乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのですが、婚約破棄されたので自爆します
今から少し昔、貧乏貴族のワークス家が所有する土地から、火薬の原料が大量に採れることが判明した。
当時のワークス家は、これを千載一遇のチャンスと捉え、火薬を生産する事業を始めた。
結果、火薬は飛ぶように売れ、ワークス家は大貴族の仲間入りを果たした。
現在、ワークス家の長男として生まれたフィアン・ワークスは、生まれ持った優秀な頭脳から、次期当主として期待を寄せられていたのだが──
「フハハハハハ! 平民どもよ! 我が炎の魔術、とくと刮目するといい!」
生まれ持った優秀な頭脳は、明らかに変な方向へと成長してしまった。
真昼間、街の広間では、多くの住民がフィアンを取り囲むように集まっている。まるでサーカスの開演前のような、ある種の熱狂が立ち昇っている。
フィアンは周囲の安全を確認し、見物人を安全な距離まで誘導した後、真上を向いた筒に、火のついたマッチを落とした。
すると、筒から花火が噴き上がる。かなりの規模で、二階建ての屋根にまで届きそうだ。
あちこちから歓声と、賞賛の拍手を送られる。それらを一身に浴びるフィアンは、カッコつけているが、隠し切れない嬉しさが滲み出ていた。
やがて花火の勢いが衰え、完全に沈黙する。
「我が魔術のお披露目は、これにて終演だ。また次の機会を、心待ちにしているのだな!」
拍手と共に、新作花火の初披露は終わった。
フィアンは幼い頃、祭の出し物である打ち上げ花火を目にし、一目でその美しさに魅入られた。
アトリエ(という名の、ワークス家の古い倉庫である)で花火の実験を繰り返しては、街の広間でその成果を披露するようになった。
街の人々からは、派手な大道芸として好評である。
しかし、ワークス家の面々は、フィアンが花火を作ること自体を快く思っていない。次期当主の自覚を持ち、道楽はまうやめるように言っても、フィアンは当然聞く耳を持たない。今では諦めの境地に達している。
フィアンは10代半ばから、自らを炎の魔術師と名乗るようになり、より一層花火の研究に精を出した。才能がある上に、患ってしまったので、もう誰にも止めようはなかった。
「ん……?」
次々と住民が立ち去る中、フィアンは、一人の少女がその場で留まっているのに気づく。
高価なドレスを着こなした、いかにも身分の高そうな少女だ。
「あの…… 花火、とてもお綺麗でしたわ。次のお披露目はいつになりますの?」
「ほう、我が魔術の美しさが分かるとは、中々の審美眼を持っているようだ。だがすまない、次はいつになるのか俺にも分からんのだ。新しい魔術が完成し次第、この広間で披露しているのでな」
「そうですか、それは残念ですわ。フィアン様の花火を、もっと見たかったのに」
「む……? 何故、我が名を知っている」
「申し遅れました。私、シオン・プローエクスと申します」
「そうか、プローエクス家の令嬢か! 道理で、俺の名を知っているわけだ」
フィアンは、ワークス家きっての変人長男として、貴族間では有名だった。
「次の花火を見るには、偶然時期が合うのを願うしかありませんわね。毎日、この広間に来るわけにはいきませんもの」
「ふぅむ…… そこまで我が魔術を見たいのであれば、我がアトリエに招待しようではないか。我が魔術の一端と、茶くらいなら出してやるぞ」
「いいのですか!? ありがとうございます、是非とも参りますわ!」
喜ぶシオンを見て、フィアンは内心そっと胸を撫で下ろす。無下に断られたら、さすがに精神的ダメージを負うところだった。
貴族から変人と噂されている手前、貴族の女性から花火を褒められるのは、初めての経験であった。
フィアンからすれば、その提案は単なる気まぐれだ。
しかし、この出会いが、二人の運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も知る由のないことである。
†
それからというもの、シオンは頻繁にフィアンのアトリエに足を運ぶようになった。
今やシオンは、花火を見せてもらうだけでなく、花火を作る手伝いまでするようになった。
このまま平穏な日々が続くと、思われたのだが──
「あ〜…… その、助手よ、元気を出せ……」
アトリエのソファーに座るフィアンは、困った表情で、隣に座るシオンの表情を窺う。
シオンが婚約破棄されたのだ。しかも、婚約を記念するパーティーで。
婚約破棄の理由も、ふざけたものだった。婚約相手のサミュエルには、婚約する前から好きな女がいて、やっぱりその女を忘れられないから婚約破棄したのだ。
それでも、シオンは怒ることもせず、そのまま婚約破棄を認めた。
「私は平気ですわ、フィアン」
シオンの様子は、普段と変わらないように思えるが、強がっているに違いない。
「くそ、サミュエルの野郎…… あいつの家に新作の花火でも打ち込んでやろうか……!」
「やめてくださいまし。折角の新作なのに、そんなことに使う必要はありませんわ」
「分かっている! それでも、助手がこのままやられっぱなしなのは悔しいじゃないか!」
そう言った直後に、フィアンはばつが悪そうに頭を下げる。
「……すまない。助手に怒鳴ったって、どうにもならないのにな。助手が忘れろと言うのなら、俺も忘れよう。だが、堪えられないほど辛かったら、いつでも言ってくれ」
「……ええ、ありがとうございますわ。この件については、もう忘れてくださいまし」
それからというもの、フィアンは不器用ながらも、どうにかシオンを励まし、元気付けようと尽力した。
だから、シオンが何かを決意した表情にも気づけなかった。
†
ある教会で、サミュエルとアニーの結婚式が挙げられた。
式はつつがなく進み、まさに今、二人が誓いのキスを交わす直前である。
「それでは、誓いのキスを」
サミュエルの唇が、アニーの唇に重なる寸前、それを遮るように扉が開く。
何人もの視線が、開いた扉の先に集まる。
そこにいるのは、シオンだった。
予想外の人物の登場に、会場がどよめく。
しかしシオンは、それを一切気にすることなく、カーペットの半ばまで歩き、立ち止まる。
「何をしに来たんだ、シオン……!?」
シオンが結婚式に来た目的を考えて、サミュエルの頭に真っ先に思い浮かんだのは、婚約破棄された報復に、結婚式を台無しにすることであった。
シオンが今ここに乗り込んだ時点で、その目的は達成されたも同然である。
だが、結婚式を台無しにされた怒りよりも、この状況に対する驚きが勝った。
大人しい性格のシオンが、実際にそんな行動を起こせるとは思わなかった。それに、お互い家の言いなりになって婚約しただけの関係で、そこに愛はなく、ここまでする動機は無いはずなのだ。
「……」
シオンは無言のまま懐に手を入れると、何かを取り出した。
それは手の平サイズの物体で、上部には安全ピンが付いている。
この形状は、まるで── そう、まるで爆弾のようではないか。
「ちょ…… な、何を……!?」
「全員、動かないでくださいまし!」
シオンは安全ピンに指をかける。
それだけで、結婚式場にいる全員の動きが、魔法にでもかかつたように固まった。
「ご安心を。私は誰も傷つけるつもりはございません。ですが、少しでも私を捕まえようとしてみなさい。すぐにピンを引き抜き、自爆いたしますわ」
どれだけの威力がある爆弾かは不明だが、あの至近距離で爆発したら、まず間違いなく命はないだろう。
シオンが冗談でこんなことをするとは、考えられない。あの爆弾は本物と考えるべきだ。
アニーは顔面蒼白で動揺し、とてもではないが話せるような状態ではない。
シオンの説得は、サミュエルに託された。
「おおおお、おち、おちち、落ち着くんだシオン……!」
「サミュエル様よりは落ち着いてますわ」
誰もが青褪める中、シオンだけは、ガン決まりの表情でサミュエルを睨みつける。
「どうして、こんなことを……!?」
「……私は、たとえ始まりが愛のない関係でも、これからサミュエル様を愛そうと思っておりました」
「!」
「誤解しないでほしいのですが、サミュエル様が然るべき手段で婚約破棄なさるなら、私は受け入れましたし、こんなことをしようとは思いませんでした。それなのに、よりによって、あんな公の場で婚約破棄なさるなんて! 耐え難い屈辱です、許せませんわ!」
「うっ……!?」
「この命をもって、貴方たちに永遠の罰を刻めるなら、それで本望ですわ」
シオンとの婚約を記念したパーティーで、婚約破棄を言い渡したのは、完全に勢いに任せた行動だった。一刻も早くアニーと結ばれたい焦りと、シオンとはどうせ愛の無い関係だという先入観が、そうさせたのだ。
普通、婚約破棄をするのなら、当事者間で粛々と取り行うべきである。
シオンに何かしらの非があるのならまだしも、そうでなければ、あの場で高らかに宣言するものではない。
自らの軽率な婚約破棄が、どれたけ深くシオンの心を傷つけたのか、サミュエルは今になって、ようやく理解した。
「すまなかった、シオン! 俺が全面的に悪かった! だから頼む、自爆なんてやめてくれ!」
サミュエルは地面に膝を着き、頭を下げる。
このままシオンを見殺しにしたら、サミュエルは一生消えない罪を背負い、罪悪感に苛まれるだろう。
しかし…… いや、だからこそ。シオンの表情は、冷ややかなものだった。
「謝るのは、サミェエル様だけですか?」
シオンはそう言うと、アニーに視線を送る。
(謝れ、謝るんだアニー……!)
「あっ…… も、申し訳…… 申し訳ありませんでした」
頭を下げる二人を見て、シオンは小さく息を吐く。
「駄目ですわ。やはり、そのような謝罪では私の傷ついた心は癒えませんわ」
「どうすれば、自爆をやめてくれるんだ……!?」
「そうですねぇ…… 婚約破棄を撤回してくだされば、考えてさしあげますわ」
シオンの口調には、サミュエルの覚悟を試すかのような意図が隠れていた。
「っ、それは……」
しかし、サミュエルは言葉に詰まった。詰まってしまった。
シオンは落胆したような表情を浮かべる。
「そうですか、さようなら」
「待て待て待て待て! 待ってくれ!」
己の失態に気づいたサミュエルは、慌ててシオンを宥めるのだが──
「待ちませんわ」
シオンは一切の躊躇なく、安全ピンを引き抜いた。
安全ピンの抜けた穴から、勢いよく火花が噴き出す。
「きゃああああああ!!??」
「うわああああああ!!??」
結婚式場に悲鳴が響く。
もう遅い。誰にも爆発は止められない。
ある者は背を向けて走り出し、ある者は蹲り、爆発から少しでも身を守ろうとする。
しかし、ただ一人── シオンだけは、死が目前に迫っているにもかかわらず、普段と何ら変わりない表情で佇んでいた。
サミュエルは、そんなシオンから目を離せないでいた。シオンの散り様から目を背けないことこそが、せめてもの償いであると、無意識のうちに感じていたのだ。
誰もが、最悪の瞬間が訪れるのを覚悟する。
──PON!
鳴り響いたのは、爆発音とは到底呼べない、安っぽい音だった。
キラキラと輝く数本のテープが、爆弾の「蓋」を吹き飛ばして放たれる。ヒラヒラと宙を舞ったテープは、しばらくして地面に落ちる。
当然、シオンには傷一つない。無邪気で、心の底から楽しそうな笑みを浮かべながら、そこにいる。
今の彼女の様子を例えるなら、祝いの席でクラッカーを鳴らすお調子者そのものだ。
「……………は?」
誰もが呆然とする中、サミュエルの口から声が漏れ出る。
それは言葉にはならなくとも、ぐちゃぐちゃに混乱した心境を伝えるには、十分であった。
アニーに至っては、身構え過ぎたのか、虚仮威しにもならない音で気絶してしまった。
「くふっ…… ふふふふふふ! あはははははははは!」
シオンは声を上げて笑った。思う存分愉悦を堪能する、まさに悪魔のような笑い方であった。
「ジョーク、ジョークですわ! 自爆なんてするワケないでしょう! 本当は私、お二人の結婚を祝いに来ましたの! 改めて、ご結婚おめでとうございますわ! 愛そうと思った話もウソなので、気にしないでくださいまし!」
「…………え? えっ…… え?」
「その顔がぁ! その顔が見たかったんですの! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
そう言いながら、シオンはまだ笑っている。放っておけば、いつまでも笑っていそうな勢いだ。
シオンの正体は、とある乙女ゲームの悪役令嬢「シオン・プローエクス」に転生した転生者である。
その乙女ゲームは、全ルートを通してシオンが雑に婚約破棄されるので有名だった。
パッと現れ、攻略対象と婚約するのだが、すぐに攻略対象から「主人公が好きだから、やっぱり君と婚約はできない」と告げられ、出番を終えてしまうのだ。
悪役令嬢ながら不憫なのと、閃光のように現れて消えるキャラクター性がプレイヤーの心を掴み、シオンはネタキャラとして確固たる地位を築いた。
プローエクス家の指示で攻略対象の一人であるサミュエルと婚約させられ、そのサミュエルが主人公と接点を持っている時点で、婚約破棄される未来が待っていることを確信した。
サミュエルとの婚約をすんなり受け入れたのは、そのためだ。
悪役令嬢ムーブは自重して、穏便に婚約破棄されるつもりでいたのだが、乙女ゲームの運命からは逃れられなかったのか、やはり大勢の前で雑に婚約破棄されてしまった。
「いや…… えっ、ジョークって…… 貴様こんなことをして、ジョークで済むと思っているのか!?」
「あら! サミュエル様の婚約破棄も、同じくらい質の悪いジョークだと思いますわ! ジョークで終わっていたら、の話ですけどね!」
「ぬぐっ……!?」
サミュエルに婚約破棄された事情を勘案し、許されるギリギリのラインを攻めた末に閃いたのが、結婚式での自爆ドッキリだ。
この偽物の爆弾は自作した。クラッカーの原理を参考にした単純な仕組みなので、そう難しくはなかった。
ずっと、フィアンの作業を近くで見て、手伝いをしていたのだ。火薬の取り扱いなら、多少の心得は身についている。
フィアンの「花火を打ち込む」という言葉から発想を得た計画だが、おそらくこれ以上なく慌てふためくサミュエルたちを見れたので、大成功である。
「はぁ…… はぁ…… くふっ、ふふふ! はぁ…… はぁ…… ちょっと笑い疲れましたわ……」
時折噴き出しているが、やっとシオンの爆笑は収まりかけていた。後はもう、颯爽とこの場から立ち去るだけだ。
しかし、この結婚式場に、シオンも予想だにしない波乱が起きようとしていた。
シオンが現れた場面をなぞらえるように、再び扉が開く。
「ゼェ…… ハァ……!」
扉を開けたのは、なんとフィアンだった。全力で走ったのか、肩で息をし、顔には汗が浮かんでいる。
その登場はシオンにとっても予想外で、驚きを露わにする。共犯を疑われ、迷惑をかけることのないように、計画は誰にも話していない。
「フィアン、どうして……!?」
「ゼェ…… ゼェ…… やっぱり、ここにいたのか……!」
無事なシオンを見て、フィアンは一先ず安心するが、次に不可解な表情で周囲を見渡す。
誰も怪我をしていないければ、物一つ壊れていない。ただし、シオンを除く全員が、何とも言えない表情のまま固まっている。
「突然いなくなったと聞いたから、まさかと思ってここに来たんだが…… 何が起きているんだ……?」
フィアンはいつものようにアトリエにいると、プローエクス家の使いの者が突然訪れるなり、「シオン様は来ておりませんか!?」と聞いてきた。
何故シオンは今日いなくなったのか、疑問を抱くと同時に、その答えに思い至る。シオンは、サミュエルたちの結婚式で何かするつもりではないか。
息も絶え絶えの状態なのは、馬車を用意する時間を待っていられず、結婚式場まで走って来たからだ。
「それは──」
シオンは、何が起きたか…… というより、何をしたかを説明する。
「──みたいなことを、してですね……」
説明を終える頃には、フィアンの表情は完全に無になっていた。
それに気づかないほど、シオンは鈍くない。
不気味なほど静かだが、フィアンは間違いなく怒っている。怒りすぎて、逆に冷静になっているのだろう。こんな様子のフィアンは、初めて見る。
「シオン……」
フィアンに両肩を掴まれ、心臓が跳ね上がる。
恐る恐るフィアンの顔を見ると、怒りとは正反対の、弱々しい表情が浮かんでいた。
「どれだけ、どれだけ心配したと思っているんだ……」
その震えた声が、シオンの心を締め付ける。聞くまでもない、死ぬほど心配していたのだろう。
サミュエルたちに振り回されるのが自分だけなら、こんなことはしなかった。なんせ、この世界に生まれ落ちる前から、そうなる未来を知っているのだ。心の準備をする余裕は、十分過ぎるほどある。
しかし、シオン以外の人間には、そんな余裕など知る由もない。
特にフィアンは、婚約破棄されたシオンを、慣れないながらも精一杯気遣ってくれた。
自分のことはさて置き、フィアンを振り回されておいて、このまま泣き寝入りしていいのか?
そんなはずはない。だから、サミュエルたちに一泡吹かせようと決意したのだ。
「……本当に、無事で良かった」
「……ごめんなさい、フィアン」
自爆ドッキリを実行したことに、後悔はない。
後悔はないが、フィアンに余計な心配をかけてしまった。もっと良いやり方があったのではないかと、そう思わずにはいられない。
「それと……」
フィアンは、シオンの肩から手を離し、呆然と立ち尽くすサミュエルに視線を移す。
シオンに向けていた弱々しい表情から一転、怒りに満ちた険しい表情になっている。
その気迫に、サミュエルは思わずたじろぐ。
「アンタらにずっと言いたかったんだ。いいか? 次、シオンの心を弄んだりしてみろ。穴という穴に火薬をぶち込んで、汚ねえ花火にしてやるからな」
「え…… いやでも、シオンは大爆笑していたし、結婚おめでとうって……」
「あ゛?」
「すみません肝に銘じます!」
言いたいことを言えて、一先ず溜飲が下がったのか、フィアンは大きく息を吐く。
そして、何かを思い出したかのようにハッとする。
「……フ、フハハハハ! 覚えておくのだな! 次に炎の魔術師の逆鱗に触れたら、灰も残らん
と思え!」
普段のキャラクターを思い出し、高笑いするが、いつものようにそれを馬鹿にする者は誰一人としていなかった。
「では帰るぞ、助手よ! もうここに用はない!」
フィアンは当然のように真っ直ぐと、シオンに向けて手を差し伸べる。
「──ええ、帰りましょうか」
乙女ゲームにも、フィアン・ワークスは存在する。場のムードを盛り上げ、好感度を稼ぐアイテムである花火を作り、それを主人公に売るキャラクターだ。それも攻略対象ではない、単なるサブキャラである。
最初は、フィアンの作る花火が綺麗だと思い、もっと近くで見ていたいだけだった。それがいつの間にか、フィアンと共にいる時間が心地良く、大切なものになっていた。
シオンは微笑みを浮かべ、その手を掴む。
そう遠くない未来、この結婚式場でハート型の花火が打ち上がり、一大ブームを巻き起こすのだが、それはまた別の話である。