第1話
具体的な日付等はありませんが、第1話は1198年のある日になります
「貴方は本当に星を見るのが好きですね」
「うん。昼間でも幾つかの星が見える程に目を鍛えた為か、星を見るのが本当に好きになった」
「それは羨ましい。私の目では昼には星が見えません」
「普通はそうらしいな。他の多くの者もそう言うな」
「ところで、そろそろ星を見るのを止めて私と睦みあいましょう」
「そうだな。ちょっと書付だけさせてくれ」
私は矢立を使って、星の位置をざっと記した後、妻の一人の賀茂氏の女と睦みあって、共寝した。
明け方が近くなると、自然と目が覚めてしまう。
妻はまだ安眠しているようだ。
私は、そっと寝床から出て、星の位置を確認して、またそれを記した。
星の位置は極めて重要だ。
天測で経緯度を図る際には、星の位置が要になる。
年間で100近くの星の位置を、今では覚えている。
後は実地でそれを活用しないといけないが。
自分の置かれている現状を考えると溜息しか出ないな。
私は自分の立場に改めて頭痛を感じた。
現在は第2代将軍が約束され、更には妹が入内することが決まっており、ひょっとしたら次代の帝の外戚になれる身に自分はある。
更には妻と呼べる女性が二人おり、更には愛人、妾までいるのだ。
他にも自分が手折ろうとすれば、多くの女人がなびくだろう。
多くの男性から殺してやりたい、とまで妬まれて当然の立場だ。
しかし、自分の将来が史実通りに流れるならば、自分はよりにもよって母と叔父に殺される運命だ。
何故なら、自分は源頼家だからだ。
自分が源頼家に転生したことに気づいたのは、満3歳になる頃だった。
両親や姉、自分の周囲にいる人々の話を聞くともなしに聞いている内に、それらが自分の頭の中で組み合わさって、自分が源頼家らしいことに気づいたのだ。
念のための確認として、いつも気が塞いでいる様子の姉のもとに行き、
「姉上、何故にいつも暗い顔をしているの。私と一緒に遊びましょう」
と誘ったが、姉は暗い顔をして、首を横に振るばかりだった。
「ねえ、遊んでよ。そうすれば」
と3歳児らしくしつこく誘うと、姉の周囲の侍女達が私を押し止めて、私を部屋から連れ出した。
部屋から追い出された私がふくれっ面になると、侍女達が私に帰るように言いながら、話を始めた。
「本当にお気の毒に。憂いに沈まれる余り、弟君の遊びの誘いさえ断られるとは。」
「婚約者と言っても、姫君にしてみれば気の合う年上の殿方に過ぎない、と考えていたのに。あそこまで一途に想われていたとは」
「姫君の父上のお考えも分かりますが、それにしても殺されなくとも。姫君が気の毒です。姫君の母上が怒り狂って、父上が命令に行き違いがあったとして、婚約者を殺した男を処刑させたのも当然ですね」
侍女の会話の内容から、私は状況が分かった。
姉は婚約していたが、その婚約者は私達の父に殺されたのだ。
更に父は母の怒りを恐れて、姉の婚約者を殺した男を処刑した。
そんなある意味、情けないことをやったのは、私の知る限り、日本史上で唯一人。
源頼朝だ。
そして、自分はその長男。
つまり、源頼家。
これはまずい、自分は処刑されてしまう。
でも、どうする。
前世の知識持ちとはいえ、この世界の母の北条政子と、母方叔父の北条義時相手の智謀合戦等、自分の頭の程度では、逆立ちしたって勝てない無理ゲーだ。
何しろ、日本史上で唯一、朝廷に対して真っ向勝負を挑んで、三上皇配流という空前絶後の大勝利を収めた智謀の持ち主である姉弟が相手になるのだから。
そして、自分の歴史知識は、精々が高校日本史(+世界史)レベルに毛が生えた程度のモノ。
勝てる訳が無い。
それならば、そうだ、逃げよう。
日本国内では捕まるから、国外へ逃げるのだ。
自分の前世知識を使うのだ。
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