私がまだまだ若いこともあり、幕府の宿老が合議制で私を補佐することにもなった。
史実でもあったいわゆる「十三人の合議制」を敷こう、と宿老は考え、又、母の北条政子も私の若年を理由に、賛同したということのようだ。
史実の源頼家は、父が築き上げて自分が就任した鎌倉殿の権威を宿老達は軽んずるのか、とこの合議制に対して大いに反発したようだが、それこそ日本から逃亡しようと考えている私にしてみれば、勿怪の幸いといってよい事態だ。
だが、その面々を見た私は、一言、注文を付けざるを得なかった。
「何故にこの面々の中に、叔父の源範頼殿が入っていないのだ」
「確かに範頼殿は宿老といってよいかもしれませんが、そうなると14人になりますな」
私の注文を聞いた母方祖父の北条時政は微妙な表情を浮かべて言った。
「14人にしては不味いのか」
「いえ、そういう訳ではありませんが」
祖父は奥歯に物が挟まっているとしか言いようがない口ぶりをする。
私はピンとくるものがあった。
それこそ御家人それぞれに利害の対立がある。
だから、私を補佐する体制を組むことまでには賛同しても、そのメンバーを誰にするか、となると御家人同士の意見が割れるのだ。
そして、源範頼の参加に反対しているのが誰かというと。
私の見るところ、その最大の反対者は目の前にいる祖父、北条時政なのだろう。
実際問題として、何かというと自分は尼御台の政子の父で、私の祖父だ、ということを振りかざす祖父にしてみれば、私の父方叔父の源範頼は目の上のたん瘤にも程があるのだ。
父が存命の頃の活躍度合いにしても、明らかに叔父の方が活躍していた。
そして、叔父が参加しては、合議制を主導するのが叔父になってしまうだろう。
だが、私にしてみれば、源範頼は折角、命を助けた叔父である。
その叔父が合議制に加わらないのは納得がいかないのだ。
だが、単に叔父を加えたら、14人になって可否同数とかになった場合に、大揉めになる気がする。
何しろ面倒な面々が揃っているのだから、下手をすれば、史実通りに血を血で洗う事態が起きて当然になるな。
私は少し考えることにし、北条時政に二、三日後に自分の考えを告げるので、又、来るように言った。
更にその際には、この面々の中にいる大江広元や和田義盛らにも、自分の考えを伝えたい、と言い、時政はそれに同意した。
時政が去った後、自分は考え込んだ。
さて、13人の中から誰を外そう。
第一候補は決まっているが、当人が納得しないと血の雨が降るな。
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